フジファブリックの『若者のすべて』ってなぜ最近クイズによく出るの? 出題価値はある? 彼氏は? 調べてみた!

序文

本記事は、競技クイズの場において、『若者のすべて』がなぜ最近よく出題されるのかについて考察し、問題集の中から実例を引用し、各作問者が問題文に残した工夫の種類について分類するものである。
決して、『若者のすべて』を工夫をもって出題しなければいけないという論でも、既に『若者のすべて』の問題に手垢がついていると主張したいわけでもない。
これからも出題に値する題材であるし、また出題するならやはりこのフリがいいと心から思っている。
むしろ、私としてはボタンが点けやすい問題なので、それを公開することは今後のクイズで不利に働く可能性すらある。ただ単に、カルチャーの多様化と基本問題の範囲の拡張がリンクする好例として紹介したいだけなのである。
その点を理解いただいた上で、下記をお読みいただきたい。

なお、勝手ながら引用させていただいた問題集の著作者のなかで、問題があるという方は私に連絡いただければ削除いたしますので遠慮なくお申しつけください。

<キーワード>
若者のすべて,競技クイズ,出題価値,基本問題

本論

フジファブリック『若者のすべて』は、言わずと知れた名曲だ。
アルバム『TEENAGER』のリードシングルとして2007年に発表されたが、実際、オリコンチャート最高順位は30位と決して高い数字ではないことからもわかるように、当時からJ-POP史に名を刻む曲だったかというとそうではない。
ではなぜこの曲が「2000年代の名曲」として支持されるのか、という点については、すでに多くのメディアが取り上げているので割愛したい(guatarro、2022)[1]。

ざっくり説明すると、当時のシーンを席巻したわけではないこの楽曲を、後追いで知った世代が影響を公言することでじわりじわりと土壌が形成され、今や「2000年代を代表する曲」として音楽の教科書に掲載されるまでに至ったのだ[2]。
私は音楽にさほど詳しいわけでもないのでその是非は論じない。

近年の短文基本シーンにあっては出題範囲を拡張しようとする試みがなされており、芸能・音楽ジャンルに限っても、「時事問題」と「歴史問題(と表現できるような、芸能史に名を刻む名作)」がほとんどを占めていた一時代から、その2つに当てはまらない題材から問題を作ろうと多くの作問者が挑んでいる。
(あるいは、そうした試みをなした作問者は古くから数多いたが、近年のカルチャーの多様化とBOOTH全盛時代の到来により顕在化しているだけなのかもしれない)

もちろん、だからといって「出題価値」のない問題を出題するわけにはいかないため、世の企画者はめぼしい題材から出題価値の高いものを問題群作成のなかで(無意識にでも)取捨選択しているといえる。
そもそも出題価値という言葉の定義は曖昧で議論し尽くされたものでもないため非常に危うい言葉だが、大会や問題集のために作成されるクイズ問題には、出すべき問題と出さなくていい問題は存在してしまう[3] 。さてこれは「日常生活に根差した知識や、学校・職場で学べることをもとに正解できるような「基本問題」」(abc/EQIDEN実行委員会、2022)を出題する「abc」のような大会でなくても、例えば難問の大会であっても、いわゆるモノシリ傾向の大会であっても、あるいは好き勝手に問題を出すことを宣言するような個人企画であっても、出題するにあたってコンセプトに合致しているかどうかという判断をした上で問題を用意している以上、同様である。

本題の『若者のすべて』とクイズの問題の題材という話題に話に戻すと、前述の経緯から、この楽曲の「出題価値」は最高潮にまで高まっている。
この曲が「2000年代の代表曲」として取り上げられた教育芸術社の高校向け音楽教科書「MOUSA1」には、各年代を代表する曲として70年代から『翼をください』、80年代から『クリスマス・イブ』、90年代から『負けないで』、10年代から『Lemon』が選ばれている(J-CASTニュース、2021)というから、それらの曲と同じくらい日本の音楽シーンの歴史として価値があるというと、この曲を知らない人にもなんとなく理解できるかと思う。とはいえ他年代で挙げられた曲に比して知名度が高いとはいえないため出題歴も浅く、まさに「出題範囲の拡張」と「より出題価値の高い問題を出したい」という2つを目指した作問者たちが目を付けるうってつけの題材であるといえる。

では次に、この曲が出題するに相応しい題材であったとして、どういった情報を切り出して出題するかという問題について考える。

音楽ライターの森朋之は、『若者のすべて』が発表から15年経った現在も普遍の名曲として愛される理由について、下記のように述べている。

 「若者のすべて」の根底にあるのは、どうしようもなく過ぎ去ってしまう時の流れ、そして、そのなかで生まれる感傷や後悔、未来に対する微かな光だ。それを象徴しているのが、〈最後の花火に今年もなったな/何年経っても思い出してしまうな〉というサビのラインだ。大切な人との出会い、かけがえのない経験もやがて過ぎ去り、記憶や思い出となって色褪せていく。時間の流れの中にしか存在できない人間の本質を叙情的に映し出す「若者のすべて」が、今もなお多くのリスナーを魅了し続けているのは、この楽曲が普遍的なテーマを捉えているからだろう。

(森、2021)

森の言及どおり、この曲が“今もなお多くのリスナーを魅了し続けている”のは、普遍的で感傷的なテーマを落とし込んだ“〈最後の花火に今年もなったな/何年経っても思い出してしまうな〉というサビのライン”なのである。
であれば、この「印象的な」歌詞を出題のための情報に落とし込むことが最も出題意図に真摯で、ベターな方法といえる。
もちろん、既出フリとの重複を意識して避ける場合は別である。単に目新しさを欲する場合もあれば、指の速さを競うことを嫌う場合、幅広い知識を問いたい場合、他の問題とのバランスなど理由は様々。ただ、佐野(2020)が「abc-west 2nd」に提出した「インディ500」を答えさせる問題について試行錯誤した結果、abcの問題と同一の構成となったことを明かしているように、新しい切り口を模索して考えた結果、最終的に既出歴のあるものと同じ切り口が最も良い出題方法だと行き着くことも多い。やはり現代まで残るベタ問は出されるべくして出されるということだろうか。

そうして世のクイズ大会では『若者のすべて』を問う問題が増えた。この増加量はおそらく音楽シーンでの評価の高まり具合とリンクしており、必然といえる。ぱらぱら探してみると、問題の核を「最後の花火に今年もなったな」のフレーズに置きつつ、加えて価値を聞き手にも感じさせるような工夫が感じられるものが多い。

調査の結果、この曲を問う問題はおおよそ3パターンに分類できることがわかった。以下にまとめて紹介していくが、冒頭に書いたように、既発問題集の問題やこれから同様に出題される問題を批判するものでは決してなく、むしろ尊敬の念を持って記載することにご留意いただきたい。

①シンプルに歌詞から問う問題
「最後の花火に 今年も なったな」と始まるサビが耳に残る、フジファブリックの代表曲は何でしょう?
『RED DIAMOND CUP』(2020)

「最後の花火に今年もなったな 何年経っても思い出してしまうな」という歌詞が印象的な、フジファブリックの代表曲は何でしょう?
『STREAM3』(2022)

②歌詞の前後に切なさを漂わせる問題
「最後の花火に今年もなったな」というサビの歌詞が切ない夏の終わりを感じさせる、ロックバンド・フジファブリックの代表曲は何でしょう?
「第2回とりにく一族オープン」(2022)

夏の終わりの切なさを歌う「最後の花火に 今年もなったな」というサビが印象的な、バンド・フジファブリックの代表曲は何でしょう?
『Wind Climbing』(2020)

③他のフリをつけて歌詞を匂わせる問題
今年度(2022年)から「2000 年代の代表曲」として音楽の教科書にも採用された、夏の最後の花火を歌うフジファブリックの楽曲は何でしょう?
『第2回G-1グランプリ』(2022)

夏の終わりの今年8月31日、来年度より音楽教科書『MOUSA 1』に掲載されることが発表された、フジファブリックの代表曲は何でしょう?
『#DEFining myself』(2021)
※歌い出しの「真夏のピークが去った」という歌詞をイメージしているものと思われる。

いかがでしたか?
今回は『若者のすべて』がなぜよく出題されているのかと、フリのバリエーションについて考えてみたところ、いくつかのタイプに分かれることがわかりました!
彼氏については残念ながら情報がわかりませんでした……
また情報が入り次第更新します!

謝辞

本記事の執筆にあたっては、てら氏、ちのせ氏の両氏に既出歴の確認作業にご協力をいただいたほか、rym氏には執筆にあたって助言をいただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。

参考文献

森の掟、2022、guatarro『「関ジャム 完全燃SHOW 若手アーティストが選ぶ最強平成ソング BEST30」から漏れてしまった「平成み」をリアルタイム世代が分析する』(https://guatarro.hatenablog.com/entry/2022/05/08/234252)
森慎太郎、2017、「内容に本当に真剣な人は」『セレンディピティ杯 公式記録集』セレンディピティ杯実行委員会(https://summergaku.booth.pm/items/1691789)
暁王戦/翠帝戦実行委員会、2022、スタッフ挨拶(https://gyo-sui.jimdofree.com/staff/)
abc/EQIDEN実行委員会、2022「abc/EQIDENとは?」(https://abc-dive.com/portal/index.php/what-abceqiden/overview)
J-CASTニュース、2021、「「Lemon」「若者のすべて」音楽の教科書入り J-POPの曲を採用する基準」(https://www.j-cast.com/trend/2021/09/05419614.html?p=all)
Real Sound、2021、森朋之「フジファブリック「若者のすべて」はなぜ普遍的な名曲に? 『MUSIC BLOOD』出演に向けてバンドの歩みを考察」(https://realsound.jp/2021/12/post-918000.html)
佐野、2020、「本家はやっぱりすごい」『abc-west 2nd 公式記録集』SiQs(https://booth.pm/ja/items/2933050)
Wikipedia、「若者のすべて (フジファブリックの曲)」(https://ja.wikipedia.org/wiki/若者のすべて_(%E3%83%95%E3%82%B8%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%9B%B2)
青柳立夏、2020、『RED DIAMOND CUP』(https://booth.pm/ja/items/2243433)
かわた、2022、『STREAM3』(https://booth.pm/ja/items/3762357)
abc-west-Tokyo実行委員会、2022、『abc-west-Tokyo 使用問題集』(https://booth.pm/ja/items/4262360)
ねじまき、2020、『Wind Climbing』(https://ikamejen.booth.pm/items/2161087)
とりにく一族有志、2022、「第2回とりにく一族オープン」(未刊行)
堀籠怜哉・濵口和歩、2022、『どれみ3』(https://booth.pm/ja/items/4235383)
早稲田緑問会、2022、『第2回 G-1グランプリ 公式記録集』(https://booth.pm/ja/items/1196826)
ももたらず、2021、『#DEFining myself』(https://booth.pm/ja/items/3563271)

脚注

[1] かくいう私も、ボーカル・志村正彦の急逝後、親交のあった奥田民生が涙を浮かべながら『茜色の夕日』をカバーする動画を見てバンドの存在を知った覚えすらある。
[2] 同様の現象が70年代邦楽シーンでも起きており、これは「はっぴいえんど史観」と呼ばれる(日本語ロックの名盤として名高い『風街ろまん』も当時衝撃を与えたわけでなく、後の世代によって支持されたことで名盤と評価されていったという。ウィキペディアの記事「日本語ロック論争」によると、松任谷由実は細野晴臣をデビューアルバムの演奏ミュージシャンとして迎えた際、既に解散していたはっぴいえんどのことを知らなかったという。
[3] 難易度などの理由で制約がある以上、クイズの出題範囲は事実上有限である。これは、「セレンディピティ杯記録集」(2017)内のコラム『内容に本当に真剣な人は』のなかで森が論じている。森は、早押し形式に拘泥しないことや、「出題しようとしている題材について、出題しないことを常に選択肢としてもちつづける」ことでの解決を図っている。出題され得ない簡単すぎる問題と難しすぎる問題の例として、「五十音の1文字目」も「『フラニーとズーイ』の135ページの1文字目」を挙げている。

フジファブリックの『若者のすべて』が基本問題に出題される事例に関する一考察/ひまたん

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