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BFC オープンマイク 094


「あんな年」まで生きてしまった叔母に捧ぐ

 
 私の両親はもうとうに亡くなったけれども
父が八十六、母が八十三の時だったけれども

二人そろって少し惚けてきていて、それは私や兄の将来の足枷となるのではないかと戦々恐々とし、近所に住んでいた叔父夫婦も、叔父は既に亡くなっていて義理の叔母だけだったけれども。
叔母は自分も巻き込まれるのではと心配し、心配は嫌悪感に変わり、「あんな年まで生きていたくないわねぇ。あなたたちも大変よねぇ」と私が娘であることを忘れたように零していた。
それでも人は死ぬ。両親もそうしてそこそこの年でちゃんと死んだ。

 叔母は。まだ健在だ。すでに疎遠になり、時折、玄関先に幽霊のように立っているのを見かけるだけなので健康に存在かどうかはわからないが生きている。多分、もう九十も後半、そろそろ百歳になるはずだ。

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椎名 雁子-kairko shiina

BFC2 オープンマイク 
094 「あんな年」まで生きてしまった叔母に捧ぐ


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