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死がこわい件
人間も他の生物もいつか死ぬんだと初めて気づいたのはいつだったか。覚えているのは幼稚園の年長のときだ。
何がきっかけだったのかは思い出せない。でもそのとき「死」が腑に落ちて、一定期間ずっと考えていた。
夜寝る前に、わたしは毎日お祈りをした。
「かみさま、ほとけさま、かんのんさま、おじぞうさま、つばさのあるへびさま」
から始まるお祈りである。
今思えば、幼稚園児でもこんな言葉知ってるんだな?と人ごとみたいに感じる。この”つばさのあるへびさま”とは当時、夕方にあっていたアニメで、確か冒険ものだったがその中で出てくる神様だったと思う。もしかしたら”首が3つあるヘビ様”だったか、とにかくヘビ様だった。
「かみさま、ほとけさま、かんのんさま、おじぞうさま、つばさのあるへびさま、おじいちゃんとおばあちゃんが死にませんように。お父さんとお母さんが死にませんように。もし死ぬときは、わたしもいっしょに死ねますように。」
そんなお祈りだった。
寝る前に毎日毎日、どれくらい続けたか忘れたけれど、けっこう続けていた。当時のわたしが怖かったのは、周りの人が死ぬことだった。死んで一人ぼっちになってしまわないか、それだったらわたしも一緒に死ねますように。というお祈りだった。
今はどうか。
今でももちろん、親しい人が死んでしまうのは怖い。
母は、祖母を亡くした年に親が亡くなった後の世界は「なんとも砂漠のようだ」と呟いたことがある。
彼ら亡き後にどういう世界がわたしを待っているのかと想像すると、自分の心から何か大事なものが欠落して、ぽかんと穴が空いてしまうのではないか。
一方、今、自分が死ぬのも怖い。
ある瞬間に突如として、自分という存在がこの世界から消えてしまう。本当にある瞬間に。それを考えると真っ暗な世界にぽつんと一人いて、手と足をそろそろ動かしながら、ここはどこー?と心で叫んでいるみたいな気持ちになる。
エピクロスは、「死を恐れる必要はない。わたしたちが存在している間、死は存在せず。死が存在すると私たちは存在しないのだから」というようなことを言った。
まさに、その通りなんだけど。
またどなたか忘れたが、心理学で、「神様、わたしにください。コントロールできないものを手放す勇気を」というフレーズがある。”死”なんて全くコントロールできないではないか。
と思いつつ。
今日もお布団に入って目を瞑ったら、「わたし、明日の朝、目覚めなかったらどうしよう」ってふと頭に浮かべてしまうのかなあ。夜は、生物の思考に影響を与えるのかもしれない。