面子の国を面子で抑え込む
中国の軍事力による現状変更を滞らせる方法として、自由と民主主義の価値観を共有する各国が選択した対中外交にひとつの方向性が浮かび上がっています。
6日、台湾に「米軍」輸送機が着陸しコロナのワクチンの支援を開始しました。日本からのアストロゼネカ製ワクチンの無償提供に続くアメリカ政府からの支援で、これにより台湾政府に中国製ワクチンを導入すべきだという台湾内外の圧力は弱まりました。
7日、フランス上院で台湾の国際機関参加を支持する決議案が可決されました。これにより台湾が世界保健機関、国際民間航空機関、国際刑事警察機構などへ、中国とは別枠で参加できるよう具体的な支援をフランス政府がやることになります。
9日の日本の党首討論で菅首相がコロナ対策の事例としてオーストラリア、ニュージーランド、台湾を挙げ「3国」と表現しました。これを受け中国外務省の副報道局長は不満を表明します。
さて、これらのニュースは脈絡が無いコロナを中心にした話題ですが、中国にだけ聞こえる別の声があります。
外交的にひとつの中国の確認を各国に問えないとなれば習近平は人民から弱い指導者と目され、習近平のライバルは習近平の指導力に疑問を投げかけ、その地位を脅かします。人民へのカリスマ性は薄らぎ、習近平体制の統治力に支障が生じかねません。昨年11月の日中外相会談でも会談後の共同記者発表で、中国の王毅外相が日本側からの反論が無い事を承知の上で中国国内向けに、会談になかった話を捲し立てたのも、また今年の3月に中国の外交担当のトップである楊潔篪がアラスカで行われた米中高官協議の席で“アメリカ人には通じない中国語”で一方的に捲し立て、通訳が間に入ろうとするのを拒否したのも、すべて外交で勝利できない中国が中国国内向け報道で外交上、勝利したかのように演出するためです。
ほんの5年前、2016年ドナルド・トランプ大統領候補がアメリカメディアで「一つの中国」政策を疑問視する発言をした後、大統領に就任したトランプに習近平は電話会談で「深刻な懸念」を問い「一つの中国」の原則を尊重する返答を引き出しますが、今回はその確認を求めることが出来ないようです。
冒頭に挙げたニュースは中国の政治的主張である“ひとつの中国“を揺さぶるモノです。
しかし今の中国は世界を相手にひとつの中国を確認するだけの外交手腕がありません。故に中国が自ら進んでひとつの中国を議論の俎上に持ち出すことはありません。
中国は国内に多くの脅威を抱えています。
2018年に発表された予算報告では中国共産党の権威を維持するための治安維持費用は政府支出の6,1%。国防予算を約20%も上回る20兆8800億円になりました。
国内からの反発を払拭するために更なる軍事的アクションを起こそうにも「自由で開かれたインド太平洋」戦略にEU圏の参加も加わり中国にとっては二正面の衝突のリスクが大きくなります。対外的な仕掛けで確実な成果が期待できないと判断したなら習近平が取る方策は国内の抑制になると予想できます。
これに先手を打つためか3日、新華社通信は、習近平は「愛される中国」を訴え友好国の拡大を希望する旨を共産党内部で先月31日に「言っていた」と報道しました。
中国が高圧的で敵対的な外交姿勢を取り下げ、今までの方針と真逆な主張をする裏には理由があります。1978年に日中平和友好条約を結んだのち、鄧小平副首相は尖閣問題を主張しませんでした。大きな選択を迫られたときの中国が簡単に今までの主張を引き下げる実例です。中国の主張は本来はただの政治的なカードです。武器に成長する前に封じ込めないといけません。中国の人口は今や14億に達しようとしていますが、中国人は国より一族を信用し、お金以外の共通する価値観を有しません。中国国民が一丸となって国際社会に立ち向かうとなれば一大事ですが、彼らに国家を守る意識は無く民族として纏まろうとする結束力はありません。
今も戦前と同じく孫文が「中国人は砂のようだ」と中国人の団結力の無さを嘆いた時と同じなのです。経済成長が達成されてる限りは国民の統制も深刻な事態には成りません。しかし、日米の経済政策が持続されコロナを経てブロック経済圏の時代を迎えた時、中国の暴動のリスクは高まり続けます。習近平が今までのまま強行的な姿勢を貫くことは内外共に困難になります。
これを踏まえてG7サミットが11日から開催されます。
G7サミットの焦点が中国対応となることを危うんだ中国は9日、中韓外相電話会談で王毅 は「バイデン政権の同盟強化による対中包囲網」に言及し「韓国はこれに飲まれてはならない」と釘を刺します。
12日、在英大使館は「ルールを少数の国が定めるものではない」と主張し「世界の物事を少数の国が動かすような時代は過ぎ去った」と、これまで中国が培ってきた地位を守ろうとします。
もはや軍事力による中国の一方的な現状の打開は許されません
日本の主導で牽引された自由で開かれたインド太平洋戦略が中国の軍事力の行使を抑え込んだのです。