頂き女子事件の概要
頂き女子事件とは、自称「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣被告が考案した恋愛詐欺手法「頂き」をネット上で販売・共有し、詐欺を行う女性たち(=頂き女子)を増やした一連の事件です。2024年6月時点で、渡邊真衣被告と家田美空被告の2名が逮捕されています。
頂き女子事件の特徴
頂き女子事件は他の恋愛詐欺とは異なる独自の特徴を持っています。
事件の特徴①:渡邊被告の独自マニュアルの影響力の大きさ
渡邊被告のマニュアルは、男性心理を巧みに利用した巧妙な手法が特徴でした。ターゲティング、ギブアンドテイクの心理の利用、アフターケアの重視、そしてきめ細かさといった要素が組み合わさり、被害者を騙すための完全なガイドブックとなっていました。特に、弱者性の高い男性をターゲットとし、依存心を高めて金銭を引き出す手法は極めて巧妙でした。
マニュアルの特徴①:こうかつさ
手法の全体像
渡邊被告のマニュアルからうかがえるこうかつさには以下のような4つの特徴があります
こうかつさ① :ターゲティングの重視
詐欺が成功しやすいターゲットとして「女性に不慣れで孤独感があり、ギバー精神の高い男性」が選ばれていました。こうした弱者性の高い男性は、詐欺の被害に遭いやすいため、特に優良なターゲットとされました。具体的には、風俗、パパ活、マッチングアプリなどを通じて、こうした男性に出会い、関係を築くことで詐欺行為を行っていたのです。
こうかつさ②: ギブアンドテイクの心理の利用
詐欺行為の初期段階で女性が積極的に男性をもてなすことで、男性の返報性を刺激する手法が用いられていました。この積極的な関わりにより、孤独な男性の依存心を高め、彼らをコントロールしやすくするのです。こうして「無害ガチ恋状態」に誘導し、上下関係を築くことで、男性から金銭を引き出すことが容易になっていました。
こうかつさ③: アフターケアの重視
「アフターケア」が強調されていました。渡邊被告たちは、金銭を受け取った後、被害者が警察に通報するなどのトラブルを避けるため、盛大に感謝の意を示し、すぐに関係を断つのではなく、ゆっくりとフェードアウトする手法を取っていました。ブロックせずに連絡を取り続けることで、被害者に反感を抱かせないよう配慮していたのです。この巧妙なアフターケアにより、被害者が詐欺に気付かないまま関係を続けることができました。
こうかつさ④: きめ細かさ(設定、話術など)
詐欺行為の巧妙さがきめ細やかな設定と話術に現れていました。女性たちはお金目的で近づいたことを悟られないよう、田舎好きや質素な生活をアピールしていました。また、虚偽の悩みを男性に打ち明け、「お金が払えないと大変なことになる」という罪悪感を利用して、男性から「お金を出すよ」と言わせるように仕向けていました。こうして、男性の同情心や罪悪感を巧みに操作し、金銭を引き出していたのです。
マニュアルの特徴②:罪悪感を消す言い回し
渡邊被告のマニュアルには、詐欺行為に対する罪悪感を軽減する言い回しが含まれていました。金銭搾取を男性の主体的な贈与や女性が与えた幸せの対価と見なし、詐欺を正当化しています。また、中年男性よりも若い女性が金銭を使う方が有意義であると主張し、詐欺への抵抗感を薄めていました。
金銭搾取は男性の主体的な贈与である
金銭搾取は女性が幸せを与えた対価である
中年男性よりも若い女性がお金を使うことに意味がある
事件の特徴②:犯罪を助長する女子集団があった
頂き女子事件のもう一つの特徴は、犯罪を助長する女子集団の存在です。渡邊被告が作り出したコミュニティは、詐欺行為の手口を相互に学び合う場となり、犯罪へのモチベーションを高める効果がありました。このような集団は、詐欺行為を正当化し、犯罪への罪悪感を薄める役割を果たしていました。
頂き女子コミュニティの女性の特徴
集団効果①:詐欺の手口の相互学習
集団効果②:モチベーションのアップ(内集団の評価獲得)
(成果共有、達成感、承認欲求)
集団効果③:ストレスケアできる居場所
・ストレスの発散(クソ客、クソじじいへの愚痴)
・”女の子”の共同体意識
共同体をつくる上での共通言語
・共通の境遇:毒親、精神疾患、性的被害
・共通の言葉:「おぢ」「頂き」「じじい」
・共通の趣味:ホス狂い、売春、美容整形、薬物、かわいい女の子・キャラ
・共通の敵:性的魅力のない男(中年男性、非モテ男性)
集団効果④:反社会的な考えの共有(犯罪許容につながる文化)
・「おぢ」「女の子」という対立した世界観(ヘイト意識の助長)
・詐欺ではなく「頂き」だという認識(罪の意識の軽減)
・中年男性は加害的・無価値だという差別的な見方(ヘイト犯罪を正当化)
事件の特徴③:女性たちに詐欺をした意識が薄かった
頂き女子事件に関与した女性たちは、詐欺行為に対する罪の意識が希薄でした。彼女たちは、金銭の搾取を男性の主体的な贈与として捉え、自分たちが与えた「幸せ」の対価とみなしていました。また、彼女たちの中には、過去の被害経験から男性に対する復讐心を持ち、詐欺行為を正当化する者もいました。
罪の意識が低い理由①:金銭搾取は男性の主体的な贈与だと認識
罪の意識が低い理由②:金銭搾取は女性が幸せを与えた対価だと認識
罪の意識が低い理由③:群衆心理(人のやっていることをやった)
罪の意識が低い理由④:男性を加害者、自身を被害者とすることで攻撃を正当化
中年男性への差別や偏見
この事件を通じて浮かび上がったのは、社会に根強く存在する中年男性に対するヘイトと差別の問題です。頂き女子たちは、中年男性を無価値で加害的な存在とみなし、彼らをターゲットとすることで自分たちの行為を正当化していました。このような価値観は、中年男性に対する差別を助長し、さらなるヘイトクライムを引き起こす可能性があります。
"中年男性=無価値な存在"という見方
頂き女子事件の背景には、中年男性を無価値な存在と見なす見方がありました。中年男性を軽蔑し、彼らの存在や行動に価値を感じない態度が広がっていました。これにより、彼らを詐欺の対象とすることが正当化される風潮が生まれました。
"中年男性=加害的存在"という見方
頂き女子事件の背景には、中年男性を加害的存在と見なす見方がありました。中年男性を女性を不快にさせるさせる存在として敵視していました。
中年男性を支配対象とする見方
頂き女子事件の背景には、中年男性を支配対象とする見方がありました。中年男性をコントロールし、上下関係を築くことが詐欺行為を行う手段として用いられていました。また、彼らの貯金を無駄と見なし、女性がその金を有効に使うべきだという考えも、この支配的な態度の一部でした。こうした見方が詐欺行為を正当化する要因となっていました。
中年男性へのヘイト行為(侮辱、恋愛詐欺)
頂き女子事件における中年男性へのヘイト行為は、侮辱表現や恋愛詐欺の形で現れました。
中年男性を「ジジイ」「オス」と蔑称で呼ぶ
中年男性を価値のない存在または加害的な存在として認識することで、彼らを人間として見なさず、蔑称を使うことが正当化されます。この行動は、対象者の尊厳を傷つける人権侵害です。
そして恋愛詐欺へ
中年男性ヘイトの背景
中年男性ヘイトの背景①:被害者意識
頂き女子事件における中年男性へのヘイトの背景には、関与した女性たちの被害者意識が影響しています。彼女たちは過去の性被害や不快な経験から、男性全体に対する強い不信感と敵対心を抱くようになりました。この被害者意識が、詐欺行為を正当化する要因となり、中年男性へのヘイトが強まる結果となっています。
中年男性ヘイトの背景②:性換金で「クソ客」に出くわす
性換金の客の多くは、女性にとってよく知らない男性であるため、「クソ客」と遭遇するリスクが高まります。性換金の場では、「お金でしか女性と関われない非モテ男性」や「お金で女性を思い通りにしたい尊大な男性」と関わる機会が多くなります。こうした男性と、お金を受け取って性的に従う形で関わることで、女性は不快な経験を重ねることが多くなります。その結果、男性に対するネガティブな見方が形成されやすくなるのです。
中年男性ヘイトの背景②:男女分離主義
頂き女子事件の背景には、男女分離主義があります。女性同士の結束を強調し、男性を敵視することで、女性たちは男性に対するヘイト意識を強めていました。これにより、中年男性への差別や敵対心が助長され、詐欺行為を正当化する要因となっていました。
中年男性ヘイトの背景④:恋愛市場の権力差
少子高齢化により、若い女性の数が減少し、若い女性一人当たりの、男性が需用が増しています。さらに、SNSやマッチングアプリの普及によって、異性の選択肢が増え、出会いが自由市場化されることで、男性は商取引のようにドライに選別されるようになっています。この結果、恋愛市場において若い女性が明確に強者として位置づけられ、その対比として中年男性は魅力価値の低い存在として際立つことになります。
頂き女子事件の世間の反応に見る危うさ
頂き女子事件は、中年男性への偏見と差別が社会全体に広がっていることを浮き彫りにしました。SNSでは加害者を賞賛する声が上がり、詐欺行為を才能として評価する風潮が広がっています。また、中年男性の被害者に対してSNSでは冷ややかな反応が多く、中年男性の自己責任とするものが少なくなかったです。これらの世間の反応は、被害者の苦しみを軽視し、詐欺行為が正当化されて受け止められる風潮の再生産につながります。
加害者の才能を評価する人たち
頂き女子事件の発覚以降、一部の人々は加害者である渡邊被告や家田被告の才能や巧妙な手口を評価する声を上げています。特に、SNS上では「詐欺の天才」や「巧妙な詐欺師」として賞賛するコメントが見受けられます。これにより、詐欺行為が一種の才能として認識される風潮が広まりかねない危険性があります。
加害者のファン・支援者が増えている
さらに、渡邊被告には熱心なファンや支援者が存在し、彼女たちの行動を正当化しようとする動きが見られます。拘留中の彼女たちに対して応援メッセージを送る人々や、裁判の結果を不当だと非難する声もあります。こうした支援者の存在は、被害者の苦しみを軽視し、詐欺行為の再発を助長する可能性があるため非常に危険です。
↓増田ぴろよ責任編集の「ファンブック」
中年男性の被害が軽視されている
一方で、多くの人々は詐欺の被害者である中年男性に対して冷ややかな反応を示しています。「自発的にお金を払ったのだから問題ない」「幸せの対価として正当だ」といった意見がSNS上で散見されます。このような反応は、詐欺行為を正当化し、被害者の苦しみを軽視するものであり、非常に問題があります。
詐欺ではなく被害者の主体的贈与だとみている(被害者の意志の無視)
詐欺を「幸せを与えた」対価としてみている(対等な関係の売春化)
年の差恋愛(中年男性&若い女性)への偏見(自由恋愛や多様性の否定)
このように、「自発的にお金を払ったのだから」「幸せの対価だから」「年の差恋愛だから」といった理由で男性の被害を矮小化する意見が多く見られます。しかし、名古屋地裁の大村裁判長は、「被害者の中には生命保険を解約してまで金銭を工面し、ほぼ全財産をだまし取られた人もおり、その結果は重大だ」と認定しています。裁判所という公正な判断が行われる場所で、重大な被害として評価されているのです。
中年男性ヘイトは社会全体の問題
この記事では、頂き女子だけでなく、社会一般においても、「中年男性は加害的である」「中年男性は無価値である」「中年男性は支配的に扱ってもいい」「中年男性は若い女性と関わるためにはお金を払うべきだ」という価値観が存在することが明らかになりました。
このような価値観が広まっているのは、中年男性に対しては男女平等、自由恋愛、多様性といった基本的な正義が適用されないという差別的な扱いがあることが背景にあります。
「中年男性は加害的である」「中年男性は無価値である」「中年男性は支配的に扱ってもいい」という価値観は、中年男性に対する差別を助長するだけでなく、頂き女子事件のようなヘイトクライムも助長します。
「中年男性は若い女性と関わるためにはお金を払うべきだ」という価値観が広まると、男性が女性に関わるにはお金が必要だという不公平な状況を助長するだけでなく、女性が楽でお金を儲ける手段に夢中になるため社会進出を妨げ社会全体の衰退に影響します。
また、女性を性的な商品と扱ってもいいという社会の傾向を強め、女性差別の時代に戻ってしまいます。”需要と供給だから仕方ない”では済ませられません。政府・マスコミを通じた広い啓発が必要です。