行って分かったヨーロッパでの自転車の使いやすさ
「ヨーロッパの街は自転車に優しい!」
自転車に馴染みの深い人なら一度は聞いたことがあると思います。
そうでない人も、ヨーロッパの街並みの中を自転車が走り抜けていく光景をテレビで見たことがあるのではないでしょうか。
自分は大学の講義で都市計画を齧り、休み中は自転車旅行漬けの日々を送っていました。
そのため、ヨーロッパの自転車文化が栄えているとか、利用環境が整っているとか、そんな話をしょっちゅう耳にしました。
「みんな言うけどヨーロッパって本当に自転車を使いやすいの?そうだとしたら、日本と一体何が違うの?」と当然思いますよね。
思ったので、実際にヨーロッパに行って自転車に乗ってみました。
そして思いました。
自転車、使いやす〜い!!!
そんな使いやすさの理由を整理したので記録しておきます。
この記事について
エンドユーザーの立場で感じた自転車の利用しやすさを記録していて、その背景や制度・文化的な違いにはあまり触れていません。ご承知おきください。
自身の備忘録が1番の目的ですが、自転車施策に携わる方や海外の自転車事情(特に利用環境)を簡単に知りたい方への情報提供になればと思います。
ざっとネットを漁った感じ、ハード面を中心に網羅的にまとめているような記事は意外と無かったので少しは需要あるかな。
ヨーロッパで走ったところは、
・ライン川中流域(フランス・ドイツ国境付近、フランクフルトとかストラスブールとか)
・アルプス(スイス・イタリア国境付近、フランス南東部)
の大体400kmくらいです。
これが他の国・地域だったりすると、また事情は変わってくるかもしれません。
が、面倒くさいので今回は一括りに「ヨーロッパ」と言います。
主語がデカい。
また、2014年頃に走ったので少し古い情報になります。
ただ、ハード面を中心に整理しているので今もそんなに変わらないと思います。というか、未だに今の日本の自転車環境よりも遥かに良いです。悲しいことに。
使いやすさ1 道路を走りやすい
まずは道路を走った時に感じた、日本とは違う走りやすさについてです。
①自転車道のネットワークができている
日本の自転車道・自転車レーンは、鉄道の廃線跡を転用したり地方の幹線道路を使っていたりしていて、地図で見ると1本の線で整備されていることが多いです。
そのため、「自転車に乗ってどこかに行く」というよりも「自転車道を使う」という目的を持って行かないと、なかなか走る機会が無いです。
都市内に自転車レーンがいくつか整備されていることもありますが、あくまで都市内で短い距離で完結していることが多い印象です。
ヨーロッパでは自転車道が網の目のように張り巡らされていて、どの都市間も自転車で移動できるようになっていました。
泊まるホテルだけ事前に決め、ルートは一切考えずに現地に行きましたが、とりあえず自転車で行けないことはないという安心感が常にありました。
②情報が充実している
自転車道ネットワークは、ただ道が整備されているだけでなく、至る所に案内看板が設置されていました。
ルートの分岐・交差箇所で方向を案内するのはもちろん、看板から街までの距離も併記されていて、走る上で常に安心感がありました。
自転車道の情報はスマホでも確認できました。
Googleマップで「自転車」を選択すると、自転車が走れる道路がびっしりと表示されます。
日本だとその土地の自治体や観光協会のサイトにアクセスし、PDFファイルで確認でもしないと自転車道を見つけられないので、普段使いのアプリで自分の場所を確認しながら自転車道を探せるのは非常に便利でした。
③走行位置が速度に合っている
これは特に強く印象に残っています。
日本では法律上、自転車は車両の扱いなので、基本的に車道を走ることになっています。
しかし、交通事故が今よりも遥かに多かった時代から車と歩行者の分離が進められ、自転車は車両にも関わらず歩行者側の交通として扱われるようになりました。
そして、少し前から自転車に注目が集まるようになり、法律上の定義と実際の運用の矛盾を見直し、「自転車は車道を走ろう!」と言われるようになりました。
ざっくり言うとそんな経緯なので、今はとにかく自転車は車道を走れと言われます。
その流れに反発する人もいるのですが、そういう時は大体「自転車は車道or歩道を走るべき」と、自転車は車側の交通か歩行者側の交通かというような視点で走行位置を議論されているように思います。
ヨーロッパで見た自転車の走行空間はこんな感じでした。
こんなように、車道を走ることもあれば、歩道(に併設された自転車レーン)を走ることもありました。
走っていて車が怖いと思うことが少なかったので、自転車と車の速度差によって走行位置を決めている(速度差が小さい時は車道とか)のかなという印象でした。
そして、細かいところですが、街中で驚いたのはこれ。
自転車レーンが右折車線を横切っていました。
日本では絶対に見ない光景です。
日本だと(特に最近は)自転車の走行場所は第1車線ということばかり言われて、直進する自転車と左折車が接触する危険性についてはあまり考えられていない印象です。
考えられていたとしても、「危ないので自転車は交差点手前で歩道に入ってね」と、車優先の対応が取られがちです。
たまに警察の方と話すことがあるのですが、警察の考え方は「安全が最優先」「安全確保のためには動線の交錯解消・分離が大原則」です。
そのため、「歩道に入れる自転車に避けてもらおう」となってしまっているのだと思います。
長くなりましたがまとめると、ヨーロッパで自転車という乗り物は
・車でも歩行者でもない交通手段である
・ただ、車と同じ車両の1つであり、走行空間を完全に分離する必要はない
・場所によって走る速度が変わる
・しかし、車や歩行者と同じ速度で走ることはない(近い速度で走ることはある)
という前提で、場所に合わせて走行空間を整備しているんだなと感心しました。
ちなみに先ほどの写真のとおり、自転車が車道と歩道(の脇)を行ったり来たりするためかとにかく段差が少ないのも良かったです。
日本だと段差を考えずに自転車を歩道に誘導していることが多いです。
そんな場所を通る度に、自転車という交通の立ち位置の曖昧さや自転車の立場の弱さ(というより車が優先され過ぎている)をひしひしと感じます。
立場、強くなりたいね。
④路駐車両が邪魔にならない
自分が日本の街中で自転車に乗っていて最もストレスを感じるのは路駐車両です。
真っ直ぐ走れない煩わしさはもちろん、路駐車両を避けた時に後ろから来た車に轢かれたら…、万が一路駐車両のドアが開いたら…と、事故のリスクを感じ、それに対応しながら走るのはかなりの負担です。
ヨーロッパでは車道と歩道の間に路駐スペースが確保されていて、路駐車両がいても真っ直ぐに走ることができました。
これは車庫証明が不要で路駐が当たり前な海外と日本の違いかと思います。
この路駐事情は、車保管の安心さや景観などの視点で考えると微妙なので、一概にどちらが良いとは言えない気がします。
ただ、自転車で走る上で安全・快適であったことは間違いないです。
⑤都市間道路に障害が少ない
日本で長距離を移動しようとして、都市間の幹線道路を走るとします。
そこでは、街の中心から離れても至る所に家があり、コンビニやファストフード店、紳士服店、眼鏡店といったロードサイド店が沿道にひしめき合い、ダラダラと街が続くような状態になっていることがほとんどです。
駐車場に入る車を待ったり、頻繁に信号で止められたりと、人の少ない地域を走っているはずなのになかなか進まない経験をした人も多いと思います。
ヨーロッパでは街と街の間に建物がほとんどありませんでした。
そのため、沿道に出入りする車はもちろん、路駐車両もおらず、交差点も信号もほとんどありません。
そういう道ではビックリするほど自転車でスイスイ走れます。
行ったことがある方は分かると思いますが、北海道の道と大体同じようなイメージです。
使いやすさ2 公共交通機関で運びやすい
いくら自転車が徒歩よりも速いとはいえ、人間が動力である以上、移動できる距離には限界があります。
長距離の移動は公共交通機関で、駅やバス停からのちょっとした移動は自転車で、というのが、より自転車を活用できる移動の仕方だと思います。
近年シェアサイクルが普及してきているものの、どこにでもあるわけではないので、電車やバスに自分の自転車を持ち込む(輪行)ことができるのが理想です。
つまり、自転車の使いやすさの1つには、公共交通機関での運びやすさが挙げられるのではないかと思っています。
ヨーロッパに行った際、Sバーン(都市近郊の鉄道)やIC(都市間鉄道)、TGVで計5回輪行しました。
そこでも日本との違いを強く感じたので詳しく記録します。
①列車内に持ち込みやすい
日本の鉄道は自転車を持ち込むことができるのですが、ほとんどの会社で、自転車を解体して輪行袋に入った状態ならOKという条件付きになっています。
なので、ママチャリは無理しない限り列車に持ち込むことができず、輪行できる人はごく一部に限られています。
また、輪行をするにしても、自転車を輪行袋にしまう作業はかなり面倒(バッグを取り付けるキャリアや泥除けが付いているとなおさら面倒、というか地獄)で、作業で汚れた手を洗ったり、自転車から外した荷物を手で持ったりするのも大変です。
最近は地方鉄道を中心に、自転車をそのまま持ち込んでも良い列車が運行されるようになってきており、サイクルトレインなんて名付けられていたりします。
ただ、これは普段使いの列車に自転車を持ち込んでもOKというルールを作っただけの会社が多い印象です。
自転車を置いておく専用スペースが確保されていないので自転車が通路を狭くし、自転車が邪魔で使えない座席も生まれ、留め具も無いから乗車中はずっと自転車を手で支えている…という、利用するのは大変そうだなあと思ってしまう光景が宣伝写真に使われていたりします。
ヨーロッパでは、ほぼ全ての列車で自転車をそのままの状態で持ち込むことができました。
旅行中、5回の輪行で10の列車に乗り込みましたが、国際列車のTGV以外は全てそのまま自転車を持ち込んでいます。
そして、それらの車内には自転車を置いておくスペースが確保されており、自転車を固定するためのベルトやラックなどの器具も必ずセットで備え付けられていました。
日本の鉄道はヨーロッパに比べると経済的にかなりシビアなので、そういった設備を設けるのは厳しいと思います。
(というかそもそも自転車に頼らなくても良いくらい鉄道が充実しています。いつもありがとうございます。)
が、地方でサイクルトレインを銘打った車両くらいは、もう少し自転車を持ち込みやすいと良いなと思いました。
ちなみに、路線や会社によるものの、バスにも自転車を載せられるラックが付いていました。
②ホームまで持ち込みやすい
自転車を車内にそのまま持ち込めるため、駅の外からホームまで自転車を持って移動しやすくなっていました。
例えば、エレベーターは自転車が載るサイズになっていたり、段差にはスロープが設置されていたりします。
また、今回利用した鉄道は全て信用乗車制をとっていたので、改札が無く、自転車を持ち込みやすかったです。
日本のICカード読取機しか無い無人駅みたいな感じです。
③乗客みんなが自転車に優しい
日本では自転車を輪行袋に入れた状態でも、何度も車内で肩身の狭い思いをしました。(よく小言を言われます)
ヨーロッパでは車内に自転車が乗ってくることが当たり前で、みんなが席を譲ってくれます。
この光景に出会ってから、ヨーロッパ滞在中の輪行への心理的なハードルがかなり下がりました。
使いやすさ3 安全に停めやすい
外出先で安全に駐輪できるかどうかは、自転車で出かけるかどうかを決める重要な要素だと思います。
ここでも日本との違いを感じました。
①地球ロックをしやすい
地球ロックとは、電柱や柵に自転車を括り付けるような鍵のかけ方のことを言います。
自転車に鍵をかけるだけだと自転車をまるごと持っていかれる可能性がありますが、地球ロックをすればその心配はないため、高級自転車に乗っているような人がよくやっています。
日本の駐輪場は、ただ前輪を差し込むラックがあるだけだったり、駐輪区画が線引きされているだけの場合が多いです。
それに比べてヨーロッパでは、一定間隔で柵が立てられて地球ロックがしやすくなっている駐輪場がスタンダードでした。
ちなみに、ホイールだけ盗まれている自転車を街中で頻繁に見かけました。
地球ロックの普及は、治安の問題があるのかもしれません。
日本の自転車利用環境に思うこと
今、日本は過渡期です。
毎年少しずつ自転車の利用環境が見直されています。
今後も法律の改正や自転車道の整備、サイクルトレインの運行などで、様々な試行錯誤を繰り返していくと思います。
それらの取り組みに今回挙げたようなヨーロッパの自転車の使いやすさが反映されていたらいいなと思っています。
それと同時に、ただ形だけを真似るようなことはしてほしくないとも思っています。
形だけを真似ようとし、経済性や安全性を理由に中途半端な物が出来上がると結果的に不便になるからです。
ヨーロッパの環境が出来るに至った自転車に対する考え方に倣ったり、ヨーロッパで感じる「使いやすさ」を目指すために必要なものを議論したりして、文化も制度も違う日本に合った利用環境が生まれてほしいと思っています。
そして、その過程で、日本でも自転車という交通が車や歩行者と同じように認識され、車と同じような優先度で扱われるようになることを1人の自転車乗りとして願っています。
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