立ち会い出産がアリーナ席だった件 その四
前回からの続きです。まだの方はどうぞ。
立ち会い出産がアリーナ席だった件 その三|sumiko_h #note https://note.com/sumiko_h/n/n3da85cfe7669
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そうだ、師匠の為ではない、赤ん坊にこの世を見せる為に、私は、いきむのだ!!!
「ゔ〜ぐぬぬぬぬぬ……ハァハァふんっ……フッ!!どぅ〜〜〜……ん〜〜〜」
出産は、自分本位でいきんでもダメなのだ。母体と赤ん坊が息を合わせて、初めて成り立つのだ。
「今じゃない!違う!はいっ今‼」
師匠の声に耳を傾けろ!!!
心を研ぎ澄ませ!!!
赤ん坊のタイミングを感じろ!!!
頭で考えるな!
感じろ!!!
「んんーーーーーーーーー!!!」
血管が切れそうになって怖い……。
??
⁉
私はふと冷静になった。
分娩台に上がる前に、師匠に浣腸をしてもらい、全て出したつもりだったのたが、また出そうだ。
これ、出ちゃうかも。
「う○こ出ちゃってもいいから、いきみなさい!!!」
もう、この人は本当に、ただの師匠ではない。師匠でも、監督でも、仙人でもない。宇宙だ。
師匠に後光が差していたのは、幻では無かったのだ。
色んな気持ちがごちゃまぜになり、私はとうとう、無になる時が来た。
師匠、師匠、師匠!!!
赤ん坊、赤ん坊、赤ん坊!!!
いきんで、いきんで、いきむのだ!!!
ワンネスっっ!!!!!!!!!
ハッと気付いたら、師匠の指示により、元監督が私の足元に移動していた。
むむ!こ、これは!この角度は………
アリーナ席!!!
横浜アリーナか東京ドームかは分からないが、アリーナ席……
アリーナ!
YEAH!
アリーナ!
YEAH!!!
2階席も元気かぁーーーーーい!
(※2階席は、ここには無い)
などと言ってる場合ではない。
せっかく、あの境地に達したのに、またちっぽけな自分に戻ってしまった。
うーむ……
この角度に元監督が来たとなると、話が変わってくる。うーむ……。
でも師匠は容赦しない。
問答無用の師匠なのだ。
いや違う、元監督に感動を与えようと、師匠の、粋な計らいなのだ。
「ほら!出て来たよ!赤ん坊の頭が見えて来たよ!!」
宇宙よ、私にもう一度、無の境地を……!
ワンネス!!!
ジャキっっ!!!!!!!!
その瞬間、チラッと視界に入ったのだが、腕組みをしていた元監督は、片方の手のひらを自分の口に当てて、目を丸くしていた。
おばちゃんが驚いた時にやる、よくある、あのポーズだ。
どうやら、ラストいきみと同時に、陰部は院長によってハサミで斬られたらしい。
あとひと息というところで、元監督のおばちゃんポーズがチラついて、少し気を取られたが、もう、いい。私は野球帽を地面に叩きつけた身だ。
「ほぅら!赤ん坊のが頑張ってるよ!」
「んんんーーーーーーーゔーーーーーーーーギャァァアアア」
……???
オンギャァアア〜〜〜〜〜
誕生ーーーーーーーーーーーー♪
ゔゔー!
おめでとう自分!
おめでとう私!
おめでとうsumiちゃん!
何をやっても失敗ばかり。怒られてばかり。
そんな私にも出来たよ!
お母さん、私にも出来たよ!
sumiちゃん今、赤ん坊を産んだよーーーーーー!!!
自分の母親に対して、感謝が溢れつつ、頑張って出て来た赤ん坊にも、ありがとう!
初めまして!これから、ずっとよろしくね!
3410グラム
お腹の中で、どれだけ栄養を吸収していたのか……。
なかなか大き目の赤ん坊だが、まん丸でカワイイ赤ん坊だ。
※ヘッダー画像をよーく見ると、師匠のシワシワの親指がご覧頂けます。