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スズキのバイクとラーメン屋じゃないほうの山頭火

山頭火といえば今日日はラーメン屋の名前らしいです。そういえばすみれも一風堂もラーメン屋の名前です。年寄りの知っている名詞は片っ端からラーメン屋の名前になっていきます。
なお今日はラーメンの話はしないので、ラーメン屋で検索してきた人はそっ閉じしちゃってください。
さて、昔話ばっかりするようになったら人間終わりなわけですが、どうせ終わってるので昔話をします。
その日私はバイクで夜の東北自動車道を東京に向けて走っていました。鹿沼の山の中と記憶してたのですが、地図を見直すとなんか違うみたいです。栃木ICを過ぎたあたりだったのかな。
プシュプシュプシュ!とエンジンが良からぬ音を立てました。次いでカラカラカラカラ!と渇いた音が!!そしてスロットルを開けてもエンジンが吹き上がらなくなりました!
あんな恐怖を感じた瞬間は他にありません。何せそのとき追越車線を走っていたわけなのです私は。トラックを追い抜くために加速をつけようとした瞬間でした。エンジンが焼き付いたのです。
どうやって走行車線に戻れたのか、記憶が飛んでいますが戻れました。交通量は結構ありました。なるべく左端に寄ります。スピードメーターの針は40km/hなんかを指してるわけで、猛スピードの車に追い抜かれていきます。おまけに雨まで降ってきました。下りると決めた佐野藤岡ICまでが恐ろしく遠く感じられました。
佐野藤岡ICで下りると、そこは真っ暗な田んぼの中の道でした。人の影も車のテールランプも何もありません。栃木に土地勘はありません。国道4号か17号に出たいのですが、しかし何とか惰性で動いてるらしきエンジンを止めたくないので地図も見れません。ていうか真っ暗で方角もよくわからないのです。雨の中右往左往する私の脳裏に

うしろすがたのしぐれてゆくか

『行乞記』

の、山頭火の超有名な句がぐるんぐるん渦巻いていたわけです。
この句を初めて見たとき、酷い雨の中エンストしたバイクを押している人の図、が浮かんだのでした。自分がまさしくその状況に陥った、ていうかバイクを押すに至らず40km/hでダラダラ走れているだけまだマシなのでした。
そんなこともあって、というわけでもないのですが、山頭火ってバイクだよね、という話をバイク仲間に振ると、あーそういやバイクっぽいよね、という話に大抵なりました。俳句とバイクの駄洒落じゃねーぞ。軽いんだよ山頭火。深刻ぶってるけど。そしてこれは褒めてます。
句集草木塔に収められてる全然有名じゃない句に、こんなのがあります。

たばこやにたばこがない寒の雨ふる

『草木塔』

まんまやないかい!ていうかエンジンが焼き付いて悲しい〜、とか言ってるのとどこが違うのだこれ。
ここは私が何の根拠もなく好き勝手言うコーナーなのでなんと金子兜太先生(山頭火研究の第一人者です)にも文句つけますが、金子先生はバイクに乗らないからわからないのです多分!山頭火は全然ストイックな人でも真面目な人でもないのです(褒めてる)。モータリゼーションの進化した状況でわざわざ歩く旅なんてしないはずです。かといって車に乗るほど吹っ切れてもいないからバイク。それが一番似合います。半世紀ぐらい後に生まれていたらたぶんバイク乗りになったでしょう。
山頭火はバイクっぽい、と考えたのは私や私の周囲のバイク乗りだけでなかったようで、スズキがこんな素敵なCMを作っています。

SUZUKI VS750 IntruderのCMというより、バイクライフそのもののCMという位置付けのものだったと記憶しています。
山頭火のすべての句の中で、スズキのCMにも使われたこれがベストだと思っています。

さて、どちらへ行かう風がふく

『草木塔』

深刻ぶることもやめてストイックなふりをすることもやめて、ただ道を楽しめば良い。どこを目指すのか、どの道を選ぶのか、今日どこまで走るのか、全て自由だ。まさしくバイクの楽しみと重なります。
とは言ってもツーリング最終日には家に帰り着かなければならないわけで、佐野の田んぼの中の道で右往左往していた私が当時住んでいた東中野に帰り着いたのは、深夜1時でした。そして8時間後の朝9時に普通に会社に行っていたわけなので、若いってスバラシイ。

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