共歪存(きょういぞん)

『共歪存(きょういぞん)』 
三人声劇(男:女=1:1)

声劇台本置き場…https://taltal3014.lsv.jp/api-server/public/share/script/5951

《登場人物》

・相沢 愛(あいざわ あい)…祐介に思いを寄せている。歪んだ愛である自覚はない。

・成海 祐介(なるみ ゆうすけ)…愛との面識はないが、相手からは認知されている。

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祐介:(M)ここは…どこだ?何も見えない…。目は開けているはずなのに、真っ暗だ…。

祐介:「誰か…。誰かいませんか?」

愛:「あっ!目が覚めたんですね♪おはようございます♡」

祐介:「ごめんなさい…何も見えなくて。明かりを点けていただけますか?」

愛:「明かりですか?点いてますよ?」

祐介:「えっ…?」

愛:(M)ずっと眺めてるだけだった祐介さんが今、私の目の前にいる。

祐介:「からかっているんですか?真っ暗で何も見えないじゃないですか…。」

愛:「私には祐介さんがはっきり見えてますよ。」

祐介:「僕の名前…。あの...動きたくても動くこともできなくて…。助けていただけませんか?」

愛:「うふふ♡祐介さん。なぁーんにも身動きを制限するものなんてつけいてないですよ?」

祐介:(M)どういうことだ?動かそうとしても動かないのに邪魔しているものはない…??

愛:(M)うふふふ。…困惑してる。

愛:「祐介さん…。もし、もう何も見ることができないとしたらどうしますか?」

祐介:「えっ?突然どうしたんですか…?」

愛:「私なら、突然何も見えなくなったら怖くて泣いちゃうかなぁって…。」

祐介:(M)この人はいきなり何を言いだすんだ?

愛:「祐介さんならどうしますか?」

祐介:「まず、見えないことを受け入れられるかどうか...。」

愛:「そうなんですね。ちなみになんですけど...。」

祐介:「はい。」

愛:「電気...本当に点いてるんですよ?」

祐介:「えっ?じゃあ僕は目隠しされてるんですか?」

愛:「いいえ。」

祐介:「じゃあどうしてこんなにも真っ暗なんですか?目を閉じているわけじゃないし、閉じられた状態だとしても、不自然なほど明かりがない。」

愛:「えっと...。祐介さん、ごめんなさい。」

祐介:「え?どうしてあなたが謝るんですか?」

愛:「私、ずっと祐介さんのこと見てたんです。きっと祐介さんは私のことを知らないと思いますけど。」

祐介:「僕の名前を知っているなら、きっと僕もあなたのこと知っているんじゃないかと思うのですが...。」

愛:「話をしたこともないし、私が一方的に知ってるだけですよ。」

祐介:「どうしても名前は教えていただけないですか?」

愛:「...相沢です。」

祐介:「相沢さんですか...。ごめんなさい。苗字に聞き覚えがないので、下の名前を聞いてもいいですか?」

愛:「愛です。相沢 愛(あいざわ あい)です。聞き覚え無いですよね。」

祐介:「ごめんなさい。でもこれであなたじゃなくて名前で呼べますね。愛さん。」

愛:「えっ...。下の名前...。」

祐介:「僕のこと下の名前で呼んでくれていたので、愛さんって呼んだんですが、苗字の方がよかったですかね?気が回らなくてすみません。」

愛:「大丈夫です!愛って呼んでください。」

祐介:「愛さん、確認しておきたいんですが...。」

愛:「はい。何ですか?」

祐介:「部屋の明かりは点いていて、拘束具の類は着けられていないということで間違いないですか?」

愛:「その通りです。」

祐介:「嘘はついてないですよね?」

愛:「祐介さんに嘘なんてつきませんよ。」

祐介:「それならどうして…。」

愛:「私のせいなんです。私が祐介さんに顔を見られたくなかったから...。」

祐介:「それが、なぜ僕の目と関係があるんですか?」

愛:「私ずっと祐介さんと話してみたかったんです。でも私の顔を見たらきっと祐介さんも私と話なんてしたくなくなっちゃうと思ったから...。」

祐介:「......。」

愛:「見られないようにすれば、お話しできるんじゃないかって思ったんです。」

祐介:(M)見られないように...?

愛:「私がさっき聞いたこと、覚えてますか?」

祐介:「何も見ることが出来ないとしたらどうするかってやつですか?」

愛:「それです。」

祐介:「今話していたことに関係あるんですか?」

愛:「もう何も見ることが出来ないんです。」

祐介:「え...。」

愛:(M)祐介さんに嫌われても、恨まれてもそばに居られるなら...。耐えられる。

祐介:「それってまさか...。失明したってことですか?」

愛:「簡潔に言うとそうです。」

祐介:「失明...。もう何も見られない...、嘘だろ。」

愛:「ごめんなさい。」

祐介:「何か事故にでもあったんだったかな...。どうも記憶が曖昧で。」

愛:「事故...そうですね。」

祐介:「それは、愛さんが謝る必要はないですよ。」

愛:(M)事故...。数日見えなくするはずが、視力を奪ったんだから嘘ではないよね。

愛:「それでも...ごめんなさい。」

祐介:「ところで、四肢を動かせないのも事故が原因ですか?」

愛:「手術の時の麻酔がまだ効いているんだと思います。手足に少し麻痺が残るかもしれないとお医者さんが言っていました。」

祐介:「正直まだ信じられませんが、きっと愛さんは僕に嘘をつく人ではないと思うので、信じます。」

愛:「祐介さんさえよければ、私がそばで支えたいです。」

祐介:「支えるっていうのは、どういう意味ですか?」

愛:「一緒に暮らして、生活全てのお手伝いがしたいんです。」

祐介:「一緒に暮らすのはちょっと...。」

愛:(M)両親も亡くなってるし、親族で頼れるような人もいないはず...。

愛:「...彼女さんですか?」

祐介:「いや、今お付き合いしてる人はいませんよ。ただ...。」

愛:「ただ...?」

祐介:「気になっている人がいるので...。」

愛:「その人とは...どこまで?」

祐介:「実は話したことはないんです。それどころか、彼女は僕を認知すらしていないかもしれません。」

愛:「......。」

祐介:「気がつくといつも遠くから僕のいる方を見つめてるんです。僕のことを見てる訳じゃないと分かっているんですが、彼女のコロコロ変わる表情にいつしか目が離せなくなっていたんです。」

愛:「どんな人なんですか?」

祐介:「長い黒髪が綺麗に風に揺れていた印象が強いですね。いつも物陰に隠れるようにいたので服装とかはわからないですけど。」

愛:「...。」

祐介:「彼女のコロコロ変わる表情がもう見られないのは悲しいですが、せめて愛さんにお話したことを伝えられたら嬉しいな…。」

愛:「そ...そうですか...。」

祐介:「愛さん?どうかしたんですか?なんだか声の感じが変わりましたけど。」

愛:「大丈夫です。ちょっとここ離れちゃっても大丈夫ですか?すぐに戻ってくるので。」

祐介:「わかりました。少しずつ慣れていかないといけないと思うので、待ってます。」

愛:「ごめんなさい。じゃあ行きますね。」

0:

愛:(M)どうして...。

愛:「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!......私のこと気づいてくれてたなんて.....。それなのに私は、祐介さんを傷つけた...。」

祐介:「愛さん、動揺してたなぁー。どこかで怪我してないといいけど...。」

祐介:(M)僕がわざと愛さんに捕まったって知ったら、愛さんビックリするかな。大好きな人が苦悩するのを近くで感じられるなんて最高だなぁ。

祐介:「僕って幸せ者だな。」

0:

愛:「.....。」

祐介:「愛さん?そこにいるんですか?」

愛:「祐介さん。実は...。祐介さんが気になってたっていう女性なんですけど。」

祐介:「はい。」

愛:「.....私なんです。」

祐介:「...え?」

祐介:(M)わかってるよ。他の誰かに取られるくらいなら、監禁して僕だけのものにしたかった。でも僕には愛さんを監禁するなんて出来なかった。だから僕に好意を寄せてくれていると確信した時に、監禁される方になればいいんだって思ったんだ。

愛:「私、ずっと祐介さんのこと見てたんです。植込みとか銅像の影から。気持ち悪いですよね...。話しかけたかった。でも、化粧で隠していても顔の痣を見られるかもしれないと思うと怖かったんです。」

祐介:「僕が気になっていた人が愛さんだったなんて、まるでドラマみたいですね。」

愛:「気持ち悪くないんですか?ずっと物陰から見てたんですよ?そんな女が突然目の前に居たら怖くないですか?」

祐介:「最初は怖かったです。でも愛さんは僕を攻撃するどころか、ある程度の距離を保って話をしてくれていました。優しい人なんだなと思ったので、今はむしろ嬉しいです。」

愛:「.....。」

祐介:「目が見えなくて、手足に麻痺が残ってしまったら愛さんの負担にしかなりませんが、僕はずっと一緒に居たい。」

愛:「私も祐介さんと一緒に居たいです。」

愛:(M)ずっと思いを寄せていた祐介さんに一緒に居たいって言ってもらえるなんて、夢みたい。

祐介:(M)なにも知らないで喜んでる愛さんの顔が見られないのは残念だけど、これから先一緒に居られるなら気になるようなことじゃない。ずっとずーっと一緒だよ。嫌がったって離してあげない。死ぬまで...ううん、死んだ後だってずっと一緒だよ。

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END…

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