【嘘日記】夕刻の魔女に出逢った
全くの偶然なんだけども。
夕刻の魔女と呼ばれる存在と出逢った。
噂では、時間に関係なく突然あたりが夕方になると近くに夕刻の魔女が現れ、過去ののぞみを叶えたり、逆に魂をどこかに連れて行ったりなんて話されたりしている。
その姿も妖艶な美女だとか、シワシワのお婆ちゃんとか色々だ。
流石に、ショッキングピンクの髪の毛をみつあみおさげにした少女
なんてパターンはなかったように思う。
仕事の休憩時間、外の空気を吸おうと屋上に出たところ、まだお昼だというのにあたりがオレンジに染まったので、すわどこかしらの攻撃か?!なんてビビってみたものの、どう見てもただの夕方の風景だったので、正直白昼夢でも見たのかと思った。
そうかー
自分はそんなに疲れていたかー。
なんて現実逃避をしてみるものの、腕時計を見ると秒針共々止まっているし、相変わらず周りは夕方だし、なんならカラスだって鳴いていた。
なんでや。
お昼ごはんぱくついてただけのはずなのに。
軽く途方に暮れていると、正面に気配が生まれた。
いや、なんか変な表現だけども本当にいきなり気配があらわれたって感じ。
顔を上げるとそこには、紺色のとんがりボウシ、紺色基調だけども裾からオレンジのグラデーションと夜空模様のワンピース、ショッキングピンクの髪を二本のしめなわ………いやみつあみに結わえた、小学校高学年か中学生かくらいの女の子が立っていた。
「変な気配がしたから見に来たけど、正解だったなぁ……
お嬢さん、大丈夫ですか?」
目の前の、明らか自分よりは年下であろう人物に「お嬢さん」と呼ばれたのに腹は立たず、むしろなんだか無性に安心してしまったわけだが、それはそれとしてこの空間は何なのかと問うと
「えーと、私の仕事場?みたいな?時々違うところから何かしら引きずり込んじゃうからその見回り……みたいな?」
はぐらかされたのか言語化が難しいのかという説明をされた。
「引きずり込まれた人を元の場所に返すのも私の仕事の一つなのでまあ安心してください」
と、言われましてもやっぱり噂には魂を持っていかれるってのもある訳で。
よほど不安そうな顔をしていたのか
「帰れますよ?」
と、顔を覗き込まれてしまった。
不安を紛らわすために話していると、どうやら噂の「帰れないバージョン」については運悪く、この小さな魔女に見つけられもせず彷徨うしかなくなる人も一定数いるらしく。
いわゆる失踪事件になるのだが、それとこの夕焼けの世界から帰った人の話がごちゃまぜにリンクしたのではないかとのことで。
うおお。
らっきいだった。
こっわ。
などとまさに凡人な感想をつぶやいていると、いつの間にやら私の周りにはファンタジーなどでよく見る魔法陣が輝いていて、あまりの眩しさに目をつむり、また目を開けるとお昼の屋上にいた。
時間ももとの時間。
秒針はカチカチと正確なリズムを奏でている。
戻れたらしい。
というかほんとに夢だったのではないだろうか。
よくあるお話だとここで夢じゃなかったんじゃないかって証拠が出てくるところだけど、見たところなんにもないし。
でもまあ、あの世界が夢だとしてもほんとに有るんだとしても、なんとなくあったかい感じがしていたので、どっちでもいいかなと思う。
さて、午後も頑張りますか!
(そして、定時に帰るぞ!)