もう会わない貴方へ。東京で雪が降りましたね。
先日、東京、横浜でも雪が降った。我が家から夕方、外を見るとしんしんと雪は積もっていた。雪ー。雪を見て、私は忘れられない情景がある。元夫との青森県奥入瀬への旅行だ。
金銭的に豊かでなかった私たちは、質素ながらも幸せに暮らしていた。新婚旅行は希望のところではなかったが、当時住んでいた大分県から近場の四国に行った。転勤を重ねて、東京、それから千葉へと引っ越した。豊かではなかったので、旅行なんて行けなかった。それが10年越しに夫が奮発して星野リゾートの一旅館、奥入瀬渓流へと連れて行ってくれたのだ。
私たちは出会ってすぐに結婚し、子供もなくずっと二人きりで濃密な時間を過ごしてきた。離婚は11、12年目に私が望んでしたことだった。浮気があったわけでもなく、体調不良と、色々な不都合が重なって、私の中で耐えきれないものがあり、離婚した。夫は渋っていた。なかなか離婚に応じてくれなかった。今思えばそれだけ愛してくれていたのだと思う。
奥入瀬へ行ったあの日ー。結婚して初めて叶った私たちにとっては大旅行だった。私たちは無邪気に雪と戯れ、雪だるまを作った。美味しい料理に舌鼓を打ち、「また来たい、違う季節にでもまた来たい、」と私は仕切りに言った。
幸せというのは、脆い、儚い。生卵のように命が危ういのと同じく、結婚生活だって二人の意思がうまく行き合わなければ、終止符を打つ時は来る。実際私たちにはその時が来た。長い月日だった。私たちの結婚生活は、涙ぐましい努力の賜物だった。沢山辛いことを共に、時には一人で互いに乗り越えてきた。
結婚するのは簡単だ。ペーパー一枚で叶うのだから。続けるのは難しい。別れるのも難しい。共同財産というものが生まれてくるから一筋縄に、はいさようなら、とは行かないものだ。
元夫よ、元気にしてくれているだろうか。願わくば私のことなど忘れてしまって、次のいい人を見つけて幸せになってほしい。お互いに次のステージに立ったのだから、もちろん恨みっこなしで、私たちの血と汗と涙と愛の詰まった日々を糧に、それぞれ明るい今を、その瞬間を生きていこうじゃないか。元夫に最後、弁護士を通したためやりとりが禁止になり、(私がそう希望したのだが)言えなかった一言がある。「今までありがとう」と。言えなかったけど、伝わっていてほしい。「ありがとう」私たちは純粋に愛し合ってきたことは確かだったのだから。
お互い嫌いになったわけでもなく、歯車が合わなくなってしまったのだ。
奥入瀬渓流に行ったあの夜ー。私は泣いていた。なんとなく切なかった。寝れなかった。旅館の中を歩いて、夜中もラウンジを行ったり来たりした。岡本太郎作の大きな暖炉の前で、一雫の涙を流した。終わりを予期したのだろうか。あんな幸せがもう二度と私たちに来そうもないことをー。予測していたのだろうか。
東京に、横浜に。雪が降った。雪を見るたびに思い出すのは、元夫の顔でもなく二人で拵えた不恰好なかわいい雪だるまだ。
ねえ、今年も関東に雪が降ったんだ。雪がー。