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The Winning - この歳もIUちゃんと生きる
私はやっぱり、勝負をして勝っていくことが好きな人なんだと思いました
あの時と言っていることが変わっている。
前はそんなこと言っていなかった。
あるアイドルが発言した言葉に対し、ファンたちが上記のように批判していた場面を見たことがある。
私たちは主張を変えると、矛盾しているだとか流されやすいだとか、マイナスに受け取られてしまいがちだ。何年も言っていることが変わらない確固たる人。確かにそんな人はかっこいい。
けれどかといって、コロコロ変わっていく人・変化していく人というのは、時に世論がそう結論づけてしまうように、地に根を張らない一貫性のない人なのだろうか。
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6作目のEP
2024年に入ってすぐ、IUちゃんが6thミニアルバム「The winning」を発売した。
先行配信曲となった「Love wins all」はMVのゲストヒーローにBTSのVを招き、また映画のように凝ったストーリー性と美しい音楽でとても注目を浴びていた。
この曲を発売するずっと前からIUちゃんは雑誌で「私はこう見えてとても愛情深い人間だし、何か自分にとって大切なものを突き詰めていくと必ず愛に辿り着く」と話していたし、俳優としても評価されるきっかけとなった女優イジウンの代表作「Dear my mister」で人生で1番大切にしたいセリフに「愛さないからズルいんだ」を選んでいたし、今年始まったIUちゃんのワールドツアーでは毎公演最後に「憎しみよりも愛に集中できる人になりましょうね」と呼びかけてくれたけど、それもpalette活動期からよく言っていた言葉だったし、Love wins allはIUちゃんのこれまでの想いや考えが存分に詰まった集大成のような作品だったと私は思っている。
印象深い歌詞「さみしいの反対の言葉を見つけに行こう」というのも、2019年ごろのインタビューで、「歌詞を書いていて気づいたんですが、さみしいの反対語だけどうしても見つからないんです。そのくらいさみしいと言う気持ちは人間にとって普遍的な感情なんだと思いました」と言っていたのが思い出される。
私にとって先行曲Love wins allは、これまでのIUちゃんが点と点で結ばれる星座のような曲だった。
そうだよね、IUちゃんってそうだよね、っていうような。IUちゃんの、昔から変わらない確固たる一面を見たような一曲だったのだ。
欠かせないキーワード「歳」
今回の6thEPは、IUちゃんにとって30代になって初めてのアルバムである。
29歳の時にリリースしたアルバム「LILAC」は、20代に別れを告げる派手なお祭りみたいなアルバムにしたと言っていたIUちゃんが、30になって初のアルバムを特別に思わないわけがない。
冒頭に載せたインタビューで、やはり今回のEPは「30歳最初のアルバム」として伝えたいテーマを何にするかとても悩んだと話している。だからこそ、「勝利」というキーワードを思い浮かんだ時にホッとしたと。
IUちゃんはきっと、このホッとしたというのは、30歳のいいテーマが見つかって、作品の道標が見つかってホッとしたという意味なんだろう。実は私も、The winningという今回のタイトル名を聞いた時、とても「ホッとした」。でもそれは、IUちゃんとは異なる意味で。
10代のIUちゃん
このnoteを読んでくれている人がいるのなら、IUちゃんをどんな人だと思っているのだろう。
私がIUちゃんを好きになった時、IUちゃんはまだ10代だった。いまやアイユのパレットなどゲストを招く立場になっている彼女だが、私が好きになった時はまだ「アイドル」として色んなバラエティやトーク番組にゲストとして出演し、体を張ったり芸人たちからいじられたりしていた。
その頃のIUちゃんの印象は一貫としてとても「勝ち気」だった。
元気でハツラツとしていて、「私が学年で一番人気者だった」と高らかに笑いながらあっけらかんと語ったり、正直にプライベートを暴露しすぎてMCから慌てて止められたり。
歌手としてデビューすることになった事務所に合格するまでに合計20ものオーディションに落ちているのだが、「若くしてそんなに不合格を貰うと自信をなくしてしまわなかった?」という質問に、「なぜかなにがあったとしても最後には歌手になれるだろうという漠然とした自信があったから、落ちることが全然気にならなかった」と語っている。これはわたしがIUちゃんに「落ちた」一言なのだが、いつ聞いてもその肝っ玉にひどく感心する。
やりたいことしてみたいことに素直で嘘をつかなくて、まだアイドル歌手として曲を書いたりしていない頃も、いつかは自分の言葉を歌える歌手になりたい、作曲してみたい、ファンの人が堂々とできるような歌手になりたい!と、至る所で夢を語ってくれるような女の子だった。
この店は永遠に閉まらない
20代になり、かつて10代の頃に公言していた夢をめきめきと叶えていったIUちゃんは、確かに今思い返してみれば20代半ばで少し纏う空気が変わったようなタイミングがあった。
リメイクアルバムの収録時、カバーする曲を誰にも先に越されたくなくて発売するまでめちゃくちゃ焦っていたと話したり(※the flower bookmark 2収録曲:sleepless rainy night)、10周年の節目にファンへ感謝の曲を書こうとして気づいたら「結局私たち貸し借りのない関係だよね?その辺超えたらマナー違反だよstupid id」とゴリゴリにアンチへの煽り曲になってたり(※デジタルシングル:BBIBBI)、そんな闘志むきだしのIUちゃんからすこしうってかわって、完全に私の個人的な感想だけど、自分の気持ちとゆっくり向き合ったような、深い深い海の底から長い間開けてこなかった宝箱をゆっくり紐解いていくようなそんな作品の発表がつづいたように思う。(EP彫刻屋はその最たるものだと思う)
わたしはその時のことを、僭越ながら「ハツラツとした夢の多い女の子から、聡明で落ち着いた女性へ成長したんだ」と思っていた。
そんな中で発売されたThe winnig、そのアルバムを象徴するかのような第一曲名がshopperだったのだ。
まだわたしは、もっと手に入れたいの
「20代後半は本当に欲というものがあまりなかったんです。でも30代になってまた出てきて。ただ色んなことに疲れていただけだったみたいで、やっぱりわたしの本質的なところは昔と何も変わってないんだと思いました」
IUちゃんがそう語った時、私はなんだかとてもホッとしたのだ。涙腺が緩むほどに。
おかえり、と思った。
どんなIUちゃんも素敵だ。大好きだ。それはそうで当たり前なんだけど。だけどもやっぱり、私もどこか寂しかったんだと思う。好きになった頃と少し変わったように見えたIUちゃんを。
でもそうじゃなかったんだと気づいたと本人から聞けて、わたしはたった一つの小さいファンなだけなんだけれども、どの立場からの気持ちなのかもわからないけど、とにかくずっと会いたかった旧友に再会したような安心感を覚えた。
大好きだったあの頃のIUちゃんとまた会えた。"この店は永遠に閉まらない"という歌詞と一緒に。
23→32
華の23ってちょっと お嬢さんになったみたい
大人のふりしても適当に信じてね
스물셋 の歌詞の中に、華の23歳って歌詞があるんですが、23って数字の形が私には花のようにみえたんです。
韓国の年齢で23歳だった頃のIUちゃんはたしかに、燃えたぎっていたように思う。
Twenty-threeを発表した一つ前に、ModenTimesという第3集をリリースしていたIUちゃんだが、そのリパッケージアルバムで自作曲が初めてリード曲として収録された。(金曜日に会いましょう)
そのFridayのメイキング映像を見たことがあるだろうか。フィーチャリングに参加したIUちゃんと同い年の歌手、historyのチャンイジョンへのダメだし…いや希望要請が怒涛なのである。
いやこれじゃだめ!もっとこんな感じで歌って!
아니아니!が響くレコーディング室で、どこかチャンイジョンが小さくなっていくように見える。何か作品を作る裏側としては普通のことなのかもしれないが、とにかくそこにはいつものふんわりと優しそうに見えるIUちゃんの姿はなかった。あんなに甘い楽曲の制作時まさかこんなにスパルタだったなんてと驚くほどで、あらためて作品を作る人たちへのリスペクトが高まるビハインドザシーンだった。
また同時期のIUちゃんが、同期であるSHINeeのジョンヒョンに向けて「(16歳でデビューしたから)歌手活動してもう7年目で中堅歌手くらいなのに、23歳という歳のせいでキャリアと反してもっと小さくみられているような悔しさがある」「わたしたちは過大評価と過小評価の狭間でとにかく自分を表したくて、曲を書くしかない仕事中毒なところがとても似ている」と話したことがある。
あの頃のIUちゃんはと 誰もが認める綺麗な花として、とにかく早く咲きたかったのかもしれない。
そこから時を経て32となったIUちゃんの、23歳という曲へのアンサーソングが「Holssi(=胞子)」なのだ。
冒頭のインタビューに答えがある。
昔はとにかく咲きたかったんです。けれどこの歳になって、咲かない選択肢もあるんだと思うようになりました。
The Winningのツアーでは、23のmvでIUちゃんが食べていた23という蝋燭が立ったケーキを、32になったIUちゃんが順番をいれかえ32にする映像が流れるが、きっと今回のHolssiが23と繋がりがあることの象徴だと思うのだ。
ツアーのオープニングとエンディングのどちらも飾ったこのHolssiは、「わざわざ花になって咲かなくてもいい。咲く前の胞子の状態でもあなたは充分素敵なんだ」という、咲くことに一生懸命になっていた過去のIUちゃんと、一概に例えられない目に見えない大きな敵とたたかっている誰かに伝えたかったテーマなのかもしれない。
変わらないことと、変わっていくこと
数年前にLILACという超大作を出したばかりなのに、The Winningまで出せてしまうなんて本当一体どんな歌手だろう。
そんな歌手としての長く活躍する姿から、そして今回のアルバムから私が感じたことは、人はやっぱり変わっていく生き物だということ、そしてそれでも変わらない生き物だということだ。
個人的な話しになってしまうのだけれど、身近な人が言った言葉でとても印象に残っているものがある。
そのこと私の価値観を話したときに、私はその子に「私たち真逆だね」と言った。するとその人は「なにか軸が同じだから、真逆であることが測れるんだよ。何もかもが違ったら真逆であることにも気づかない」と言った。
その人が変わったな、自分が変わったなと気づけるのは、何か変わらない地盤があるからなのかもしれない。
IUちゃんはきっと、何かに勝ちたい、勝つことが好きなことは変わってないのかもしれない。
けどそれが時が経つにつれて、競争相手が時に世論や他者だったかもしれない過去を経て、今は自分自身と勝負しているとインタビューで述べた。
ShopperのMVにでてくる望遠鏡は、あなただけの勝利を探して欲しいという意味が込められているらしい。
今回のEPのテーマは、紛れもなく「勝利」だ。全ての曲にこのキーワードが入っている。
一貫して勝利にこだわるIUちゃんだけれど、きっと、勝利という言葉の定義、何を勝利とするかに昔とは違う意味を見つけたのではないかと思う。
他の誰かに言われたなにかじゃない、あなただけの勝利。
The Winnig のコンサートでIUちゃんはこう言った。
「何かに負けてしまいそうな日も、運命を憎むのではなく、どこかに愛を見つけられるようになりましょう。愛は全てに勝ちます。」
それでも時には 人生に負けてしまう日もあるだろう
また彷徨ってしまっても 戻るための道を知っている