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オレンジジュースがあって良かった
社会人になって、はじめての夏。
地元に帰省できなかったお盆は、これがはじめてです。
東北の夏の涼しさ、おばあちゃんちのにおい、酔っ払った大人たちの笑い声。
観光業に就職してしまった私にお盆休みなどある訳がなく、今年は何もかもがおあずけです。
しかも、お父さんもお母さんも、愛犬まで連れて、家は4日間すっからかん。
大学生のときはそれでも「自由だ!!!」なんて思っていたけれど、今のわたしは少しちがいます。
からっぽになった家でひとり過ごす日曜日は、なんだか物足りなくて。
好きなアイスを買って、コーヒーも淹れて、YouTubeを見てごろごろ。
おひるごひんは、お母さんが置いていってくれたちょっと高めのレトルトハンバーグ。
美味しくて、贅沢で、充実して、それなのに。
いつもならソファにいるはずの愛犬の寝息が聞こえない。
テレビの前でワイドショーに参加するお父さんの大きな声も、聞こえない。
お母さんがバタバタ家事をする音も聞こえない。
大好きなラムレーズンアイスをスプーンですくいます。
舌に伝わる味は美味しいのに、どこか味がしない。ひとりだとこんなにも食欲が湧かないのは、なぜでしょう。
悲しくて寂しくて、なんだか物足りない。
せっかくの休日なのに。明日は13時間労働という、過酷な日が待っているのに……。
その寂しさのせいか、お休みを満喫できないもどかしさからくるイライラのせいか、せっかく会ってくれたすきなひととまで喧嘩してしまって。
わざと傷つけるようなことを言って、言われて、大泣きして、ボロボロになっておうちに帰ってきました。
冷蔵庫には、お母さんが私を思って置いていってくれた、大量のレトルト食品。
どれも美味しそうなパッケージなのに、食べる気がしなくて。するとその奥に、オレンジ色の紙パックが見えました。
「あ、オレンジジュース!」
お宝を見つけたように、私はつぶやきました。
昨日の夜、お仕事帰りに無性に飲みたくなって買ってきた、紙パックのオレンジジュース。
結局昨日は飲まなかったけど、冷蔵庫に入れてあったんでした。忘れてた。
オレンジ色の紙パックに、可愛い水玉のストローを刺して、ひとくち飲む。
じわ~っと、オレンジの甘さが口に広がります。
休憩が貰えずの13時間労働、
大好きな先輩の退職、
生理前の言いようのないイライラ、
唯一の安全基地である家には誰もいない、
だいすきな彼とは大喧嘩…………
たくさんのストレスと涙でくちゃくちゃになった心を、オレンジジュースの甘さがほどいてくれます。
オレンジジュースがあって、良かったあ。
心の底から思いました。
彼に、謝ろ。
「……あ、もしもし?さっきはごめんね。うん。お友達とバーベキュー?楽しんでね。……うん、おやすみ。」
電話を切って、オレンジジュースをもうひと口。
あしたも、がんばろう。