ギターの弦を捨てる前に一考

なんだかんだで17年くらいは趣味でギターを弾いている。本題とは関係ないので腕前の方は気にしないで欲しい。「17年もやっててこれかよ…」と嘆きたくなる。
そしてギターのメンテナンスの一環として1ヶ月に1度くらいは弦を交換しなければならない。これがそこそこ面倒臭いのだがギターを弾く以上避けて通ることはできない。

ギター弦はナイロンや金属を原料にしているため、使い終わった後は燃えないゴミとして捨てることがほとんどなのだが、一説によると年間に約500トンものギター弦が捨てられている…という話を以前どこかで見たことがあるけれども、残念ながらどこで読んだのか覚えておらず、情報のソースにあたれない。若干怪しい情報になってしまったが、年間の廃棄弦の総量について信頼できる出典を見つけられなかったので仕方ない。

500トンってどれくらい?

500トンと言われても正直ピンと来ない人がほとんどだと思われるので、わかりやすく例えると自由の女神およそ2体分である。なるほど全く分からないが、仮にギターの弦の重さが1セットで50gだとすると、1000万セットの弦に相当する。

1000万セットの弦ってどれくらい?

1000万セットというと、現実離れしたとんでもない数字のようにも思えるが、ギターの弦を年間4回しか張り替えないと仮定しても、250万本のギターがあれば十分足りる。
なお、個人的には年間ギター1本につき年間10回程度は張り替えている。

250万本のギターってあり得るの?

かなり古いデータなので現状とは若干異なっているとは思われるが、経済産業省によると日本国内で年間約20万本のギターが取引されているし、YAMAHAによると国内のギタープレイヤーは約600万人いるので、250万本なんて余裕である。(どうやって調べたんだろうね?)
500トンの廃棄弦という数字自体の信憑性は確かに怪しいし、500トンという結論ありきで推論を進めてしまった感は若干否めないが、突拍子もなく誤った数字ではないだろう。フェルミ推定すげー。

ギタープレイヤーが600万人いたら当然ギターは600万本以上あるのだから、むしろ廃棄弦は500トンでは少ないかも知れないとさえ感じる。みんなが弦交換をサボっているだけなのかも知れないが、いずれにせよ、個人が出す廃棄弦の量は大したことはなくても、全体で見るとかなりの量になってしまう、という事実に間違いはないだろう。

そして前述したように、ギターに限らず弦楽器の弦は消耗品であり、金属製または金属が含まれていることが多いために、燃えないゴミとして捨てられてしまう。しかも、ギター弦だけで年間500トンである。それこそなんの根拠もへったくれもないが、楽器全体で考えたら5000トンぐらいにはなるのではなかろうか?

話は変わって…

今からおよそ10年前、三重県にあるコスモ楽器という楽器店が廃棄弦の回収・リサイクルを行って若干の注目を浴びていた。(参考リンク)
ちょうど同時期にElixirの弦が品薄になるという事件が起きた。原因は原料の品質低下とのこと。(参考リンク切れてるので、意味ないけど一応載せときます)
それ以来、個人的に廃棄弦のリサイクルについて、ギタリストが抱える重要な課題であると捉えるようになり、廃棄弦を貯めるようになった。
まあ私、Elixir使わないんですけどね。

しかし、いつの間にかコスモ楽器は廃棄弦の回収を終了しており、リサイクルのために貯めていた弦はただの再びただの廃棄物となってしまった。アメリカではD'Addarioがリサイクルを行っているとのことだったが、残念ながら2021年5月現在、日本はサポート対象外である。
金属回収業者に掛け合ったこともあるものの、あまりにも量が少なすぎるため、対応してもらえなかった。

もっとよく探せば、少量でも回収・リサイクルを引き受けてくれる業者さんもいたのかも知れないが、情報を探し出してアクセスするのが困難であったので、とりあえず再び廃棄弦を貯めるばかりの日々を過ごし、またどこかの楽器屋さんが回収を始めて、話題になったら預ければいいかな、くらいの気持ちでいたら、ふと見つけたリサイクル業者さんが気になった。

愛媛の都市鉱山を背負って立つ男

「リバーズエコ」という愛媛のリサイクル業者さん(参考リンク)で、パソコンや家電製品の基盤などから金属を取り出しているとのこと。オリンピックのメダルを作ったことで注目された、いわゆる「都市鉱山」というものだ。また、整備してリユースできる電化製品はリユースして格安販売を行うなどもしている。
社長の小川さんの熱い想いと郷土愛に惹かれたこともあり、基盤の小さな金属を集めているくらいなのだから、もしかしたらギター弦も回収可能なのではないかと思い連絡をしてみた。

以前に金属回収で断られたということもあったので、回収して欲しい理由や経緯などを無駄に長く説明してしまったので、若干ウザかったかも知れないものの、代表の小川さんからは「金属であれば如何なるものでもリサイクルできます」と心強いコメントを頂いた。
あとは心配なのが量と成分なのだが、「まずは送ってほしい」とのことだったので、ついでにノイズがどうしても乗るシールドも含めて送ってしまった。

発送して数日後。
「成分的に都市鉱山としてリサイクル可能です」との回答をいただき一安心。ただただ貯まるばかりの廃棄弦はやっと日の目を見たのだった。
また弦が貯まったら送ろうと考えている。

ギターなどの弦楽器を弾く以上、画期的な代用材料が発明されない限りは、金属資源をどんどん使わざるを得ないのは避けられない。継続して楽器を楽しむためにも、金属資源のリサイクルを行うのは奏者としての責務ではないかとさえ思っている。
このようにして人類は一歩一歩サスティナブルな社会へと近づいていくのであった。音楽も環境問題もサスティーンが大切なのだ。

とは言うものの…

500トンという数字の信憑性が若干怪しいとしても、廃棄弦が全てリサイクルされようがされまいが、世界が大きく変わることはないだろう。
例えば銅などは年間約20,000,000トンも産出しているのだ。恐らくはさまざまな合金から目的の金属を取り出すよりも、新しく精製した方が簡単で安上がりなのではないだろうか。
何より得られる量が文字通り桁違いだ。5桁も違う。10倍だぞ、10倍。

上述したように廃棄弦のリサイクルをする・しないで金属資源枯渇の問題や環境問題に大きく寄与できるとは思っていない。むしろ手間やコストがかかるばかりだろう。正直自己満足でしかないのだが、何故このような事を提言しているかといえば、環境に目を向けている殆どのギタリストの興味を集めているのが、古くはハカランダの取引制限から、最近ではスワンプアッシュの供給不足まで、主に木材を中心とした問題ばかりであるからだ。

たしかに、楽器を作る上で木材は豊富に使用せねばならず、その使用量たるや金属材料の比では無いだろうし、楽器を作れるほどの立派な木が育つまでは、木材の種類や製法次第では100年以上かかる事さえある。
森を大切にしないと温暖化は進み、生態系は乱れ、土地は痩せ、洪水は起き、土砂崩れが起き、南極・グリーンランドが溶け、ツバルやモルジブは沈み、大地は割れ、海は裂け、、、、とにかく森がなくなってから手を打っては遅いのだ。

では金属はというと

当然ながらこちらも無くなってから手を打っては遅いのだが、金属資源は木材と違って新しく作られることはほぼあり得ない。隕石が落ちたり、核融合をしたり、超新星爆発でもしない限り新しい金属は作られないのだ。
使い終わった金属は燃えないゴミになり捨てられるが、金属ごみが環境に与える影響も計り知れない。個人が弦を1セット捨てるくらいでは何の影響もないだろうが、年間500トンも捨てていたらさすがに何か起きそうな気がする。その辺りの知見を有してないので何とも言えないのだが、人間が捨てている金属は当然ギターの弦だけではないはずだ。

加えて原料となる金属価格の高騰もある。個人的にはギターの弦がちょっと値上がりしたくらいでは別にどうということもないのだが、メーカーとしてはとんでもなく大きな出来事であるはずだ。
上述した推定では、日本国内で年間1000万セットのギター弦が消費されているので、仮に製品が10円値上がりすると年間1億円の差が生まれるが、この1億円はメーカーの儲けではない。
「10円くらい文句言わず払えよ」という話ではないのだ。メーカーの生命線が脅かされている可能性を考慮したら10円くらい安いものだ。むしろこれからも奏者であり続けるためには必要な支出ではないだろうか。音楽も環境問題もサスティーンが大切なのだからいっそのこともっと高くてもいいよ。

金属資源の供給が危うくなってからゴミ捨て場を漁って金属を拾ってくるのでは泥縄である。当然もっと早い段階から資源循環の流れが構築されているべきであると考える。
都市鉱山から得られた金属でオリンピックのメダルを作ったという実績もあることだし、今まさに都市鉱山というか金属資源リサイクルに目を向けるべきではないだろうか。それこそ鉄は熱いうちに打てというくらいだし。(と言ってる割に私が異常な遅筆なのだが…)

製造側に関する知見を有していないので、完全な推測になってしまうが、おそらくはリサイクル資源を使用するよりも新しく製品を作った方がコストは安く仕上がると思われるし、なかなか製品として軌道に乗らなかったりするのだろうとは思う。
やたら高価格のリサイクル金属だけでできた製品を新しいラインナップに加えるわけにもいかないだろうから、通常ラインナップの原料として使用することになるだろうから、値上げは必至だろう。安い弦にシェアを奪われでもしたら目も当てられないことになってしまうだろうし、実際に導入するのはなかなか難しいところなのだろう。

そういう意味でD’Adddarioは大英断だったと思う。個人的に割とD’Addario派なのでいろんな弦を試した挙句EJ16に戻ってくるという動きを何度もやっている。最近はXSシリーズで完全に落ち着いている。最高。
XTシリーズとはいったい何だったのだろうか…。

…などと、とりとめもなく長くなってしまったが、楽器の弦を回収できる業者さんはもっと分かりやすく示してほしいし、今まで受け入れてくれてなかった業者さんも受け入れるようになってほしいし、楽器店も廃棄弦を預かる窓口としての役割をして、ある程度の量をまとめて業者に送ってくれたりするような仕組みになったら良いんじゃないかなー、などと想像している。

音楽も環境問題もサスティーンが大切なのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?