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髪を結(ゆわ)えて
何年ぶりだろう。鏡に向かって思わず微笑む。そこにはおさげ髪の私がいる。
最後に髪を切ったのが思い出せない位、髪を切りに行っていない。ちょうど母の具合が悪くなり、それどころではなくなったのだ。伸びても結(ゆわ)えていたらごまかせて、今に至る。髪は肩より少し下まで伸びた。
手術後は、思いもよらない事の連続だった。術後の傷の痛み、そして不自由、何より暑さだった。術後は点滴や尿管など、がんじがらめで病室に戻される。それは措置として当然だし、藁にもすがる患者としては大変ありがたい。ありがたいけど、元々腰痛持ちの私は、仰向けに体が固定されるのがこんなにしんどいとは思っておらず、丸一日本当に辛かった。丁寧な措置ほど体をぐるぐる巻きにするので、大変な暑さだった。暑くて蒸れて、額に汗が浮かぶが寝返りもうてなかった。
そんな辛い状況も、点滴がひとつまた一つと外され、様々な管(くだ)が去り、やがて身一つに戻るとうんと改善した。シャワーの許可が出たのは手術から丸二日目の事だった。
シャワー後、さっぱりとしてから髪を結える。寝るのに差し障らないように髪を左右に分ける。そこで何となく、三つ編みに結えてみたのだ。
おしゃれに目覚めた訳ではなく、単に涼しく寝やすいから三つ編みにしただけだけど、編めるほどに伸びた自分の髪の長さに、今更気付いた。
三つ編みで通った頃の私と、髪を切りに行く暇がなかった私と、時系列で全て私なのだ。それが、何だかおかしかった。