電車で暴力を振るった人を連携してつかまえた話
かすみです。普段は楽しく浦和サポーターをしておりますが、今回はサッカーとは直接関係ない、私自身の経験談を書いてみたいと思います。
最近、こんなツイートをさせていただきました。
直接バトルして勝てるフィジカルがなかったとしても、攻撃的サッカーのように頭を使って考えながらパスコースを探して対応すれば、ちゃんと安全に解決させて、物事を正しい方向に導くことができる。
そんな一例を紹介したくて、電車で隣に座っていた乗客に暴力をふるってしまったおじいさんを、被害者のお兄さんと連携して、警察に捕まえてもらったという私の数年前の経験を紹介します。
サッカーとは直接関係はない話ですが、浦和サポーターなら土地勘含めて通じる部分も多いと思うので、今回はそのお話をしてみたいと思います。
車内暴力事件
ある朝の、軽く混雑したJR武蔵野線の上り方面電車。南浦和駅を発車して少し経つと、車内に「ドン!」という大きな音が鳴り響いた。
音の方を振り返ると、おじいさんが席から立ち上がって、隣に座っていたお兄さんに覆いかぶさるように詰め寄りながら、激しく怒鳴りつけていた。ドンという音は、犯人がお兄さんの顔を殴りつけた際に、お兄さんの頭が後ろの壁にぶつかった時の音のようだった。
そのお兄さん(以下、被害者さん)は、そのおじいさん(以下、犯人)に、たまたまぶつかってしまっただけだと説明して、謝っていたと思う。嫌な感じのする言い方ではなかった。隣の席の人に少しぶつかってしまうことは、電車ではよくあることであり、お互い様の出来事だ。だが犯人はそれを意図的な攻撃だと思ってしまったようで、許すことができずに、大声で激しく怒鳴り続ける状態となってしまっていた。
車内はただごとではない雰囲気だった。長年電車に乗ってきた私も、初めて見るレベルの怖い絡み方だった。だが、周囲の乗客の誰も助けようとしないまま、しばらく時間が経過した。
見かねたスーツ姿の中年の男性が「やめてください」と声を上げた。すると犯人は居づらくなったようで、不満げな仕草で、大きな黄緑色のリュックを背負って隣の車両へと移動していってしまった。
110番通報
この被害者さんはきわめてロジカルだった。おもむろにスマホを取り出し、座席に座ったまま、周りに聞こえる大きな声で、冷静にどこかに電話を始めた。画面に「110」と見えたので、警察への通報だとわかった。車内での通話はマナー違反なので、そうやって大声で話す光景には強烈な違和感を感じるが、そんなことはどうでもいい。今起こった暴力は明らかな犯罪行為で、そこから考えれば、被害者さんにはそれを行う正当な権利がある。それを理解して、行動に移す被害者さんの判断は正しいと思った。
被害者さんは警察が言ったことを繰り返すような話し方をすることで、周りの私たちにも会話の内容が伝わるようにしていた。電話の向こうの警察は、被害者さんに、犯人を連れて電車を降りるよう指示したようだった。犯人はもう隣の車両に行ってしまったのに、その犯人と一緒に電車を降りないと捕まえてくれないとはなかなか厳しい要求である。
被害者さんは先程助けてくれたスーツ姿の男性に、一緒に来てもらえるか依頼した。だがこの男性には「すみません、これから仕事なので」と断られてしまっていた。
被害者さんは一人で行くと諦めたのか、席から立ち上がって人をかき分けて歩きはじめた。頬が赤くなっていたのは殴られた跡だと思ったが、そこまでの被害に遭っていても、周りの人達は見て見ぬ振りで関わらないようにしていた。
私はそれは間違ってると思った。目の前を通りすぎようとしていた被害者さんに、「大丈夫ですか?」と声をかけた。
被害者さんは私に「付き添っていただけますか?」と言った。その時の私は、長い髪の膝丈フレアスカート姿。フィジカル的には明らかに不十分な外見だが、それでも迷わず戦力にカウントするあたり、なかなかいい心構えだと思った。
即答で「了解です」と答えてしまった。
そして隣の車両に向かう被害者さんについていくことになった。
犯人との対峙
隣の車両に向かいながら考える私。付き添いって一体何をするんだ?暴力を振るう犯人とこれから対峙するってこと?本当に大丈夫なのか?
今さら後戻りもできないので、とりあえず短い時間で方針を考えた。犯人の攻撃手段は今のところ拳と恫喝のみ。ただカッとなっただけで計画的な犯行ではなさそうだし、おそらく刃物は持っていない。ならば至近距離でもそこまで問題はないはず。拳で殴られるリスクは多少あるが、「清楚なお姉さん」という雰囲気を全面に出していけば、「攻撃したら絶対まずいタイプ」と思わせることができてバリアも張れるはずだ。そして同時に子育てで鍛えた「毅然とした目」で犯人と向き合う。何を言われても動じず、こちらから一切隙を見せずにいれば相手は怯むはずで、それなら近距離にいてもおそらく直接攻撃は防げるだろう。
犯人は隣の車両に移ってすぐのドア付近に立っていた。被害者さんは、通報する人というよりは、むしろサービス業の業者さんのようなビジネス口調で、殴られた経緯について電話でクリアに説明している。それにより、事情を知らないこちらの車両の人にも、何が起こったのかについての状況説明をしているようだった。
こちらの車両は、被害者さんが殴られた瞬間を誰も見ていない、言わばアウェイの環境だ。被害者さんがひとりで話していても、本当のことを話しているのか嘘なのか、周りの人は判断できない。なるほど、それで付き添いが必要だったのか。この被害者さんが正しいんだってことを周りの人に示す役割が必要だったのかと理解した。
ドア付近に立っている犯人に、被害者さんは迷わず冷静に声をかけた。「一緒に降りていただけますか?」。犯人は「なんで俺が降りないといけないんだよ!」などと言って突っかかって声を荒げた。
そこで私も畳み掛けた。「ご自分の主張があるのでしたら、ここではお話できないので、一緒に降りていただけますか?」。清楚なお姉さん風の佇まいで、相手の目を見て、毅然とした目つきで、穏やかに中立な姿勢で。
犯人と少し離れた場所で、ビジネスライクに警察への通報を続ける被害者さん。そんな被害者さんに、犯人は「お前、自分がやったことを話してないだろう!」と声を荒げた。私はそこに間髪入れずに「いえ、ちゃんと全部話してます」と切り返した。被害者さんは自分の肘が犯人にぶつかってしまったことなどはちゃんと説明していたので、私が正しさの保証をした。
こうして周囲の人達に被害者さんの方が正しいと思ってもらえる雰囲気を作るようにアシストした。私はまだ中立の立場で、犯人が自分の主張をするために一緒に降りてほしいと言っているだけだったから、私に直接攻撃をする理由は、犯人にはまだ持たせていなかった。
何も言い返せなくなって黙り込んだ犯人の前で、犯人にハッキリ聞こえる大きな声で、警察と通話しながら、犯人を警察に捕まえてもらう手筈を整えていった。警察に聞かれた質問のうち、被害者さんがわからなかったものについては、被害者さんが私に質問し、私の答えを被害者さんが警察に伝えた。
被害者さん「次の駅はどこですか?」
私「東浦和です」
被害者さん「今何号車ですか?」
私「6号車です」
被害者さん「東浦和では降りられなかったので次の駅に向かいます。」
被害者さん「次の駅はどこですか?」
私「東川口です」
犯人が全て聞いている中、明るく、攻撃的な要素のまったくない口調で答える私。できるだけ即答することで、隙を見せないようにしながら通報に協力した。ちなみに私の電車の知識は、子育て中に子供が鉄道マニアになったことで身についたものだ。駅の順番も、車両番号の掲示位置も、発車までの車掌さんの安全確認の流れも頭に入っていたことが、こんな場面で役に立っていた。
ドア前の攻防戦
電車が東川口駅に到着し、目の前のドアが開いた。犯人は降りようとはしなかった。私は犯人に「降りていただけますか?」と言ったが、「降りねぇよ!」と返されてしまった。この駅でも降りないつもりのようだった。
だが発車ベルが鳴り、もうすぐドアが閉まりそうになったタイミングで、犯人が急にぴょんと電車を降りた。一人で逃げようとしたのだ。
私は被害者さんに「降りてください!」と声をかけ、急いで一緒に電車を降りた。警察がホームに来てくれているかと思ったが、まだ誰も来ていなかった。
そこで車掌さんに助けを求めるために大きく手を降った。大声を出すと犯人を刺激するかもしれないので、声を出さずに静かに大きく手を振った。だが車掌さんには私が助けを求めていると伝わらなかった。車掌さんは、そのまま電車を発車させようとした。
するとその瞬間、犯人は私たちをホームに残して、今度は閉まるドアに乗り込んだ。この駅から混雑してほぼ満員になった電車に、前向きで乗り込むようにしながら、電車に乗って逃げようとしたのだ。
私はこの犯人を逃がしたくなかった。電車で暴力を振るった犯人が、何事もなかったように乗車しているなんて、同じ車両の人達も嫌だろう。そして何より電車は、そんな理不尽なことが許される場ではあってほしくないのだ。
犯人の大きな黄緑色のリュックが、閉まるドアからはみ出していた。私はそのリュックを両腕で掴んだ。そして振り返った犯人の目をしっかり見て、「逃がさない」という意志を送った。
犯人の体に触れることなく、リュックだけを掴んだ。犯人からは直接自分を殴ることはできない安全な位置だ。このとき、もし私が犯人を引っ張り下ろしてバランスを崩させていたら、私も加害者としてファールを取られていたかもしれない。だが私は、犯人の動きを止めただけだ。リュックがドアに挟まってさえいれば、ドアは閉まらないので電車は発車できない。そうすれば8号車にいる車掌さんが、6号車まで走ってきて対応してくれるはずだ。
リュックにしがみついた私を、「離せよ!」と犯人は力づくで振り払った。私も大した力ではつかんでなかったので、簡単にホームに転がされた。ホームには電車が停まっていたので落とされる危険はないし、転がされたぐらいでは私は怪我はしない。だが遠くの車掌さんからは、女性を振り払ってホームに転がす犯人の姿は、明らかに問題があると映ったはずだ。
今思えば、うまく相手のファールを誘えたプレイだったと思う。
やっと異常事態に気づいてくれた車掌さんは、6号車まで走ってきてくれた。状況的に、悪いのは犯人だ。それに焦った犯人は、目の前にあった下り階段からそそくさと逃げていった。電車も無事発車したようだった。
距離を取って犯人を追う
JR東川口駅のホーム階段を駆け下りる犯人と、それを追いかける被害者さん。私も後ろから一緒に追いかけた。犯人は年配なこともあるのかそこまで足は速くはなく、本気を出せば簡単に追いつけるスピードだったが、安全のため距離を取りつつ追いかけた。下り階段であれば、後ろから十分距離を取っていれば、追いかける側が階段から落とされるリスクは少ない。ここでやるべきことは捕まえることではなく、警察が到着した時に「この人です!」と突き出すために、見失わない距離で追いかけておくことだった。
犯人はJR東川口駅の改札を出て、埼玉高速鉄道(地下鉄)へとつながる下りエスカレーターに向かった。改札を出て追いかける被害者さんに続いて、私も改札を出た。犯人は、長い下りエスカレーターをドドドドドと駆け下りていった。当時はまだエスカレーター歩行禁止条例はなかったので、他に誰も乗っていない長い下りエスカレーターを、3人が駆け降りていくという光景になった。
下りエスカレーターの下に着いた犯人は、そのまま埼玉高速鉄道の改札に向かうのではなく、今下りてきたルートを戻るかのように、隣の上りエスカレーターへと逃げていった。被害者さんはそれを後ろから追いかけるように、上りエスカレーターに乗って、犯人を後ろから追いかけていった。
私は、エスカレーター脇の長い階段に目が留まった。エスカレーターは途中で降りることができないので、この階段を私が駆け上がれば、エスカレーターを上がる犯人を追い越し、エスカレーターの上下から挟み撃ちにできるのではないか?(最上部で自分が危険にならない位置取りは必要になるが)
そうして私が階段をダッシュで駆け上がると、エスカレーターのてっぺんに、2人の警察官が到着した。私は警察を見て、エスカレーターを指差すことで警察官に「こっちです」と指示した。私のその姿は犯人からも見えていたかも知れない。そして上に着いた私は、これから黄緑色のリュックを背負った人が上がってくるから、その人が犯人だと警察官に伝えた。警察官2人は、そのエスカレーターの出口を塞ぐように立った。
だが待っていても、犯人はエスカレーターを上がってはこなかった。
私と警察の姿を見て、逃げ道がないと悟って、エスカレーターを逆走して逃げようとしたのかもしれない。だがそちら側には追いかける被害者さんがいた。そして下にも来ていた別の警察官に捕まったようだった。
こうして私たちは、無事安全に、車内暴力の犯人を警察に引き渡すことができた。
JR東川口駅に戻って、駅員さんと警察官たちがやりとりする間、改札の前でしばらく待機した。犯人もすぐ近くにいたが、もう抵抗することも、逃げようとすることもなかった。
被害者さんからは、私を危ない目に合わせてしまって申し訳なかったと言われた。そしてお礼がしたいと言ってくれたが、なんとなく断ってしまったので、それ以外連絡を取っておらず、どんな人だったのかはわからずじまいだ。
とりあえず私としては、被害者さんの戦略がよく計算されていて見事だったことに感銘を受けていたので、その旨を伝えておいた。お互いの意図を読んだ、連携プレーで勝利できたことがとても気持ちよかった。
あの場で行動した意味
この事件の調書を作成するため、私は後日警察署に呼ばれた。
今回のように電車の車内で起こった事件は、目撃者は多くても乗客と連絡が取ることが難しいため、証拠がないまま終わってしまうことが多いらしい。このため、被害者さんの証言と私の証言が一致することが、今回の事件の証言として求められたようだった。
警察の方たちは優しかった。私の職業について話すと親近感を感じたようで、嬉しそうにしていたのが印象的だった。犯人のリュックをつかんだ私の対応についてすごく褒めてもらえたので、それでよかったのだとわかった。
気になっていたのは、犯人が私のことを恨んでいるのかどうかだった。もし恨まれてるなら、これからは駅でホームの端に立たないように毎日気をつけないといけない。だが警察の方によると、私のことは特に気にとめていないようだった。そして犯人は、今回電車の中で感情的になったことについて、心から反省してくれているようだった。
それならいい。それが私のやりたかったことだ。
子育てをしたから知っている。人間、悪いことをしたときには、その瞬間に注意されれば素直に受け入れられる。あとから言うからトラブルになるのだ。即座に注意できる人がいれば解決できる問題が、世の中には結構たくさんある。
警察の方が推測するには、加齢によって、感情の制御が効きにくくなっていたのだろうとのことだった。
電車の中でカッとなって暴力を働いてしまった。するとそのことについて、すぐに近くの乗客に注意された。隣の車両に逃げたものの、被害者たちが隣の車両まで追いかけてきて警察を呼ばれてしまった。走って逃げようとしたが逃げられなかった。そして警察に逮捕された。
そうした経験によって、人に暴力をふるってはいけないのだと理解できたはずだ。そのおじいさんに今後十年、二十年の余生があったとして、その余生を同じように暴力をふるいながら人に嫌われて過ごすより、今ここで間違いに気づいて温かく過ごせるなら、そっちのほうがいいはずだ。おじいさんの周りの人も、その方がいいに違いない。
だから、やってよかったのだと思っている。
そしてそれは電車に乗っていた他の乗客たちへのメッセージでもある。
あの6号車に乗っていた人達の中には、「お願いだから面倒くさいことに巻き込まないでくれ」と、私たちのことを疎ましく思いながら身を固くしていた人達も多いかもしれない。そういう方たちに対しては、余計なトラブルに巻き込んでしまったことについて申し訳なく思う。
だがその一方で、隠れて勇気を与えられた人もいたはずだ。もしあの被害者さんが通報しないまま泣き寝入りしてたり、あのまま犯人だけ電車に乗って逃げることに成功していたら、あの被害者さんも、その様子を見ていた周りの乗客たちも、「電車は怖いところだ」と思ったままになってしまっていたかもしれない。怖くて電車に乗れなくなってしまう人もいたかもしれない。
でも、誰も助けてくれないで無視されるほど、電車は冷たいところじゃないのを私は知っている。妊娠中、大きいお腹を抱えていると、マタニティーマークを隠していても、電車の中で席を譲ってくれる人達にたくさん出会ってきた。子供を連れて乗った電車でも、嫌な顔されず、たくさん親切にしてもらってきた。さすがに通勤ラッシュの満員電車は殺伐としてても、オフピークの電車はそうでもない。ちゃんと気遣いにあふれた場所のはずだ。
その中で明らかに間違った行動をした人がいれば、ちゃんと制裁されるべきだ。そうでないと、安心して電車に乗ることができなくなる。たとえばそこにいた1人の女の子が、今後痴漢などの被害にあったとして、そこで泣き寝入りせずに、周りに助けを求められるかどうか。それには、あの状況での私たちの行動が影響を与えると思う。
そのためにも、やはりあの場では戦っておくことが必要だったのだと思う。
席を譲ってくれたあの方たちへの恩返しも込めて。
攻撃的サッカーのイメージで
私がリスクを考えながら比較的安全な作戦を選び、それが成功して無事犯人を捕まえられたのだということを説明しても、私の行動を「危ないから良くない」と言って、否定しようとする人達が多い。これを読んだ人の中にも、そう私に言って、私のことを諭したくなる人が多いだろうとは予想している。実際には、ほとんど危ない行動なんてしなかったのに。
確かに、リスクを顧みずに立ち向かうことは絶対にダメだ。アニメや映画のキャラだと自己犠牲精神の強い熱い人が多いが、そういう後先考えない行動は、絶対にやってはいけない。それはサッカーでも同様だ。パスコースのない状態で無謀に攻め上がって、相手にボールを奪われて失点するのは絶対避けないといけない。失点のリスクを防ぎながら戦うのは絶対条件だ。そしてフィジカルがなくても安全に戦う方法もちゃんとある。そういうところは、サッカーファンならわかっているはずだと思う。
重要なのはパスコースの有無だ。頭を使って周りの動きを計算し、相手からは届かない安全なパスコースを見つけられたらそこを攻める。今回の事件も、少し条件が違ったら安全なパスコースは見つからなかったかもしれない。犯人が刃物を持っている可能性が否定できなかったり、もっと話の通じない相手だったりした場合などだ。その場合は、無理に行動しないで逃げるほうが正解になるのだろう。他の乗客と同様に、私も刺激しないことしかできないかも知れないし、乗務員と連絡を取って、安全な場所に電車を緊急停止させて乗客全員を安全に避難させる方が正解になる場合もあるかも知れない。そもそも、被害者さんがこんなに優秀だったことがレアケースだ。
だからリスクが読めないときには、無理して行動しなくていい。でも自分の行動で状況を解決できる可能性については、思考を放棄せず、頭を使って考えてほしい。
ディフェンスラインの位置も重要だ。悪い人が現れた時に、自分のラインも下げるかのように、悪になびいて黙認していては何も解決しない。自分のラインは下げずに、逆に正義側のポジションを取りにいくのだ。そうすることで、周りに相手の方が悪いのとわかってもらえる。オフサイドトラップだ。
私たちが6号車に移動してやっていたことはそれである。穏やかで丁寧なビジネス口調で客観的なスタンスを保って話し続けた私たちは、声を荒げていた口の悪い加害者よりも、周りに信頼してもらえる可能性を高めることができた。
今回は車内でカッとなってしまったおじいさんという、割と難易度の低い敵との、わずか20分程度の駆け引きの話だ。だがこの他にも、自分のキャラを汚さずに、大物パワハラ上司を止めるために半年かけて組織を動かすなど、私もいろいろ経験してきた。そしてここまで無事に成果を上げることができている。そういうノウハウはあまりネットに転がっていない。だからそのスタンスは他の人にはシェアしたいと思っている。
おとなしそうな女性キャラでも、頭を使って考えればできることはちゃんとある。よくあるイメージのように、悲鳴を上げて助けを求める必要も、正義感を丸出しにして声を荒げて声高に訴える必要も、誰かを批判する必要もない。優しくおとなしそうな姿のままで、穏やかな口調で論理的に振る舞うだけで解決できてしまうことは、頭を使えば、あるときにはあるのだ。
そういう時、私の心の中には常にサッカーのプレーのイメージがある。浦和の女はなめたらあかん。そう思ってもらえたら、それでもいいのかもしれない。