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ドキュメンタリー映画『Life work of Akira Kurosawa黒澤明のライフワーク』の原点に起きた著作権侵害事件

40年前に黒澤エンタープライズが著作権者が持つ著作権を侵害して、私とカメラマンが1年かけて記録した150時間に及ぶ『乱』の撮影現場記録ビデオを何の対価も支払わずに持ち去り、『メイキングオブ乱』というビデオパッケージを作って販売した。
その後もその素材を使ってテレビ特番やテレビCMを製作した後で素材を著作権者に返却せず、行方不明にしてくれたおかげで『Life work of Akira Kurosawa 黒澤明のライフワーク』が1本の映画として誕生することができた。

それには40年という時が必要だった。
もしこの事件が起きていなければ『乱』の記録素材は1本のビデオパッケージにしかならず、すぐに廃盤となって人々の記憶から消えるしかなかったことだろう。
それが1本のデジタルシネマとして、国内外で劇場上映される可能性を持つに至ったのは、2025年の今だからこその話だ。
1985年当時、ビデオ撮影された素材はどんなに内容が優れていても、キネコ処理してフィルムに焼きつけなければ映画にはならなかった。4対3の低画質で、見るに堪えない映画もどきにしかなり得なかった。
撮影現場の黒澤明監督を1年間密着取材した素材が紛失して、13年後に発見されたものの再生機が廃盤で再生できず、さらに10年後に70時間だけがDVDにデジタル化されたが、資金不足で2020年までは1本の映画にするという企画さえ出なかった。

それが著作権者の河村が癌の宣告を受けたことで映画化を決意して、パソコン1台で編集できるという時代の恩恵にあずかり、2022年に40分の短縮版を国際映画祭に出品、10か国で受賞して91分版の完成にこぎつけた。
これが映倫の次世代への映画推薦委員会の目に留まり、若い世代に見せたい映画として推薦されるに至った。
高円寺シアターバッカスでの上映を皮切りに複数のミニシアターで劇場公開。観客の声を聞いて改良を重ね2024年の英語字幕版はニューヨークの国際映画祭ゴールドアワードでグランプリを、日本語音声リマスター版が日本映画ペンクラブで奨励賞を受賞するに至った。
その原点に黒澤エンタープライズの著作権侵害事件があったのだから、この映画がたどった運命は不思議としか言いようがない。

そして今、ベルリン国際映画祭の日本映画販売ブースで、この映画は海外のバイヤーに紹介されている。

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河村光彦
ありがとうございます。https://tokyowebtv.jp/