【嘘日記】とれんどとやらに乗ってやるのもまた一興よ
「ーー。」
ふと耳についた歓声に視線を下ろす。
………なんじゃ、西洋のお仲間かと思えば幼子の仮装であったか。ふむ。「鳥が鶏丼」?
鶏丼を所望されてなぜ菓子を渡す?
いや幼子どもは喜んでおるな。
なんぞ符丁か?
そういえばここ最近涼しくなる頃は似たような光景を見るな……
とれんど、とかいうやつかの?
ふむふむ
ならばワシも乗らんわけにはいかんな?
暗くなった頃(ワシらの時間)一人歩く青二才
まあ多分ワシの見た目に騙されるじゃろ
青二才の背後に寄り
「のお、そこな青二才。鳥が鶏丼!」
悲鳴を上げて逃げおったわ小心者め。
と、足音
しめしめ獲物はまだ居たわと振り返ると
「何やってんですか稲荷様」
家人じゃった。
なんじゃつまらん。
まあしかし、試さないのもしゃくじゃな。
「明仁や、鳥が鶏丼!」
「何言ってるんですか?鶏丼?親子丼でも食べたいんですか?珍しい」
「お主、大丈夫か?とれんどに乗り遅れたりしておらんか?昨今は童がこう言うと菓子をもらえるんじゃ」
「あぁ。トリック・オア・トリート……ハロウィンですか?」
「波浪院?」
明の字が説明するところによるとどうやら西洋の盆にあたる行事がここ日の本にやってきて半ば定着した……ということらしい。
(なんじゃケルトがどうのカブがどうのカボチャがどうの言うておったがつまり盆じゃろう。)
嘆かわしい。
この国にはこの国の盆がちゃんとあるじゃろうに。
西洋にかぶれおって。
「稲荷様クリスマスケーキ大好きじゃないですか」
「ぶっしゅどのえるな!あれはいい!実にうまい!」
「現金な……あぁ、トリック・オア・トリートされてましたね僕。はい。どうぞ。」
「!キャラメルプリンじゃと!ど、どうしたんじゃ!」
「いやー、なんとなーくそろそろ興味を持つんじゃないかなーと思いまして」
「でかした!夕餉のあとのでざーとにするぞ!はよう支度せぬか!」
「はいはい」
この国の者が西洋の盆にばかり執心してるのも面白くはないが、まあ、美味いものに罪はない!
今日はこのへんで許してやろう!
「あ、稲荷様。ハロウィンは今夜だけですよ。明日あれ言っても何ももらえません。」
「なんじゃと!!!?」