僕と私の内緒の世界 2 (秘密が一つ)
「おーい!」
「なんで、ここで寝ているの?」
「大丈夫?!」
遠くから誰かの声が聞こえる。
スミレではない、大人の女性の声。
意識が戻ってくる。
そうだ、砂浜で貝殻を拾っていたら、気持ち悪くなったんだけ。
家に帰ろうとしたけど途中歩けなくなって、坂の途中にある大きな樹の所で・・・、そこから記憶がない。
「大丈夫ね?」
目を開けると、近所のお姉ちゃんだった。
心配そうにしゃがみ込んで私の顔を覗き込むお姉ちゃんに、
「うん、大丈夫」
「ちょっと疲れたから、座ってただけ」
お姉ちゃんは一瞬何かを考えるような顔をしたが、そうなのって言って立ち上がり、じゃーねって言って歩いて何処かに行った。
「スミレ」
「スミレ!」
「な・に・」
小さいく囁くような声が聞こえた。
「大丈夫? ・・・気持ち悪いね」
「うん、まだ気持ち悪い、水が飲みたい」スミレは弱く答える。
「この坂越えたら家はすぐそこだ、着いたら冷蔵庫にあるキンキンに冷えた水、たくさん飲もう」
「ね」
木陰で少し休んだおかげで、何とか歩けるまで体が回復していた。
自分で自分達を励ましながら、照り付ける昼下がりの太陽の下をフラフラと歩き、なんとか家にたどり着いた。
祖父も祖母も畑仕事からまだ帰って着ていない。
玄関には放り投げたランドセルがそのままあった。
私達は台所に直行して冷蔵庫を開けた。水が入った透明のビンを取り出し、そのままラッパ飲みで飲んだ。
「冷たい!」
いきなり大量の冷えた水を飲んでしまったので、噴水のように吐いた。
吐いた物そのままに、畳の部屋にいって、そこでしばらく横になった。
「倒れちゃったこと、おじぃーとおばぁーにバレたら怒られるね」
少し元気を取り戻したスミレが云う。
「うん、今日の事は内緒」
私は人差し指を立てて唇に押し当てた。
いつも祖母から一人で海には行くなと口酸っぱく言われている。
祖父母は私が2才の時に実親から引き取って育てている。
なにかと心配なんだろう。
だから、心配させることはできない。
また一つ、二人だけの秘密ができた。
そもそもスミレの存在自体秘密。
40年の時が流れるまで・・・、誰にも。