さよなら、洗濯機
ある日、洗濯機からジャリジャリと異音がした。
2014年製の縦型洗濯機。容量4.5キロ。
某家電量販店のオリジナルブランド。
まずジャリジャリ音が異物によるものだとしたら、失くすと困るものが入っているかも...とか子供がなにか入れた?と気になったので、メーカーや町の電器屋さんに見て貰えないか問い合せた。
しかし、この洗濯機が家電量販オリジナルブランドでありかつ生産終了となっていることで、修理はできないと断られてしまった。
「直せなくてもいいので...見てもらうだけでも...」
とお願いしてみたが無理だった。
買い替えだな!と潔く決められない理由があった。
もう2023年。その縦型洗濯機を10年近く使った。
この洗濯機は、私が大学生だった2014年のある日、父が突然大阪へ単身赴任をすることになったために買われた。
冷蔵庫や電子レンジ等とセットになっていたものだと記憶している。
父の一人暮らし先は梅田にほど近いマンションだったので、私は大阪での就職活動のときに泊めてもらったことがある。
当たり前のようにこの洗濯機をまわし、勝手に浴室乾燥で乾かした。
父からは贅沢だ外に干せと文句を言われた。
そんな父の単身赴任はなんとたった半年で終了した。
洗濯機は仲間である電子レンジ、冷蔵庫とともに福岡の実家へ戻ってしばらく物置で休んでいた。
しかし、一緒に大阪生活を頑張った電子レンジと冷蔵庫は、新たな持ち主のもとへ行ってしまったのである。
そこには、洗濯機だけがぽつりと残っていた。
その後しばらくして、新社会人の私も一人暮らしをすることになった。
実家からも車で1時間かからないほどの距離の単身マンションだったため、トヨタのウィッシュに洗濯機を乗せて、一緒に引っ越しした。
それから洗濯機と私は一緒に暮らした。
洗濯機も、久しぶりに思い切り運動できて喜んでいるようだった。
しばらくして、私は結婚した。
福岡を出て、札幌へ行くことになった。
夫の一人暮らし時代の家電が色々とあったため、とりあえずそれを使おうという話になっていたが、なんとタイミングよく夫の洗濯機が壊れてしまった。
そのため、この私の洗濯機も一緒に札幌へお嫁に行くこととなった。
洗濯機は、運送会社の家電宅配サービスを使って、私より1週間ほど遅れて船でやってきた。 ダンボールでぐるぐる巻きに守られていた。寒い土地にやってくるのだと分かっていたみたいに。
福岡の見知った人が札幌の我が家に来たみたいで、「よく来たねぇ!」と声をかけた。お気に入りの枕を洗濯槽の中に入れておいたが、ちゃんと持ってきてくれていた。
そして洗濯機はしばらく札幌で私と夫と一緒に暮らした。
時が経ち、また引っ越すことになった。
福岡は北九州市。
大手引越し業者が洗濯機も一緒に運んでくださった。
今度は特製の毛布に包まれてモフモフでトラックから降りてきた。
ほどなくして、息子が生まれた。
何度も何度も洗濯機を回した。北九州でも大活躍だ。
そして次は熊本へ。もちろん洗濯機も一緒。
保育園から帰るととんでもない量の汚れ物。
ここは任せてあんたは息子ちゃん見とき!と、一生懸命に洗って綺麗にしてくれた。
そんな、私と10年をすごした洗濯機。
もう直らないんだと思うと寂しくなった。
数日後、最新型のドラム式感想機能付き洗濯機を購入したが、なんだかあまり嬉しくなかった。
新しい洗濯機の搬入の日も、私は玄関に出された縦型洗濯機を撫でて「ありがとう」と伝えてさよならをした。
ドラム式洗濯機はあまりの静かさと使う水の少なさに、本当に洗えているのかと未だに信用ならない。しかし乾燥機能は正直......めっちゃ助かっている。
新しい洗濯機との生活にも慣れてきたが、縦型の良さもまだまだ忘れられない。
あの子がリサイクルされて、新しい人生を楽しんでいることを願っている。