なんてことなかった竜巻
なんてこった。
なんてこった、としか言えない心情だ。
ある日の午後、農園で一人、作業をしていた時のこと。
それは突然起こった。
なんの前触れもなく、激しい突風が身を襲ってきたのだ。
ただの突風ならまだいいのだが、激しい突風は10秒以上も続き、
直立していた周囲の作物たちは、なすすべもなく真横に倒されてしまった。
そんな中、作業していた私自身も、飛ばされそうになりながらも、なんとか身を屈め、恐るべき突風が去ってしまうまで、何もできないでいた。
風が弱まった瞬間に、真上を見上げると、枯葉やら枝やら砂埃が舞い上がっていた。
それを観た瞬間に気づいた。
「竜巻だ・・・・。」
一瞬、死を感じた。
幸いにも私自身に害をなすことはなく、それは去っていった。
急ぎ、農園を出て、その姿を捉えようとあたりを見渡すと、砂埃が激しく渦巻いている姿が、50mほど先の畑に確認できた。
初めて目にした竜巻だった。
その姿は、龍のように見え、自然の脅威そのものに見えた。
圧倒的な力で、目の前のモノを力づくで薙ぎ払っていく。
それを誰も邪魔などできない。
まるで、進撃の巨人に出てくる大型巨人のような、そんな畏怖すべき存在にすら思えた。
その姿が見えなくなってしまったところで、農園の被害状況を見ると、あまりにも無惨な光景が目の前に広がっていた。
横倒しになった作物たち。
破れてしまった被覆ビニール。
散り散りになった資材たち。
まさか就農2年目でこうなるとは思いもしなかった。
しばらく呆然としていたものの、その後は色々な人に助けてもらった。
近隣の農家さんや、所属する組合の方々。協力会社や自治体の職員、そして家族。
自然災害に遭うということは、一見とても不幸な出来事のように思えるかもしれないが、こうした人の縁を感じられることは、とても救いになるし、ありがたいことで、とても幸福なことに思えてくる。
助け合いが大事、ということは言葉の意味としてよくわかっていたつもりだったが、いざ自分が助けられる立場になると、そのありがたさは深海よりも深く感じた。
ある意味、とても幸福なことのように思えてならない。
お世話になった方々には、必ず恩返しをしたい。
決して義務感ではなく、心の底からそうしたいと思えた。
なんてこった、ではない。
なんてことなかった、のだ。