2023年の僕に刺さったコンテンツにランキングをつける
2020年以来、毎年、「刺さったコンテンツ」をメモり続けて、年末にまとめてみています。何者でもない(映画を100本見たとかお笑い全コンテンツ見たとか、あるいは何かを推しているとかですらない)人間がまとめることに意義があるのではないか……という大義名分をつけた備忘録です。
引っ越しなどによる生活環境の変化もあり、今年は以前にもましてあらゆるコンテンツを全然見れない1年になってしまいました。来年こそは! サブスクでも映画館でも見ていく年にしたいです。
逆張りでも順張りでもなく、流行りのものを通っていないことは心底恥ずかしいことだと思っているので、『VIVANT』も『【推しの子】』も見ていない僕がつける順位そのものには本来価値がないという点も込みで、、、よろしくお願いします。それでは
選外
★映画・ドラマ
ヨーロッパ企画独特の色を大衆向けにドラマナイズした『時をかけるな、恋人たち』、違法時間航行者の取り締まりがメインなのに、「全ての辻褄を合わせる」をキーワードに、どんなタイムスリップをしてもその過去の延長線上に今があったというタイムスリップ観(=「全て運命」)が面白い。ある種の生の肯定。『リバー、流れないでよ』、短すぎるループものという大発見。最後のデウスエクスマキナ感もよりよきご都合主義。『日曜の夜ぐらいは…』は大きな展開も裏切りもないものの、序盤の暗い雰囲気を多幸感で包むラストが良い。全登場人物のことを好きになっているのが最高。
坂元裕二のネットフリックス専属契約第一弾『クレイジークルーズ』はかなり期待して臨んだだけに、整合性がつかない登場人物の行動と稚拙な演出……今回限りであることを祈ります。
★動画
話題の動画とかも全然見れなかった! 悲しいかな。最近はもっぱら「けんた食堂」のYouTubeショートを見ています。レシピを紹介するようでいて僕たちに作らせる気なんてないのがいい。
★記事
『後輩が配達先で立ちションした件で、ミーティングした日の話』『童貞喪失ものAVがあまりにもドキュメンタリー作品だった』どちらも心の底からの名文。『君の名は。』が流行ったときに分からないと言った鑑賞者がいたこととか、#ちむどんどん反省会 で演出上の瑕疵への批判を理解できない人とか、コントを見て変な感想を言う番宣タレントに共感できなかったんですが、ミルクボーイ駒場×こがけんの映画コラムを読んで色々と腑に落ちました。フィクションを見てきていないと、解釈するという土台に立たない場所にいるのだなと……。
★テレビ・ラジオ番組
番組名が変わってからあまり見れてない人間が言うのもなんですが、「トゲトゲTV」が終わったことはひとつの消失。「ツッコミビンゴ」みたいな企画だけで埋めてくれれば……と思うのですが、最近のバラバラのラインナップを見るに、お笑いフリークに刺さる番組を作るが最適解ではなくなったのだなあと思います。来年こそは話題になった番組くらいはさらいたいもの。
★お笑い
吉住『観覧客の養成施設』もトム・ブラウン『スナック』も最高でしたね。『M-1アナザーヒストリー』も最高。膨大な過去資料は懐かしいのはもちろん、数多の人生が交歓する瞬間の美しさを残酷に描いているのがいいですね。
★漫画
漫画を追う経験をしているわけではないのと、今年のコンテンツとして紹介することが微妙なので基本的にはWebで読めるコンテンツ中心です。山中美容室『地層の女』、話題になったなかではかなり面白かった。ブッ飛んだSFにせよ超展開のコメディにせよ、“日常の半径3m以内”の延長線上(あるいは登場人物が存在する世界線での日常)を大事にしている作品が好きなんだなと思います。
これは僕がフィクションを愛する理由(具体的な名を挙げるなら和山やまや藤岡拓太郎ですが)で挙げていたことなのですが、和山やまのインタビュー(日テレNEWS「マンガ賞を次々と受賞・和山やまにインタビュー「半径3m以内をいかに面白く描けるか」』)で言語化されていて感動しました。あるいはそこに登場人物がいるという実感がセリフに在るかどうか(これは坂元裕二の凄さ)。
★その他
今回は競技クイズ関係はこちらに落とし込むことにしました。ここに書いていないnote記事などを含め、クイズ論(原義)の名文が比較的多く生まれている気がします。
東海道新幹線の車内BGMが『AMBITIOUS JAPAN!』でなくなるというニュースは悲報でしたが、今年のコロナ禍を経て5類に移行した世相を表現する映像としてのJR東海のCM『会いにいく、が今日を変えていく。』。「逢う」ことの喜びを「会いにいこう」の曲に載せて表現した感動を呼ぶ名作。
例えば「M-1」について職場とかで「今年はあまり面白くなかったね」みたいな感じのこと言われるのってマジで全お笑いファンの悩み事だと思うんですけど、M-1って毎年8月1日に始まって12月末を経由してまた来年に繋がっていく永久に続く大河ドラマみたいなストーリーなんですよね。だから「M-1グランプリ2023」の3時間だけを切り取ってコンテンツとして評価できないし、いくら最高でも◯◯がおすすめだよ、という文脈には組み込めない。
「阪神タイガースの日本一」とかもそうなんですけど、今シーズンの活躍やキーとなった試合はもちろん素晴らしいコンテンツなんですけど、例えば金本政権・矢野政権の数年とか、もっというと全阪神ファンの「阪神優勝や!」とか言いながらうっすら2005年の日本シリーズからずっとずっと漂っていた諦念ムードとか、そういうの込みだからこそ湯浅の1球には1球以上1年以上の価値があるというか、今年だけのコンテンツと表現てきないよなと。
というようなことを考える一年でした。
トップ15
15位
三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』(映画)
厳密には昨年12月公開の映画なのでランクインさせるかは迷ったのですが……。聴覚にハンデのあるボクサーのプロ戦という我々にとってはかなり非日常な出来事を、それぞれの仕事に戻っていくラストとか、手話で友人とランチを取るシーンが字幕なしで映るところとか、本当にただの日常として描いているのが熱い。岸井ゆきののスパーリングも、それをそう実感させる説得力がありました。
14位
河村拓哉 篠原かをり『雑学×雑談 勝負クイズ100』(書籍)
我々草クイズの民がやれこのクイズが良い悪いみたいな話をしているなか、この本(最後まで読めてはいないのですが)はクイズの面白さだけでねじ伏せられた感じがします。(今年のクイズムーブメントのなかで実は肯定と並ぶ一大キーワードである)「クイズはコミュニケーションである」的な哲学について、我々は例えばクイズ大会という形をとる以上、どれだけ面白い問題を通して対話を図ろうとも正誤による優劣は数字に表れてきてしまいますが(それは悪いことではなくクイズの魅力だと思います)、市販本でその哲学を夫婦の雑談を通して紹介することで十二分に体現しています。「クイズを出して 」「考えてもらう」というクイズを出題することの根源の楽しさが詰まっている。
13位
ダウ90000『また点滅に戻るだけ』(公演)
蓮見翔の快進撃が止まりません。都会でも田舎でも地方でもない埼玉というう場所からみる東京の遠さと地元に留まるということ。痛みを笑いに昇華させていく……。
蓮見翔が『令和ロマンの娯楽がたり』のなかで「いま上の世代が感じているノスタルジーをコンテンツに組み込まれる楽しさ(例えば『あまちゃん』でキョンキョン世代が80年代を思い出すように)を僕ら世代でも味わいたい」というようなことを言っていて、それをいま最先端の脚本に落とし込んでいるのが蓮見翔自身なのだと思います。music.jp、プリクラのあるゲーセンの男子禁制、マックスバリュ、あるいはルビサファの攻略本……。
12位
「ドキュメント20min.ニッポンおもひで探訪 ~北信濃 神々が集う里で~」
見れる方法があるかは分からないのですが、まだ見ていない方はまず見てほしいと思っています。テレ東やフジの実験番組で最近よく見るモキュメンタリーにはない、作ることで消失を表現しているというカタルシスがあります。
11位
スピッツ『ひみつスタジオ』(アルバム)
音楽をまとめて聴く習慣がほとんどなくなって久しく、BGMはソングラジオかFM802にお任せしているので、Spotifyの年間ランキングには『ビートDEトーヒ』がランクインしているのが恥ずかしくてようようSNSに公開できません。スピッツ3年半ぶりのアルバム、よく聞きました。アルバム曲のなかだと、『オバケのロックバンド』が往時のスピッツっぽくて好きです。
今年の草野マサムネでいうと、比較的ハイペースに新譜を出していながら「飽きられたらロビンソンとチェリーで全国回る」みたいな発言がカッコいいなと思いました。
10位
秋田県佐竹知事の「じゃこ天は貧乏くさい」発言を巡る一連の騒動(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231115/k10014258431000.html)
今年一番のおもしろニュース。被害者の顔や明日は我々の身にも降りかかるかもしれないという恐怖がある点で、陰謀論ヲチのようなものを好きになれず、また無責任に他者を嘲笑して何者かになったように悦に入るゴシップアカウントが跋扈する昨今、我々が面白がるニュースはこのようなものでなくてはいけない。
じゃこ天は美味しいですからね。四国の人たちが励ましの連絡をしたとか、そういう裏まで回って味わえるニュース。その後四国各県とコラボしたイベントでの知事のなんともいわれぬ表情も最高。
9位
『有吉弘行の脱法TV』(バラエティ番組)
有吉弘行がテレビでしゃべるときって台本を言わされているような演出を自ら取ることが多いのですが、この番組では自分の言葉という体でコンプラを気にしすぎる風潮を憂いていて、そこを突くことで笑いを作るコンセプトが良い。ぺこぱの「誰も傷つけない笑い」も、ある種みんなが偏見を抱えていることを利用している点でこの番組と実は近い。
とはいえ、「30日密着TVだったけど名前を急遽変更」とかの細かい演出は「ハイハイ」という感じでわりと冷めちゃうのとか、「オープニングのモールス信号でちんちんと言っていた」とかは盛り上がるほどじゃないだと思っています。特に後者、本当に放送禁止用語言っていたのならすごいけどちんちんだからな。別に隠さなくても言えるだろうと。
8位
かめの まくら『フェラでテッペンを目指す話』(Twitter漫画)
「今年Twitterで回ってきたもので何が一番面白かったですか?」と言われたらつい挙げてしまうと思います。ここで堂々挙げてはいけないようなワードなわけですし、もう見るに堪えないふざけた話なんですが、ナンセンスが突き抜けている。最終回までのスピード感もシャープ。
7位
久保毅幸『育児休業のすすめ:ニューヨークで専業主夫になった物理学者』(日本加速器学会誌「加速器」20巻1号 p.50-56)
「加速器」なる学術誌に掲載された物理学者が休職して専業主夫になった顛末を語るエッセイなのだけれど、すこぶる面白い。「冴える自虐」と「読ませる文章」。この手の文体自体はツイッターやはてなブログで珍しくないのかもしれないけれど、そもそもJ-STAGEで読んでいることとか、ニューヨークで奥さんが働いているということとか、全てひっくるめると倍乗っかってくる。
※なんと、平凡社のウェブサイトで続編が連載されているようです!すごい!(https://webheibon.jp/sengyoshufu)
6位
宮島美奈『成瀬は天下を取りにいく』(小説)
これは~~もうシンプルに面白かったですね。いわゆる「ボケ気質のヘンコとツッコミ気質のわりと真っ当な親友のシスターフッドもの」と表現してしまえばそれまでだしよくあるのですが、固有名詞の質感が瑞々しいおかげで実感を持って読むことができる。話題になるまでのスピード感とか、M-1の結果とか、リアリティがあることと合わせて登場人物に感情移入をしてしまう構造になっている。
5位
「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説 第2弾」『水曜日のダウンタウン』
結局今年も「水ダウ」が強い一年だった気がします。数多名作は生まれましたが名探偵津田を挙げないわけにはいかない。次回予告からの1週間、これがあるから生きていけるというような人も少なくなかったはず。
最高打点はやはり第二弾のメタ構造に頭がパニックになった瞬間かしら。
4位
バカリズム『ブラッシュアップライフ』(ドラマ)
タイムスリップの類、リアリティと固有名詞と個人的な好物揃いだったこともあるんですが、最高のドラマでしたね。2周目・3周目では当然1周目(あるいは水川あさみにとっての1周目である0周目)はそもそもなかった世界線なわけですが、1周目があっての2周目であるという描き方がよかった。
3位
スマホを岩にたたきつけるラッコの動画(https://www.youtube.com/watch?v=pBDlc5o2Mto)
シンプルにこういうの笑ってしまいますよね。海外の水族館のハプニング映像なんですけど、「助けられたヤギ」の動画とか、たまに見てしまう。
2位
メンバーチャンネル『メンバー オーケストラ歌ネタLIVE』
鳴りやまない出囃子に合わせた歌ネタ漫才でお馴染みの「メンバー」。クラウドファンディングを募って開催されたオーケストラをバックにした歌ネタライブ。ベストアルバムともいうべき名作の数々が、単にBGMを演奏しているわけではなく、『闘牛士』のネタでカルメン流れるように幕間にクラシックナンバーが挿入されるのもいい。
さて、1位。「面白かったコンテンツ」とか「笑えたコンテンツ」ではなく、「刺さったコンテンツ」という言い方をして記事を書いています。単純に笑った量でいえばトム・ブラウンかもしれないし、うんうんと唸ったコンテンツなら違うものがランクインすると思うのですが、「刺さったかどうか」。
何度も引用しますが、下記は蓮見翔『旅館じゃないんだからさ』の岸田國士戯曲賞選評の一節。
すなわち、「刺さったコンテンツ」とは、どんなベクトルの作品であれ、触れた前後で何らかのパラダイムシフトを自分の中で起こしたかどうかと定義できると思います。
遅れて読んだので過去のソレにはランクインしていないのですが、朝井リョウ『正欲』の名を挙げれば、読者には分かってくれるのではないでしょうか。
1位
Aマッソ×大森時生『滑稽』(公演)
「普通のAマッソの単独ライブ」……と聞いて足を運べば、実は「○○」で……という、まあ見ていない人に何も言いたくないので何も言えないのですが……。
「あたらしいテレビ」で「人に吐き気を起こさせるような番組を作りたい」と語っていた大森時生らしく、お笑いライブなのに我々の「笑うこと」の実存すら危ぶまれていく、観客が抱いている舞台への絶対的な信頼すら(なんだったら観客の自我すら)も崩れていく瞬間。
お笑いを見る眼差しが否応にも変わってしまうという点で、このコンテンツに触れた以前以後で私は変容してしまった、という意味合いから1位に選びました。
「コンテンツ」を、一定のコストさえ払えばみんなが平等に体験できるもの(配信のない即完舞台とか日によって変わる食事、エントリー制限のあったイベントとかは除外)と定義しているので当然ランクインできなかったのですが、2023年9月30日のおかずさんのウェルビー栄を訪れた一連のツイートは死ぬほど面白かったです。鍵垢でなければランクインさせていました。ツイートオブザイヤー。
<過去の1位>
2019年 原口文仁の復帰タイムリー
2020年 きくちゆうき『100日後に死ぬワニ』
2021年 『水曜日のダウンタウン』「 『ラヴィット!』の女性ゲストを大喜利芸人軍団が遠隔操作すれば、レギュラーメンバーより笑い取れる説」
2022年 #ちむどんどん反省会
2023年 Aマッソ×大森時生『滑稽』