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雑踏の雰囲気だけを伝える不思議な映画 『ターミナル』 グスタボ・フォンタン監督

山形国際ドキュメンタリー映画祭2023の「インターナショナル・コンペティション部門」で上映されたグスタボ・フォンタン監督の「ターミナル」。すみれとエツオが鑑賞直後の感想を語ります。

エツオ:「ターミナル」どうだった?

すみれ:アルゼンチンのバスステーションの映画ね。

エツオ:そうそう。コルドバっていうのがバスの表示に出てきたけど、アルゼンチンのコルドバ州にあるバスターミナルが舞台だったね。

すみれ:でも、この映画、人の表情とか全然、映してないんだよね。映しているのは、雑踏の雰囲気というか。

エツオ:そうね、その場の雰囲気だけだった。

すみれ:もうすこし個々の人間模様を出すかと思ったら、人間の顔はほとんど映っていなくて、人のシルエットと音、雑踏の雰囲気だけだった。バスの運転手の姿すら映ってない。たくさんの人間がいる場所の映画という感じ。実際の人間はほとんど映っていないんだけど、人間の存在感やざわめきは映像にしっかり収められている。人の表情は見えず、そこにいる人たちの断片的な薄いエピソードが感じられた。不思議なターミナルのようだった。

エツオ:たしかに、そんな感じだったね。

すみれ:NHKの「72時間」のような人間模様を強く出すのかと思ったら、ただ、その場にいる人々がざわざわ動いてる感じのざわめきだけを1時間に閉じ込めたような、不思議な映像だった。映像が綺麗だと聞いて、見ることにしたんだけど、綺麗というより、実験的なものを感じた。途中で何度か寝落ちしてしまって、ちゃんと見れてないところもあるけどね。新宿のバスターミナルで人を待ちながら、人々がざわついているの見ている感じ。それに誘われて寝てしまった(笑) エツオはどうだった?

エツオ:僕は寝ないで、頑張って最後まで見たんだけど、この映画の特徴として思ったのは、カメラの撮り方だね。普通、ドキュメンタリーだと、できるだけ被写体に近づいて正面から撮るけど、そうではなく、後ろから撮っているんだ。隠し撮りに近いというか。実際は隠し撮りと違うけど、隠し撮り的な距離感というかさ。

すみれ:後ろ姿のシルエットだったよね。

エツオ:そう。しかも人間が、本当に左の隅にちょっとだけ映るみたいな感じだったよ。

すみれ:人が隅に寄りすぎてて、なんだかわからないっていう。

エツオ:そうそう。それから、体のお腹の辺りしか映らないとか。これは明らかに意図的にやっている。それから、これも意図的だと思うけど、ときどきピンボケになってしまう。

すみれ:ピンボケがあったね。

エツオ:ピンぼけてしまって、人の姿がぼやんとしか映らない状態が、何秒も続く感じ。

すみれ:人に近づきすぎてしまって、ピンポケしているのもあった。

エツオ:あれも、わざとやっているんだろうね。もう一つ、僕が見て思ったのは、色だよね。あるいは色というか、露出。とにかく暗い。暗いから何が映っているのか判別が大変で、しかも人をしっかり撮らないから、本当に雰囲気しか伝わらないという。でも、それが映画の意図で、雰囲気を伝えるということなのだと思う。

すみれ:そうね。だから、時空を超えてしまっている感じもした。あのバスターミナルで、いろんな人が行き来して、いろんな時空が錯綜するような、そんな印象を受けた。

エツオ:テレビのドキュメンタリーでは、こんなことは絶対にありえない。こんな映像は意味がわからなくて、すぐにみんながチャンネルを変えてしまうから、テレビでは成立しない。でも、ドキュメンタリー映画としては、作家性が出ているということで、評価される。

すみれ:そういうのが多いよね。特に山形ドキュメンタリー映画祭は。

エツオ:この「ターミナル」は、インターナショナル・コンペティションに選ばれてるわけだから、評価されてるってことなんだよね。ちょっと独特だなと思ったけど。

すみれ:前評判で映像が綺麗、特に夜の映像が綺麗と言われていたから見たんだけど、ちょっと失敗した感じ。

エツオ:たしかに、綺麗な映像だったね。綺麗かどうかは、人の感性にもよると思うけど。

すみれ:では、点数をつけるとすると、10点満点中、何点かな。

エツオ:まあ、6点だな。

すみれ:私も5点くらいかな。悪くはないけど、良くもないって感じ。

エツオ:そうだね。でも、ああいうのが好きな人はいるんだろうと思うよ。

すみれ:うん、そうだね。アンビエントな映画っていうか。

エツオ:いわゆる普通のドキュメンタリーの真逆をやってる感じだった。人を撮らず、人の話も聞かず、ただ、その場の雰囲気だけを撮るという。

すみれ:もう、実験だよね。「ターミナル」というタイトルから、こんな感じで来るんだろうなって思ってたのが、全部裏切られた。それだけに、すごい力が入ってるなとは感じたよ。

エツオ:ちなみに、ときどきモノローグの語りが入るんだけど、その語りは全て何らかの恋にまつわる話。しかも、昔の初恋の話が多くて、一目惚れしたとか、ずっと好きだったみたいな話が散発的に入ってくる。このモノローグとターミナルにいる人がどう関係してるのかよくわからないんだけど。たぶん関係ないんだけどね。別に、ターミナルにいる人に聞いた話ってわけでもないようで。

すみれ:そういえば、ターミナル的な場所ということで考えると、クリープハイプの歌の「栞(しおり」を思い出すんだよね。

エツオ:ターミナルは人が行き交う場所だよね。

すみれ:出会いと別れ。

エツオ:僕も、出会いと別れの場というイメージを伝えたいのかなと思った。

すみれ:ただ、本気でそれをやろうという気はなかったんだよね。具体的にやるつもりはないという感じがした。その場に「気」が集まっているというか。出会いと別れの、いろんな人の「気」がそこに渦巻いているというのを表現しているという雰囲気を感じた。そんな感じで、私の評価は5点です。

エツオ:そうだね。まあまあの映画だった。でも、これぞ山形ドキュメンタリー映画祭っぽい映画だなと思ったよ。

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