プロのシナリオライターの視点から見る東京ディズニーシーの凝った世界観【エントランス~メディテレーニアンハーバー編】
皆さんお久しぶりです。華月です。
以前アメリカンウォーターフロントのBGSを語る記事を書いたときに、「次回はロストリバーデルタ編で」と書いた気がしました。
先日現在制作に携わっているアニメの監督と食事に行くことがあったのですが、そちらの監督が「僕ディズニーシーに言ったこと無いんですよね」とおっしゃっており、「僕が解説して回ります!」なんて言っちゃったもんですから、解説しやすいように自分の中でデータをまとめ直そう、ということで今回記事を書いている次第です。
そういった経緯もあり、解説して回るためにはまずエントランスから解説した方がいいかな、と思い、一旦メディテレーニアンハーバーに戻って解説していきたいと思います。
前回の記事はこちら。
ただ、この記事は前回の記事を読んでいなくても、初めから解説していくつもりですので、初めて当方の解説を読み始めた方も、このまま読み進めて頂ければと思います。
また、今後も各エリアのBGSを網羅的に解説していきたいので、アメフロの記事で解説したりなかった部分に関しては「アメリカンウォーターフロント編②」みたいなものも書こうかと思います。
そして、前回も書きましたが、筆者がDヲタであることもあり、ストーリーに明るくない方々に向けて説明していることもあり、そもそも大本の世界観設定が細かすぎてそれを全部一度に説明しようとしていることもあり、この記事もマジで長くなります。
一回で読み切るには大変な量だと思いますので、つらくない程度に小分けにして読んで、ぜひディズニーの世界にのめりこんでくださいね。
それでは、さっそく本編をどうぞ。
◇初めに
皆さん、ディズニーシーは好きですか? 私は大好きです。
好きが高じすぎて、今までディズニーに一体いくら使ったのか、正直よく覚えていません。
沼にはまってからしばらくして、いつしか私は周辺のライター友達たちにディズニーシーのツアーをするようなことまでし始めてしまいました。
私がディズニーシーにはまった理由の一つをここで話せればと思います。
私がディズニーに、殊更ディズニーシーにはまった理由として、「ディズニーはただの遊園地ではない」、という理由があります。
幼少期のウォルトは、親が鉄道会社の社員だったこともあり、大の鉄道好きでした。
鉄道に乗り、移り変わる景色を絵に収めることが大好きだったのです。
そういった事情もあり、ウォルトの中には、自身のパークに鉄道を走らせたいという願望は、存命の間常にありました。そして、それは今も受け継がれていると私は信じています。
ウォルトが生を受けてからかなりの月日が経ち、ディズニーというIPも軌道に乗ったころ、ウォルトは自身の二人の娘をカーニバルや遊園地に連れていくことが多くなりました。
そんなある日ウォルトは、二人が楽しんでいるのを自身はぽつんとベンチに座ってピーナッツを食べている状況に、違和感を覚えました。
「大人も子供も、みんな揃って楽しめる遊園地はないのか」
その思い付きが、ウォルトの広大なパーク建設計画のきっかけとなったのです。
晴れてアナハイムとオーランドのディズニーランドがオープンし軌道に乗ったころ、次にディズニー社が考えたのが、ディズニーランドの世界展開でした。
そして、OLCは書簡をもち特攻。幾度の衝突の末、現在の千葉県浦安の地に世界で初めてのアメリカ外ディズニーパークが誕生したのでした。
長々とウォルトの遺志を語りましたが、そんなウォルトの、「大人も子供も、みんな揃って楽しめる遊園地はないのか」という考え、それが最も色濃く反映されているのは、私は東京ディズニーシーではないかと考えています。
そして、そんな大人も楽しめる要素の一つがパークの「BGS」で、この「BGS」が存在しているからこそ、ディズニーシーは「ただの遊園地」から、「夢の国」へと昇華されているのではないでしょうか。
◇ランドとシーのコンセプトの違い
そもそものディズニーシーは、パークとしてのコンセプトとして、大人をメインのターゲットとした遊園地です。
ディズニーランドに関しては、子供が迷子になってもすぐにキャストが発見できるよう、死角はなるべく少なくなるように設計され、そのためパーク内の高低も、あえて平坦になるように設計されています。
が、ディズニーシーはストーリーがエリアごとに作りこまれている性質上、高低差は激しく、そして死角も多いです。
あれは地形に合わせて作られたわけではありません。というかそもそも、舞浜のパーク自体海を埋め立てて造ったパークなので、本来であれば平坦に作る方が効率的なのです。
が、OLCはあえてそれをしませんでした。
パークの世界観を壊さないように、あえてディズニーシーは高低差が激しく造られているのです。
また、パークのエリアの呼び方にも、ランドとシーで違いがあります。
ディズニーシーは、「七つの海」という、世界で唯一海をコンセプトにしています。
そのため、それぞれのエリアに関しては、ディズニーシーは「テーマポート」呼称されます。
しかし、ディズニーランドに関しては、それぞれのエリアは「テーマランド」と呼称されています。
これは、海にまつわる伝説や物語にインスピレーションを得て建築されたからであり、そのため呼称も「ランド(陸)」ではなく「ポート(港)」となっているのです。
◇アクアスフィアの謎
さて、ここまでで、パークの内容ではなく、コンセプト自体からの違いについて解説しましたが、ここからは、実際にパークに足を運んで確認できる「BGS」を解説していきます。
初めてBGSというものに触れる人のために、BGSがどんなものなのか、触りの例としてアクアスフィアを出します。
皆さんが入園してからまず目にするこのアクアスフィア、形が地球儀となっていますが、これはこれから、皆さんが世界を旅行するということを示しています。
アクアスフィアを抜けると、「1901年、二十世紀初頭の地中海に面した南ヨーロッパの古き良き港町」が視界に広がり、そこからアメリカや南太平洋に浮かぶ島に足を運べる構造になっています。
このアクアスフィア、実は地球儀になっているだけあって、周辺にはそれと思わせる「プロップ(小道具)」が各所に配置されています。
例えばこの航空写真。
地面に描かれている線は太陽光を意味しており、パークから光が放たれていることを意味しています。
そして、線が太陽光をイメージしているとすれば、地面に書かれた丸に関してはもうお分かりですよね?
そう、地球から見たときの月の満ち欠けを表しているのです。
そしてもう一つ、アクアスフィアを囲むこの街灯を見たことはありますか?
これは形を見ればわかるように、星をイメージしてデザインされています。
そしてマンホールも同様に、太陽の天体や黄道十二星座が描かれたものを発見することができます。
こんな風に、パークに入る前から世界観が構築されていることで、これからの世界に没入できるよう、下準備を行っているという訳ですね。
……と、それぞれのプロップに関して解説していきましたが、こういった、それぞれのエリアやプロップに記されたストーリーや意味を紐解き、よりパークの世界観を深く知る、これらの背景に隠されたストーリーを私たちのようなDヲタは「BGS(バックグラウンドストーリー)」と呼んでいるのです。
……どうですか? 結構パークが面白くなってきたんじゃないですか?
◇アクアスフィアからメディテレーニアンハーバーまで
さて、皆さんがアクアスフィアを背中に、パークに進んで行くと、ミラコスタの下を通ってメディテレーニアンハーバーに入ることが出来ます。
この時、皆さんは一度は「すごい、これがディズニーシー!」と思ったことがあるかもしれません。
これには理由があり、パークのシンボルとされているプロメテウス火山がいきなり視界に入らないようになっているからなんです。
実はこのアクアスフィア前からメディテレーニアンハーバーに向かう道、緩やかな下り坂になっています。そして、それと併せて、ミラコスタ下の閉鎖的な通路。
これらが合わさることにより、ミラコ下を抜けて視界一杯に初めてプロメテウス火山が映ったとき、抑圧された状況から解放されることで「プロメテウス火山が見えた!」という感動を味わうことができるのです。
こういったパークの視界誘導や構造は、随所にみられます。
ディズニーパークを歩いていると、意識をしたことは無いかもしれませんが、「強制遠近法」という手法がよくつかわれていることに気が付くかもしれません。
これは、遠くに行くほどものが小さく見えるという遠近法を逆に利用し、遠くに見せたいものや大きく見せたいものを、小さく描くことによって実際より大きく見せることが可能になっているのです。
注視して見てみると、建物の上層に向かうほど、意図的にデザインが縮小していっていることがわかるかもしれません。
こういった技術はウォルトが映画製作をしていくことで身につけていった技術で、エリアの切り替えに水の音が挟まれている、という有名な豆知識も映画でよく使われている手法を、物理的にエリア切り替えに持ち込んだものになっているのです。
◇メディテレーニアンハーバー
さて、ここまできてようやくエリアの解説に入れました。
しかし、皆さん「メディテレーニアンハーバー……? BGSってそんなあったっけ?」となると思います。
確かに、メディテレーニアンハーバーにはストーリーらしいストーリーはあまりありません。あってもS.E.A.の出来上がった経緯とか、それくらいでしょう。
しかし、メディテレーニアンハーバーのBGSの凄さはそこではありません。
エリアの細部に至るまでこだわられた街並みこそ、メディテレーニアンハーバーの神髄なのです。
ということで、どれだけ街並みをこだわって造っているのか、本記事によって知っていただけたらと思います。
まずパークに入ると必ず通らなくてはならないエリア、それが「メディテレーニアンハーバー」です。
「メディテレーニアンハーバー」は「ポルト・パラディーゾ」「パラッツォ・カナル」「エクスプローラーズ・ランディング」の三つのエリアから成り立っています。
まずはその中でもポルトパラディーゾのBGSから解説していきましょう。
ポルト・パラディーゾは前述したように、地中海のヨーロッパが舞台となっています。
ポルト・パラディーゾとは、イタリア語で「パラダイスの港」という意味です。
このポルト・パラディーゾ、建物の外観ひとつ取っても精緻に造られている訳ですが、実はプロップに関しては、注視して、そして実際のモデルとなった現地の文化や環境などを知らないと分からないものが数多く存在します。
例えば、ホテルミラコスタの外壁に注目してよく見てみてください。
注意してみると、多くの窓が「だまし絵」になっていることが分かりますよね?
これは、ルネサンス期の絵画様式、「トロンプルイユ」というものです。
なぜこういっただまし絵が流行したかには、当時のイギリスやイタリアで施行された窓税が原因にあり、この窓税とは、イギリスでウィリアム3世が1696年に導入したもので、「大きな建物には沢山の窓がある」という考えに基づき、窓の数で税をかける、といったものです。
しかし、税金に関しては過去も現在も一緒で、出来るなら払いたくないと考えるのが常。
そこで生まれたのがトロンプルイユです。
窓の数は減らす。だけど、窓はいっぱいあるように見せたい。だったら、壁に絵を描けばいいじゃん! といった流れで流行しました。
そういった背景があり、だまし絵の窓が多く描かれているんですね。
また、そのほかにも、税金対策に埋め立てられたり、鉄格子を嵌められた窓もたくさん見かけることが出来ます。
もしパラッツォカナルを散策することがあれば、その辺りにも注目して見ていただければと思います。
そして、細かいのはトロンプルイユだけではありません。
この壁に描かれた白い線、分かりますか?
これは誰かが白線を引いたわけではなく、繰り返し高潮や洪水が起こることによってくっきりと水の跡が残ってしまったのですね。
これは、モデルとなったヴェネチアでも洪水が多かったので、それが忠実に再現されているようです。
さらに、注目して見て欲しいのが、川に刺さったポールです。
これ、よく見比べると、ボロいポールと装飾が施されたポールで分かれているのが分かります。
これは私用か公用かで分かれているものなんですが、それを聞いたところで一体何が私用なの? という疑問があるでしょう。
実は、モデルがヴェネチアだということもあり、メディテレーニアンハーバーはバスのような用途としてゴンドラを使用しています。
その際、公用のポールというのが、国が用意したゴンドラを停泊させるための支柱で、公用のためボロボロなのです。
逆に、レストランなどが客用に用意している支柱は、そのお店が自腹でポールを設置しているため、装飾が派手だったり、キレイなデザインになっているんですね。
……細かすぎない?
そして、この記事でパラッツォカナルのプロップ解説最後を締めるのが次。
パラッツォカナルの街並みを見ていくと、ショーウィンドウがあるのが分かると思います。
人形だったり、バイオリンだったり。これらはそのお店で何を売っているか分かるように商品が展示されているのですが、一つだけ、ショーウィンドウに鉄格子がついているお店を見ることが出来ます。
実は、当時のイタリアでは、仮面舞踏会用のヴェネチアンマスクは、ショーウィンドウに並んでいるバイオリンなどよりもよっぽど高価でした。
そのため、セキュリティ上の理由から、鉄格子によって防犯対策をしている、ということなんですね。
◇メディテレーニアンハーバーの発展に尽力した豪商「ザンビーニ一族」
さて、次の解説は、メディテレーニアンハーバーのBGSを語る上で外せない「ザンビーニ一族」の解説です。
このザンビーニ一族は、代々メディテレーニアンハーバーの大地主で、現在はザンビーニ三兄弟が「ザンビーニブラザーズリストランテ」を運営しています。
この三人は、ニューヨークデリにも広告で出している肖像画を見ることが出来ます。
現在のメディテレーニアンハーバーは、このザンビーニ一族が300年かけて築き上げてきた集大成となっています。
このザンビーニ一族、もともとはどういった人たちだったのか。
すべての始まりは、ザンビーニブラザーズリストランテから始まっています。
もともと、ザンビーニブラザーズリストランテは、ワイナリーを改装して、自分たちの畑で取れたブドウをワインにして提供していました。
そして、港町ということもあり、自分たちの店にやって来た旅行客や航海士たちに、併設の宿を提供していたのです。
皆さんもお気づきかもしれないのですが、それが「ホテルミラコスタ」です。
そして彼らは、後述するS.E.A.の学者たちにも宿を貸していました。
それから時が流れ、S.E.A.の活動も活発になってきた頃あたりで、ザンビーニブラザーズリストランテに併設された宿が足りなくなるという事態に陥りました。
そこで彼らは、自身の運営する宿舎を拡張することを決めます。
しかし、宿舎を拡張すれば宿泊者はより増えるのは明白。
そうして彼らは、宿舎が足りなくなるごとにどんどんと宿舎をパラッツォカナル側に拡張。
そうして出来上がったのが、今のホテルミラコスタなのです。
そういった背景があるため、ホテルミラコスタの外壁を見渡してみると分かるように、ザンビーニブラザーズリストランテ側からパラッツォカナル側に、視線を右に動かしていくと、だんだんと装飾がキレイに、豪華になっていくのが分かる、ということです。
◇『S.E.A.』という団体
次に、『S.E.A.』という団体を解説しましょう。
この先程ザンビーニ一族でも出てきた『S.E.A.』という団体、実はこのディズニーシーというパークにおいては、切っても切れない、BGSに深く紐づいた団体です。
まずこの『S.E.A.』という団体が何か解説しましょう。
『S.E.A.』とは、『Society of Explorers and Adventurers(冒険家と探検家の学会)』の頭文字を取った略称で、正式名称は上記のものになります。
この『S.E.A.』という団体には著名人が多く加入しており、そのメンバーはエクスプローラーズランディング内に肖像画として飾られています。
有名なところで言うと、航海士の「ヴァスコ・ダ・ガマ」やかの天才「レオナルド・ダ・ヴィンチ」、「フランシス・ドレイク」や「マルコ・ポーロ」等が会員となっております。
また、シーに一度は遊びに行ったことがあるなら誰もが知っている「ハイタワー三世」やソアリンで名前を耳にする「カメリア・ファルコ」もその会員です。
この『S.E.A.』という団体は、
という創設の歴史があります。
創設後は、多くの冒険家たちの会合や知識の共有場所として運用されていたのでしょう。
そして、新たな探検家を育成する施設でもあり、探検家となるための試練が「フォートレス・エクスプロレーション"ザ・レオナルドチャレンジ"」なのです。
この『S.E.A.』に関して、一旦はメンバーの把握と、パーク内におけるその重要度だけ理解していただければ問題ないです。
建築様式に関してなどは、より詳しく解説してくださっている方がいますので、そちらを参考にしていただければと思います。
◇エクスプローラーズ・ランディング近辺
皆さんが、何とはなしにしれ~っと通り過ぎているメディテレーニアンハーバーからミステリアスアイランドまでの道にも、細かな工夫が施されています。
皆さん一度は「プロメテウス火山の噴火、うるさいなぁ……」と思ったことがあると思います。
……ここに、意識を集中してください。そうです。プロメテウス火山は今なお噴火する「活火山」なのです。
ということは、マグマが流れ落ちてくることもあるってコト……!?
……そうです。
これを深く知ることが出来るのは、周辺の地面や山肌です。
エクスプローラーズ・ランディングを降り、ガレオン船付近の山肌を見ると、複数の線が入っていることに気が付くと思います。
これは「冷え固まったマグマ」と「火山灰」が交互に折り重なった地層です。
ここから、プロメテウス火山は幾度も噴火を繰り返し、そして今なお噴火していることが分かります。
それだけではありません。
溶岩の冷え方としても、実際の地質学に基づいて設計されており、例えばパホイホイ溶岩と呼ばれる溶岩(マグマが急速に冷えることで流れるように固まった溶岩)が存在したり。
アクアダクトブリッジの先にはきれいな六角形をした柱状節理と呼ばれる溶岩まで、その形は様々です。
そして、この柱状節理がある場所の地面を見ていただければわかると思いますが、六角形のタイルのようになっていませんか?
これは、もともと存在していた溶岩を削って道に加工したからで、根本の柱状節理だった部分は残っている、ということなんですね。
……どんだけこだわって作ってるの?
◇終わりに
ということで、本記事ではメディテレーニアンハーバーについてのBGSを解説していきました。
普段何気なく通り過ぎるだけでは、気づかないようなこだわりの多いメディテレーニアンハーバー。
ここでもかなり細かく解説していきましたが、これだけではまだメディテレーニアンハーバーのBGSは語り切れません。
例えば、煙突に屋根がついている理由とか、「ルスティカ仕上げ」と呼ばれる、壁に埋まった床を補強するための金具とか。
もしこの記事でBGSの一端にでも興味を持っていただけたなら、いろいろ調べてみると、次回のディズニーシーが楽しくなることは間違いないでしょう。
次回は、前回の記事で書ききれなかったアメフロのBGSを細かく解説していきたいので、「プロのシナリオライターの視点から見る東京ディズニーシーの凝った世界観【アメリカンウォーターフロント編②】」を書こうと思います。
それでは、また次回の記事で。
次回の記事はこちら。