【参加報告レポート】 BIT VALLEY 2019 DAY1
Introduction
BIT VALLEY 2019に行ってきたので、その参加報告レポートです。
個人的に気になったポイントをピックアップして書いていきます。
テクノロジーとデザインによる、”感動価値” 創造への挑戦
10:50 - 11:30 ホールA(9F)
長谷川 豊
ソニー株式会社 VP. クリエイティブセンター センター長
主にMilan Design Weekでの展示例をベースとして、オブジェクトに紐づいたインタラクションデザインについて語られていました。
・Hidden Senses: Sony Design Exhibition at Milan Design Week 2018
・Sony presents: Affinity in Autonomy at Milan Design Week 2019
・Affinity in Autonomy <共生するロボティクス> - Sony Design Exhibition at Milan Design Week 2019
実際体験した訳ではないですが、映像からも単純に「おもしろい世界が広がっている」「楽しそう」という感じが伝わってきました。
プレゼン自体は、単にMilano Design Weekの内容紹介に止まらず、仕組みを支える高速ビジョンセンサーについての説明だったり、展示物のインタラクションデザインの狙いだったり、コンパクトにまとめながらも分かりやすく説明されていた印象でした。
個人的におもしろいポイントだなと思ったのは、「形自身が持つ意味性よりも関係性」に着目している部分です。例として、Milano Design Week2019でも展示されていたキューブ状の物体をあげていました。
一見無機質なオブジェクトでも振る舞い方で印象が変わってくる、ということをお話しされていました。動画の中でも確認できますが、人の動きに応じてキューブ状の物体が呼応するように動いており、どこかしら親しみを感じる動きでもあります。
物体として動くもの以外にも、「窓がない部屋で、木漏れ日が机にかかる様子を再現したり」「ポッド内の温度を背後に投影したり」など、興味深い事例が紹介されていました。
おそらくポイントは、ユーザーインターフェースの媒体として今までのようにディスプレイを使うのではなく、すでに存在する壁や窓など現実世界のオブジェクトにデジタルな情報を付加する考え方だと思います。
考え方としては、Pokemon Goに代表されるMixed Realityと近いのだと思いますが、ゴーグルやスマホなどデバイスを介さずに実現している部分が新しさを感じました。
茹でガエル状態の日本企業と躍進するGAFA。エンジニアは、これからどこで勝負すべきなのか?
11:50 - 12:30 ホールA(9F)
中島 聡
一般社団法人 シンギュラリティ・ソサエティ 代表理事
有名なMarc AndreessenのWhy Software Is Eating The Worldを冒頭に取り上げて、どちらかというと学生が多かったせいか、若手エンジニアへの就職も含めてキャリアプラン指南という色合いが強かったように思います。
メッセージは、メルマガなども通じて中島さんが度々発している内容でした。
・日本のエンジニアという見方ではなく、グローバル・地球規模でどこで働くかを考えた方がいい。
・スティーブ・ジョブズ、イーロンマスク、ベゾスに代表されるような創業者がビジョンを持っている会社がいい。
・社会が求めるもの、会社が求めるもの、自分が熱くなれるもの。ここがリンクすると良い。
ここら辺の内容は、自分自身も常に意識していないといけないな、講演を聴きながら改めて思いました。
日本のSIerの多重下請け構造に対する批判は、中島さん限らず色んな方がされているので改めてここでは記載しませんが、「大手SIer、中小SIerに行くのは絶対やめた方がいい。」とまで中島さんが言い切っていたのは、結構衝撃でした。
これを聞いた学生は、SIer行かないだろうな。。。とこれから脱SIerする身としては、自分ももはや勧めようとは思いませんが、ちょっと複雑な心境でした。
最近、こういう話を聞くたびに思うのは、多重下請け構造が悪いというよりは、その構造を作らざるを得ない日本の雇用規制の方じゃないか、ということです。
そう簡単には解雇できない日本の雇用規制を前提とすると、SIerに発注する企業側も、SIer自身もエンジニアを抱えにくい事情が、必然的に多重下請け構造でのビジネスモデルを成り立たせていると、当事者としても感じます。
また、同時に企業側が解雇しにくいということは、従業員としては解雇されにくいということでもあります。
一度、大手のSIerに入ってしまえば、既存のビジネスもあるので、ある意味既得権益に乗っかる形でさほど勉強せずにそれなりの給与をもらえます。それはある意味幸せな仕組みではあると思うのですが、もっとマクロな視点や長い時間軸で考えると、どこかで破綻する仕組みのように個人的には感じています。
ITトップが考えるモノづくり対談
12:50 - 13:50 ホールA(9F)
川邊 健太郎
ヤフー株式会社 代表取締役社長 / CEO
舛田 淳
LINE株式会社 取締役 / CSMO
守安 功
株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役社長 / CEO
山口 周
独立研究者 / 著作家 / パブリックスピーカー
個人的に印象に残ったのは、舛田さんのお話と川邊さんが話し始めた「ホニャララ屋のネット進出と、ネット屋のホニャララ進出の違いについては似て非なるもの」という話。
舛田さんのお話の1つは、経営者としてのモノ造りの考え方として本質的か問いかける、という話です。安宅和人さんの「ISSUE DRIVEN」を思い出しながら聞いていました。
・課題に対してピュアに本質をついているか。
・極論をいうと、無邪気にいうと、という枕詞=マジックワードをつけて意見を言ってみる、考えてみる。
・純粋に向き合っているか、「おおっすげっ」ってなるか。
など関連してコメントされていましたが、本質を捉えるという考え方自体の目新しさはないものの、その選ばれた言葉の軽やかさが印象に残りました。
最後に若い人へのメッセージとして、
・今後、チャレンジしていく時にこれまでどうだったか気にしなくて良い。
・二十年前とは時代が変わっている。
・これからは、個人がさらに強くなる時代で、組織やチームは目的に応じて組み変わっていくようになる。
・今までのことにあまりとらわれずに、遊びというか、実験というか、いつでも人生はやり直せる、一歩踏み出すことに軽やかな方が幸せになれる。
といったことを述べられていて、やはりその思考の柔軟性や軽やかさが印象に残りました。
川邊さんが話し始めた「ホニャララ屋のネット進出と、ネット屋のホニャララ進出の違いについては似て非なるもの」ですが、個人的には、ポイントとしては有名な「イノベーションのジレンマ」なんじゃないかと聞いてて感じました。
持たざる者である「ネット屋のホニャララ進出」とすでに何かしら持っている「ホニャララ屋のネット進出」という構図に自分は感じています。失うものがない側の方が制約がない分、チャレンジしやすいし、考え方も柔軟にできることなんだろうと思います。
「イノベーションのジレンマ」って会社という単位だけの話でもないと思っていて、個人でも「イノベーションのジレンマ」にハマることはあると思います。個人的にもそうだったと思う経験はあって、そのときやったことは思い切って変えてみること、舛田さんの話もあいまって「軽やかであること」を忘れずにいようと思ったトークセッションでした。
執念とこだわりで社会を変える あるプロダクトマネージャーの試行錯誤
15:20 - 16:00 ホールA(9F)
及川 卓也
Tably株式会社 代表取締役 / Technology Enabler
※当日使用されたスライドは、こちらです。
村上龍の「希望の国のエクソダス」からの引用で「この国には何でもある。ただ、「希望」だけがない。」というちょっとダークな始まり方をして、最終的には「プロダクトに対する愛が重要だ」というエモい終わり方をしていました。
プロダクトマネジメントに関する内容が盛りだくさんで、公開されたスライドを見ても情報量が多いですし、及川さんも話し足りなさそうに見えました。
個人的に印象に残ったのは、2点です。1つは、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの三角形からなるBTCモデル、2つは、及川さん自身の「プロダクトマネジメントではなく、プロジェクトマネジメントをしてしまった」という失敗談です。
BTCモデルについては、今回の講演で初めて知りました。確かにビジネス、テクノロジー、クリエイティブの三角形で示されてみると、ストンと納得するものがあります。
代表的なものとしては、Appleのプロダクトだと思いますが、現在関わっているSaaS企業でもWebデザイナーが多く在籍しており、海外でもDesign Systemを整備している企業が多くあるところからも、自分が関わりの深いソフトウェアの世界において、クリエイティブの存在感を感じます。
ex : design system
・Atlassian's official UI library, built according to the Atlassian Design Guidelines.
・Shopfy:Polaris
それは、単に形作るといった部分に止まらず、UI / UXの設計だったり、ある種コミュニケーションにおけるクリエイティビティがより必要とされる世界になってきているんじゃないか、と個人的に感じています。
そして、そこを避けてはビジネスとテクノロジーもより良いものにはなっていかないんだろうな、という実感があります。そういった感覚にリンクするような図だったので印象的でした。
及川さん自身の「プロダクトマネジメントではなく、プロジェクトマネジメントをしてしまった」という失敗談は、DEC時代のJISキーボード開発の話です。
SIerに身を置いていることもあって、プロジェクトマネジメントの経験とリンクさせながら話を聞いていましたが、確かに「プロジェクトを完遂させる」こと自体がゴールとなってしまって、「良いシステムにする」という観点がすっぽり抜けていた感覚があります。
ただ「システムを納期までに開発する」という作業に近くて、おそらくモノづくりに大事にプロダクト愛みたいなものはなかったな、と自分を振り返りつつ聞いていました。
及川さんの過去の失敗を踏まえた上での「Windows NT Alpha版プロジェクト」「IME:Google日本語入力」は、ビジョンやミッションを置いた上でのプロダクト愛がある話だったので納得感がありました。
アイデアの20年
16:30 - 17:10 ホールA(9F)
佐藤 オオキ
nendo 代表 / デザイナー
松原 亨
『POPEYE』 編集長
ラジオを聞いているようなゆるーいトークが心地よくて、デザインの前提知識とか歴史とか全然知りませんでしたが、非常に楽しめました。
印象的だったのは、冒頭にちらっと話していた「説明書を読まなくなった。たとえば、アップル。」という話。
使い勝手がいいとは、というお題で2軸「スキルがあって初めて使いやすくなる」使い勝手の良さ、「スキルがなくても初めて触って使いやすい」使い勝手の良さがあるとなり、後者の例で「説明書を読まなくなった。たとえば、アップル。」が出てきました。
直感的なデザインとよく言うと思うのですが、その代表例として確かにAppleはあげられると思います。自分で使っていても、それはMac OSのUI/UXというソフトウェアの世界に限らず、ハードウェアの部分も心地良さがあります。
その心地良さ=説明書がいらないという話ではないと思いますが、メカニカルなデザインの説明書きを読まないとわからない感じ=心地悪いは、繋がっているように思いました。
そして、Appleの影響が強いのかは分かりませんが、着実に説明書がいらないプロダクトデザインは存在感を増している感覚があります。
あと、最後の「盗まれないビニール傘」「カップヌードルが美味しく食べられるフォーク」は、デザインの背景にあるロジックに妙に納得してしまいました。
感性だけに寄らないロジカルなデザインであるのは、どちらも「ビニール傘が盗まれないようにする」「カップヌードルを美味しく食べられるようにする」という課題解決の手段であることが背景にあると思います。
そのこと自体は、不思議でもなんでもないのですが、佐藤オオキさんのデザインから広がる世界観みたいなものもあいまって、なるほど感が強かったです。