遺言作成業務における金融承継財産の指定方法の実務と理論
2007年に行政書士登録してから、主に遺言作成と相続(相続人確定、関係図作成、分割協議書作成)を扱ってきました。遺言については300件以上仕事として依頼を受けてきました。主に(95%以上)公正証書遺言で、自筆証書、死因贈与契約なんかが少しというところです。危急時遺言は2度程準備したことがありましたが、間に合わず(お医者さんが受けたがらないというのもあります)でした。秘密証書遺言は一度も経験ありません。
このあいだ、Twitterで紹介されていたブログの記事で「各推定相続人に金融機関の口座を指定しておくという遺言は不安定(口座解約の可能性等)なので、金融資産(銀行預金)の◯分1をAに、◯分の1をBにとしておく方がいい。」というのがありました。そのブログ記事にどこか違和感を感じました。その違和感の原因がその時はよくわからなかったのですが、その週末に、あらためて自分自身の遺言作成業務についていろいろと考えてみました。
300件を超える数の遺言を作るお手伝いをお金を頂戴してやってきましたが、その内容を分類すると、200件以上が子供のいない夫婦、あるいは子供のいない方(ずっと独身、あるいは配偶者と離婚、死別)でした。子供がいない夫婦のほとんどは「配偶者にすべて相続させる」です(+予備的遺言)。子供がいない方については、特定の相続人あるいは相続人以外の1人にすべてというものが多いです。次に多いのが前婚時の子供に対して、その子供には残したくないというものです。(現在の配偶者にすべて+予備的遺言として現在の配偶者との間の子供(達)にすべてという内容になります。)
あとは、配偶者がいて子供がいる中で、「配偶者にすべて相続させる」という遺言。推定相続人が子供達だけの場合にやっと、その分け方が問題になることが出てくるというのが私の実感です。なので、推定相続人間において、相続財産の遺産分割の指定方法について考えるケースって意外と少ないのです。
なので、遺言による遺産分割の指定方法について考えることは大事だし、各指定方法における発生しうる問題点を知っておくことは必要だけど、実務においては、遺言による金融資産の遺産分割の指定方法自体が問題となるケースが少ないのになあ。」というのが、そのブログを読んだときの私が違和感を感じた理由のひとつなのだろうと思います。(遺言者がどんな方であるのかという構成割合は、私の事務所の立地その他の影響を大きく受けているので、他の方、例えばお金持ちが顧客に多いであろう信託銀行が作成する遺言とでは大きく違うだろうと思います。)
相続人や受遺者に、どのように金融資産を相続させるかを決めるにあたっては、① ◯分1、○%とする、② 金融機関の口座毎に指定する、③ 100万円といった絶対的な金額を指定する、主にこれらの3つの方法があります。絶対的な金額を指定するやり方も、遺言の本なんかをみると、「遺言者が死亡したときにいくらお金が残っているかわからないのでトラブルになりがちなので避けた方が無難」的に書かれていることも多いです。しかしながら、私の場合は、口座毎指定か、絶対金額を指定することがほとんどです。
絶対金額を指定した場合の問題点は上記の通りですが、金融機関の口座名を書く問題点としては、遺言者が死亡時に、その口座が残っているかどうかわからないというのがあります。しかし、遺言作成のお客様の年齢層は80歳代が中心であり、施設や高齢者向け住宅に住んでおられる方も多いです。そして、遺言作成にあたって、近くに住んで面倒を見ている推定相続人に相談していることがほとんどであり、通帳類の管理も頼んでいるケースも一定以上あります。そうなってくると、絶対金額を遺言に書いたはいいけど、というのも起こりにくく(そのあたりは事前によく考えるので)、通帳を解約してしまうなんてことも基本的にはおこらない(少なくとも面倒を見てくれている人に対して指定した口座の通帳は)ことになります。なので、「○○銀行○○支店の口座は○○に相続させる」とか「長男に1000万円を相続させる」といった内容の遺言をあまり不安を感じないで作成しています。そのあたりがブログに違和感を感じた2つめの理由だと思います。
とはいえ、まだ60歳くらいの方が遺言を作るとしたら、絶対金額を書くことも、銀行口座を指定することもしないとは思います。その時点で余命宣告されているような方は別ですが、そうでなければ、その時点での遺言は「万が一のための保険」ですし、その先、いろんな変化が起こっていきますので、その遺言が何十年にわたって有効であるとは思いませんし、その旨遺言者に説明します。「あくまで保険として、この先、10年程度通用する遺言にしておきましょう。」と伝えます。そしてそのときに受取人を複数指定したいのであれば、金融資産については、○分1とか○%を使います。
遺言作成のお手伝いというのは、遺言者の思いを書面にする仕事ですが、遺言者さんが、毎月の年金額、支出額といった込み入ったところまで立ち入らせてくれるのであれば、その後の人生のお金の流れ等も考えながら遺言を作るお手伝いをしていきます。
その結果できあがってきた遺言においては、絶対金額を指定してあっても、口座指定がされていたとしても、それほどの危険はないと思いますし、例えば口座指定であれば、口座の残高を1000万円から500万円に、あるいはその逆にすることで、実質的に遺言の内容を後で変更することができるメリットの方が勝るのではないかと思います。
〜まだ途中ですが、公開しておきます〜
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