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【前編】今日と昨日と明日は違う世界―おさんぽBINGO®︎―

こんにちは、コハラです。
最近すっかり涼しくなってきました。
これから紅葉など、外を歩くのが楽しくなる季節がやってきますね。

本日は、そんな季節にぴったりの、いつものお出かけをもっと楽しいお出かけにする、「おさんぽBINGO」にまつわるお話です。

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実はこのプロダクト、サン・アドが考案した、子どもを持つ親御さんに人気の移動式ビンゴゲームです。おさんぽ中にこのカードを持ち歩き、絵柄にあるものを見つけたら穴を開けていくシンプルなゲームです。

サン・アドにはコミュニケーション視点で文房具を研究する文具研究会、略して「ブンケン」という文具ブランドがあり、いくつものプロダクトを企画・制作しています。普段広告をつくる者として感じていることを、通常の仕事とは切り離された「ブンケン」という活動の中で証明してみようという試みです。

今回はその「ブンケン」から生まれた、「おさんぽBINGO」について、チームのメンバーに開発秘話やこのプロダクトに込めた思いなどを聞いてみたいと思います。

【「おさんぽBINGO」について】
https://sun-ad.co.jp/works/osanpo-bingo/product/

【ブンケンHP/twitter】
https://bun-ken.jp/about/
https://twitter.com/bunken_official

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右から、クリエイティブディレクターの笠原千昌、アートディレクターの藤田佳子、アートディレクターの瀬古泰加


「おさんぽBINGO」に込めた思い

コハラ 発売から早くも8年が経ちました。「おさんぽBINGO」開発当時、どのような思いからこのアイデアは生まれたのでしょうか? 

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笠原 「おさんぽBINGO」は「お出かけをもっと楽しいお出かけに」というコンセプトのプロダクトです。当時、私も子どもと一緒に毎朝お散歩に行くルーティーンがあったのですが、子どもが歩ける時間と距離はだいたい決まっているので、子どもも飽きるけれど大人の自分も飽きるということがあったんですね。私もイヤだし子どももつまらなくなっちゃう。どうせ出かけるのだったら、なにか楽しいほうがいいよね、というところから始めたんです。

藤田 そうそう、そうでした。はじめからいいアイデアだと思って、自分がデザインをやりたいと思ったので、すぐにラフを作った。(笑)

笠原 「おさんぽBINGO」の特徴のひとつとして、今日と昨日と明日と、同じ道を歩いたとしても出会うものが変わるっていうところが発見なんですね。たとえば「水たまり」は雨が降った翌日にはあるけれど、晴れた日が続けば出会えないものだったりするから、そういう日々の違いに気づいていくということが面白い部分。

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藤田 開発の段階でおさんぽだけじゃなく、たとえば嫌いな食べ物を克服するビンゴになるといった感じで、いろんなアイデアが出てきたし、他の展開も割と最初から見えていたので、プロダクトとしてその後に広がっていきそうなイメージはありました。

瀬古 「おさんぽBINGO」は、通常のビンゴの「数字」を「絵」に変えただけで、使い方自体は皆が知っているから、買ってもらうお客さんに使用イメージを持ってもらうスピードが早いのもいいなと思いました。

笠原 その後、デザインに落として行く段階で、中身のアイコンを考えることが、簡単なようでめちゃめちゃ大変だったよね。アイデアをみんなでああでもないこうでもないと揉んで、それによって精度が上がっていった。

あえて分からなさを取り入れる

コハラ アイコンを考えるのが大変だったということですが、どのようなポイントで選んでいったのですか? 

藤田 まずはおさんぽで目に入りそうな「モノ」や「コト」をリストであげたのですが、それだと普通のものばかりで面白みがなかった。そこで、選んだ「モノ」や「コト」に対して何かしらクセのあるものをアイコンで入れようということにして…例えば春だったら、「かふんしょう」でマスクをした人だったり、「おはなみ」のアイコンをビールにしたりと、イラストで工夫したり、ストレートな表現に留まらないようにアイコンを考えていきました。

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コハラ 子ども用のBINGOですが、わかりやすいものばかりではない。子どもがこれはなに? と思うものも含まれているんですね。

笠原 そうそう。小さいときにおさんぽに行くとこれなに? と、質問攻めをしていろんなものを覚えていく過程が子どもにはあるので、その役割も果たせるというか。街を歩きながらその季節ならではの出会いをして、学びになっていくというのもひとつよくて。「おさんぽBINGO」には、アイコンのユニークさもありながら、リアルなその場の匂いや手触りなども知ってほしくて、知育の要素も入っているんです。実はいろんなものが詰まっています。

 
藤田 おさんぽする人同士が会話するきっかけを作ることも、意識していますね。

笠原 たとえば、「かばしら」がわからない子どもも多いかもしれないけど、「お母さんが小さいころは蚊がたくさん集まって柱のようにみえる、『蚊柱』というのがあったんだよ」といった話もできる。この「かばしら」に限った話ではないですが、なにかの会話が生まれるきっかけのようなものを、ちりばめているんですね。

コハラ これもわかりやすさの話に近いかもしれませんが、子ども向けなのに、写実的なイラストにしたのは、どういう意図があったのでしょうか? 

藤田 子ども向けのプロダクトということで、デフォルメされたイラストなども検討したのですが、実物と見比べたときにイラストと同じ認識が持てるもののほうがいいというところに至ったんです。ただし、写真にすると解像度が高すぎるというか、植物図鑑のように写実的ではあるけれど、水彩のようなやさしいタッチのイラストくらいだと生っぽさも消えて、見る人にとっても好奇心がそそられて面白いだろうな、と思って。

瀬古 ステキな写実イラスト、ちょっと考えただけでは思いつかないユニークなアイコン、指で押した時に気持ちのよい抜き加工。類似商品が出てきたりもしているけれど、真似されたって動じないでいられるこだわりが詰まっています。

コハラ 発売から8年。いまでは「おさんぽBINGO」はたくさんの種類を発売していますが、スタート当初からの変化はありましたか? 

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藤田 当初はいつものお出かけが楽しくなるためのツールというところがあったのですが、気仙沼のプロジェクトの際に大きな変化を感じました。アイコンを、おさんぽ中に出会うものから、その土地ならではの「モノ」や「コト」に変えることで、そこにしかない魅力や価値を伝えるツールに変わるという転換がありました。この考え方は、日本だけでなく世界の観光にも広がっていけるし、観光目的だけではなくて、その地に住む人に対しても、自分たちも知らなかった地元の魅力を知って地元愛を育むきっかけになる。それがひとつ、また「おさんぽBINGO」が広がりを持つきっかけになったな、と思いました。

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見ないと見えないものに触れること

コハラ きょうお話をうかがう中で、「おさんぽBINGO」には気づくこと、知ることのきっかけが詰まっていると感じました。

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藤田 ここ10年くらい自分で感じたことですが、いろんな情報はインターネットを通して摂取できている。ネット上に情報のすべてが詰まっているような気がするし、その彩度の高さというか流動的に移り変わるいまの情報をつかむことに満足しがちです。本当は体験しないと得られないことだったり、自分の身の回りの些細なことにも面白さが詰まっている、という気づきがなかなかできていないんじゃないかと思うんです。

瀬古 どうしてもテレビやタブレットなどのつるつるした世界の中できれいに編集されたものごとを見たり、知ったりすることが多くなってしまっているので、ざらざらした感触はとても大事だなと。

笠原 おさんぽって、あるゆっくりした時間のことを指してるんだけど、車で移動したら見えないものが歩くと見えてくる、といったように、目に入ってくるものって、実は自分から見ようと思わないと見えてこない。目の前に見えているスズメのことを、「ああ、スズメね。知ってるわ」というのは、スズメであるという情報は入っていたとしても、それを触ったときの温かさであったり、ちょっとした匂いだったりとか。リアルじゃなくてはわからないことも知ってほしいな、ということも思っています。

藤田 このプロダクトがあることで、いつも何気なく歩いていたところに宇宙的世界が広がっていた、みたいな発見につながるといいのかなと思うことがあって、葉っぱひとつとってもそうだし、目で見て耳で聞いて、五感を通して知れば知るほど、自分の感じ方次第で、身の回りには面白いことがたくさんあるんだ、と。


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おさんぽというゆっくりとした時間の中で、今日と昨日と明日の違いに気づく。そんな当たり前のようなことが難しくなっている世の中をちょっとよくしたい。そのような思いからできたこの「おさんぽBINGO」、人気の秘密が分かったような気がします。普段は広告を作る私たちだからこその視点も多く取り入れられていることがわかりました。

後編では、「ブンケン」というプロジェクトをベースに、広告を作る人がプロダクトを手がけることについて、そしてどのような思いでものづくりに取り組んでいるのかなど、クリエイターの考えにさらに深く迫りたいと思います。


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笠原千昌
クリエイティブディレクター。1967年生まれ。コンセプトメイキングから商品開発、店舗設計まで含めたトータルブランディングも得意としている。東京コピーライターズクラブ会員。TCC新人賞、ACC賞、N.Y.ADC賞、朝日広告賞、消費者のためになった広告コンクール、日経広告賞など多数受賞。
藤田佳子
アートディレクター。1984年生まれ。デザインの力で、物事の本質を楽しく可笑しく美しく、どこか気になるものに表現することを心がけています。JAGDA賞、ADC賞、ACC賞受賞。
瀬古泰加
アートディレクター。1986年生まれ。女の子の感性に響くもの、手遊びのある企画ものなどを得意としている。ACC賞受賞。
おさんぽBINGO®
2020年ACC賞デザイン部門でゴールド、ブランデッド・コミュニケーション部門でブロンズ、おもてなしセレクションを受賞。
ご購入はこちらから 
https://bun-ken.jp/product_category/osanpobingo/
ブンケンHP 
https://bun-ken.jp/about/
ブンケンtwitter 
https://twitter.com/bunken_official

おさんぽBINGO®は発売当初、web販売のみでした。しかも(いまだに)広告費ゼロという状況ですが、たくさんのお客様やメディアに愛される結果となりました。これからも変わらず、ブンケンらしいモノやコトをお届けしたいと思っていますので、ご期待ください。 (プロデューサー 徳永あかね)


*サン・アドHP:https://sun-ad.co.jp/

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写真・大森めぐみ (サン・アド)
文・小原早織 (サン・アド)