無意識のモランボン
「ショートケーキを2つ、あとモランボンを1つ下さい」
……それ、焼き肉のタレだよね。ここはケーキ屋だよね。
私は高校生の頃、地元の駅ビルの中に入っているケーキ屋さんでアルバイトをしていた。駅ビルの中と言っても、改札口から外に出るまでの階段の踊り場にあった。
その為、駅に電車が停車する度に、降り立った人の波が店の前を通過する。
当時、テレビでは「モランボン焼き肉のたれ」というコマーシャルがよく流れていた。出演者は言わずと知れた、あの田代まさしだ。
テレビというのは本当に恐ろしいもので、場合によっては洗脳される。
当時、あまりにも流行った「モランボン焼き肉のタレ」の影響で皆「モランボン」だか「モンブラン」だか、ごっちゃになっている人が多かったようだ。
ケーキ屋で人気メニューの苺ショートと並び、艶々に光った栗が乗るモンブランも人気だった。ケーキのショーケースの中でも、その黄金色が存在感を放っていた。
店は駅ビルということもあり、老若男女、沢山の人が日々行き交う。スーツを来たサラリーマン、OLさん、大学生、私立小学生、親子連れ……様々な人がお土産に、とケーキ屋に立ち寄ってくれるのは有り難いのだが
モンブランを指差しては皆、高確率で「モランボン」と言うのだ。
やめてくれ。それだけはやめてくれ。
接客業たるもの、お客様の言った言葉を否定してはならぬ。今の時代は分からないが、少なくとも私が学生の頃はそうだった。お客様がどんな言い間違いをしたとしても、そこに被せて正しい言葉を放ってはならないのだ。
通常だと「モンブランを1つ下さい」と言われたら「はい、モンブランをお1つですね」と復唱するのだが「モランボンを1つ下さい」と言われても「はい、モランボンをお1つですね」とは言えない。
ここにモランボン焼き肉のたれは売っていないのだから。
もうこの時期は、もはや「モンブラン」というワードが出た時点で私の肩はたちまち震え、喉元も小刻みに震える。笑いたいけど笑えない。笑ってはいけない時というのは、何であんなに可笑しいものなのか……。
モランボン>モンブラン=モランボン焼き肉のたれ
この公式によると、潜在意識はモランボン焼き肉のたれに繋がっており、引き寄せの法則としては、モンブランが食べたいなぁと思いながら帰宅しても夕食は焼き肉で、食卓にはモランボン焼き肉のたれが置いてある……ということになるのだろうか。
どうでもいいけど、マーシー(田代まさし)って結構お洒落だったと思う。ヘアスタイルとアラレちゃんメガネ、マーシーグッズもセンスあったなぁと思い出す。
ちなみに、これもマーシーがやっていたコマーシャルの商品。エアインチョコぬ〜ぼ〜も好きだったな。50円だったし。
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