朝になると鳴る音楽
私の旦那の同僚Aくんが、ある月曜日の朝に、亡くなった。
物腰の柔らかい人で、彼は20代半ばの独身だったが、子どもがとても好きで、私の息子の3歳の誕生日会に、我先にクマのぬいぐるみをプレゼントしてくれ、家族ぐるみで食事会などがあれば、真っ先に息子に声をかけてとても可愛がってくれた。息子もそんなAくんのことが大好きで、集まりがあるたびに、「A(あだ名)は来るー??」と親しく聞くくらいだった。
職場では、頭の良さから、経理関係をまかされていて、信頼もあつかったが、責任のある仕事のため叱責されることも多々あった。職種柄、わりと、自由が効かないブラックに近い職場でもあったので、自分で命を断ったのだろうと容易に想像できた。
葬儀の時、普段全く涙を流すことのない旦那が、なんで、なんで、と、言いながら嗚咽を漏らしながら泣いていた。息をするのもやっとというくらいだった。実は、私も初めて見た涙だった。旦那の目にハンカチをあてながら、行き場のない悲しみに胸が苦しくなり、一緒に泣いた。
Aくんの葬儀も終わり1週間ほどして、1番職場の近くに住む旦那が1番最初に出勤するようになった。
車から降りて、事務所の鍵をあけようとしたら、ふと中から音楽が聴こえることに気がついた。
先に誰か来てる?でもまだ鍵があけられていない。事務所の鍵を1番最初に開けたら、作業スペースも奥の方にあるので、みんなが出入りしやすいよう、いつもドアは開けっ放しだ。
駐車場に車はなかったけどなぁと、不思議に思いながら、沖縄らしく飲みが多い職場でもあったので、近くで飲んで、家に帰らず誰かが事務所で寝泊まりすることもたまにあるし、それも許されている。寝坊するくらいなら、事務所で寝たほうがいい。という同僚も多かった。
「おーい。」
声をかけ、鍵をあけドアノブを回し、事務所に入った。
そこには誰も居なかった。
Aくんは、生前、朝イチで会社に来て、お気に入りのCDを割と大きめにスピーカーから流しながら、書類をまとめ、作業工程にうつっていた。
目の前で鳴っているCDは、Aくんがいつも流していたお気に入りの曲だった。
旦那は不思議と怖くなかったらしい。何故か、Aが仕事をしに来ている。そう思ったそうだ。
旦那は誰もいない空間に向けて
「A、もう、仕事に来なくていいんだ。疲れただろう。ゆっくり休め。」
と声をかけて泣いたそうだ。
そう声をかけたからだろうか。その後朝、CDが勝手に鳴っているようなことはなかったそうだ。
何年か時間がたって、旦那の職場の飲み会があった時に、旦那が話してくれた話。本当にいい子だった。今でも生きててくれたらなぁ、もったいない人を亡くしてしまった。と、みんなで思い出してしんみりしていた。