私が持てなかった勇気
「春香。今日、私、トオルに告白する。いいよね?」
大学の講義が終わって席を立とうした時、由美が突然私に言った。
「えっ! マジで?」
「うん」
トオルと由美と私の三人は同じ大学に通う学生。いくつかの部活やサークルが集まっての合同飲み会で三人は出会った。それから三人は暇があれば一緒に遊ぶようになった。というか大学生は暇だ。だからいつも一緒に遊んだ。
三人とも貧乏学生。遊び場と言ったら、トオルが所属するバンドサークルの練習室でおしゃべりするか、トオルのおんぼろ車でドライブするのがお決まりの遊ぶパターンだった。
いつの事だったか、ある日、海に沈む太陽が見たくて、トオルにメッセージを送ったことがあった。
今日、暇?
方、サンセットビーチに行かない?
[ TO-RU ]
いいよ
ユミもくる?
来るよ、なんで?
[ TO-RU ]
いや、べつに。
三人で来たサンセットビーチ。夕日を見るにはまだ時間が早くて、陽はまだ高かった。
照りつける陽射しに汗がじわっと肌に浮いく。焼けたテトラポットを三人でおしゃべりをしながら歩いた。
時折吹く強い風の音が、三人のおしゃべりを邪魔した。
風が邪魔するたびに、耳元まで近づくトオルの顔にドキドキした。
トオルがちょうど私の耳元で話している時、前を歩いていた由美が振り向いた。
私と由美の目と目が合う。
「なになに?」
由美はニコニコしながら、普通を装い、トオルの側に寄ってきた。
(由美、あなたもトオルのことがスキなのね。さっき、あなたと目があった時に分かったよ。でも、大丈夫、トオルはあなたのことがスキ)
「よかったね」
つい、声に出して言ってしまった。
「何が?」
トオルと由美が二人して同時に言った。
「なんでもない」
◇ ◇ ◇
一か月が過ぎた。
「春香、私、振られた。
トオルさ……、春香の事が好きだって。
だから、私とは付き合うことは出来ないって」
電話の向こうで由美の涙をこらえた、悲しみの声が聞こえていた。
私、どうしよう……
(トオル、みんな貴方のせい)