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新続金色夜叉|尾崎 紅葉|※ネタバレ注意※

「金色夜叉」は、明治時代の小説家・尾崎紅葉によって1897年から1902年にかけて執筆された恋愛小説です。この作品は、当時の日本社会で大きな反響を呼び、近代日本文学の代表作の一つとして知られています。物語は、主人公の間貫一と、彼の婚約者である鴫沢宮との悲恋を中心に展開します。貧しい学生だった貫一は、宮との結婚を約束しますが、突然の遺産相続で裕福になった宮は、富豪の富山唯継と結婚してしまいます。このことで深く傷ついた貫一は、復讐心に駆られて「金色夜叉」と呼ばれる高利貸しとなり、冷酷な人物へと変貌していきます。作品は、愛と金銭、そして復讐という普遍的なテーマを扱いながら、明治時代の社会変化や価値観の揺らぎを鮮やかに描き出しています。


```mermaid
graph TD
    A[鴫澤宮] -->|恋人だった| B[間貫一]
    B -->|怒りと復讐心| A
    C[清美]-->|姑| A
    D[鴫澤新三郎] -->|父| A
    E[貫一の母] -->|母| B
    F[唯継] -->|現在の夫| A
    A -->|不幸な結婚| F
    style A fill:#ffcccc
    style B fill:#ccccff
    style C fill:#ccffcc
    style D fill:#ffffcc
    style E fill:#ffccff
    style F fill:#ccffff
```

第一章:お宮の悔恨の手紙

一の一:病床からの切なる祈り

お宮は重い病に臥せりながら、貫一への手紙を認める。生涯で初めて神仏に祈りを捧げ、この手紙が必ず貫一の目に触れるようにと願う。自害を決意したお宮は、これを最後の遺言として読んでほしいと訴える。たとえ貫一に憎まれていても、一人の哀れな女の遺言として一読してくれることを願う。

久しぶりに貫一の顔を見た時の感動と悲しさを綴る。十年来の思いを抱えながら、涙に阻まれて何一つ口に出せなかった無念さを吐露する。貫一の痩せた姿、血色の悪さを心配し、どのような病気なのかと案じる。くれぐれも養生に努め、何よりも身体を大切にするよう懇願する。

一の二:再会の顛末と深まる病

お宮は先日の再会の際、貫一に拒絶されたことを回想する。その時の胸中を言葉では尽くせないと述べ、貫一の理解を求める。別れた後の激しい頭痛や胸の痛み、不眠の状態を詳細に記す。四日目には起き上がることもままならず、寝たきりとなる。昼夜を問わず激しく苦しみ、ただ貫一のことばかり考え続けている。

日に日に衰弱していくのを感じ、もはや長くはないと悟る。死期を悟ったお宮は、最後に貫一の膝の上で安らかに息を引き取りたいと願う。しかし、それも叶わぬ罪深い身であると自覚し、二度と貫一の顔を拝することも、許しを得ることもできずに死んでいくのだと諦める。それでも諦めきれない苦しさを訴え、涙で紙を濡らしながら手紙を書き続ける。

一の三:過去の悔恨と現在の思い

お宮は熱海での別れや、田鶴見子爵邸での偶然の出会いを振り返る。その後、変わり果てた貫一の姿を見て荒尾と語り合ったことも思い出す。これらの出来事を何度も手紙に書いたが、一通の返事もないことを嘆く。貫一の近況を案じ、厳しい世間の波にもまれて艱難辛苦の日々を送っているのではないかと心配する。

一方で、自身の苦しい日々を語る。この世に生まれてきたことが苦しみであるかのように、儚い日々を送っていると嘆く。富山との結婚を後悔し、愛情のない夫婦関係に苦しんでいたことを明かす。しかし、今は心の操を守り、貫一への思いを貫いていると主張する。

貫一から贈られた三枚の写真を宝物として大切にしていることを明かす。特に横顔の半身像が好きだが、色褪せてきていることを惜しむ。これらの写真を棺に入れてもらうよう母に遺言していると告げる。

一の四:最後の懺悔と願い

お宮は貫一の現在の境遇を心配し、なぜ優れた身でありながら、ふさわしくない道に入ってしまったのかと嘆く。世間には賢くない者が良い地位を得ていることもあるのに、なぜ貫一は自らの身を塵芥の中に捨ててしまったのかと残念がる。自分の浅はかさが貫一を誤らせたのではないかと自責の念を抱く。

富山との縁談を受け入れた理由や、貫一の言葉に従わなかった理由を今になって考えても分からないと述べる。二つあるものの良いほうを捨て、悪いほうを取ったのは自分の定めた運命だったのだと諦観する。

先日会った貫一の世話をする婦人のことに触れ、無遠慮に訪問してしまったことを詫びる。まだ書き足りない思いは胸いっぱいだが、夜が明けてきたことを感じ、筆を置く決意をする。明日は貫一の誕生日であることを思い出し、陰膳を供えて祝う心積もりを伝える。貫一の幸せと繁栄を祈り、「おろかなる女」として手紙を締めくくる。

第二章:貫一の苦悩とお静の献身

二の一:貫一の心の葛藤

貫一は長い手紙を読み終えた後、庭に出て細かく裂いた。彼の心は乱れ、苦悩に満ちていた。庭の木々や花々の香りが漂う中、貫一は自分の思いを整理しようとしていた。そんな折、お静が風呂の支度を告げに来た。お静は髪を結い上げ、白い手ぬぐいを掛けた姿で現れ、貫一の世話を熱心にしていた。

貫一にとってお静は唯一の慰めとなっていたが、同時に狭山という大切な人も抱えていた。お静は夢心地で幸せそうに見えたが、貫一の顔色は優れず、疲れた様子が見て取れた。お静は貫一の体を気遣い、丁寧に世話をした。浴後、貫一は縁側で涼んでいたが、お静は団扇で風を送りながら、彼の顔色の悪さを指摘した。

二の二:貫一とお静の会話

お静は貫一の体調を気遣い、麦酒を勧めた。貫一は最初は断ったが、お静の熱心な勧めで少し飲むことにした。二人は麦酒を飲みながら会話を交わした。貫一は自分が高利貸しであることの葛藤や、お静たちを世話することになった不思議な縁について語り始めた。

貫一は自分の善意を疑われることを恐れていたが、同時に高利貸しという職業柄、人々から鬼や蛇のように扱われることへの苦悩も吐露した。お静は貫一への深い感謝の気持ちを表明し、彼女と狭山は貫一のおかげで命が助かったと述べた。

貫一は自分の行動が誤解されることを懸念しつつも、お静たちへの思いやりを示した。彼は自分の過去や現在の状況について語り、孤独な生活から少し賑やかになったことへの喜びを表現した。

二の三:貫一の本心とお静の洞察

酒が進むにつれ、貫一は自分の鬱状態について語り始めた。彼は「鬱ぐのが病気で困る」と繰り返し、具体的な原因を明かそうとしなかった。お静は粘り強く貫一の病気の原因を探ろうとしたが、貫一は明確な答えを避け続けた。

話題は男女の情の深さに移り、貫一は女性の気が移りやすさを指摘した。これに対しお静は、年齢による恋愛観の変化を「見惚れ」「気惚れ」「底惚れ」の三段階で詳しく説明した。お静は15,6歳の「見惚れ」から始まり、17,8歳から20歳ごろの「気惚れ」、そして23,4歳以降の「底惚れ」までを、それぞれの特徴や心理状態とともに解説した。

貫一はお静の洞察に深く感心し、何か胸に響くものがあったようだった。彼は繰り返し笑い、お静の説明に大きな関心を示した。お静は貫一の反応から、彼の心に何か特別なものがあるのではないかと推測し、さらに話を掘り下げようとした。

第三章:自殺を考える女性の苦悩

一:病に苦しむ女性の心情と自殺の決意

女性は重い病に苦しんでいる。七日が経過したが、日に日に具合が悪くなっている。医者はヒステリーと診断したが、女性はそれを不本意に感じている。昼は頭が重く疲労感が強い一方、夜になると胸が冷え冷えとして眠れない。人と会うのを避け、一人で引きこもっている。

この苦しみから逃れるため、女性は自殺を考えるようになった。しかし、死ぬ前に最後に一度だけ、どうしても「御前様」に会いたいと強く願っている。この一念の力があれば必ず願いが叶うはずだと信じている。

二:姑の訪問と死への思い

昨日、姑が見舞いに来た。継子の放蕩について話し、女性に今後は気をつけるよう諭した。女性は離縁されることを望んでいたが、姑の優しさに涙を流し、自分の不束さを詫びた。

女性は死ぬことを恐れていない。むしろ今すぐ息を引き取ることができれば幸せだと感じている。ただ、残される親の嘆きを思い、自分の人生が無駄に終わることへの悲しみを感じている。周りの物や風景はすべて残り、自分だけが消えていくことへの儚さを考えると、思わぬ未練が生まれている。

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