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B'z SHOWCASE2020-5ERAS8820-を終えて

・コロナ禍の中でのB'zの新たな試み

 コロナ禍で数々のライブ・コンサートが中止に追いやられている中、B'zも例外ではありませんでした。ギターの松本孝弘さんは「Tak Matsumoto Tour 2020 -Here Comes the Bluesman-」を全公演延期、ヴォーカルの稲葉浩志さんも、スティービー・サラスと共作した「Maximum Huavo」のライブツアー「INABA/SALAS "the First of the Last Big Tours 2020"」を全公演延期。1988年のデビューから今まで走り続けてきた二人が、初めて活動できない状況に直面しました。

 それでもやはり止まることのないバンド、進化し続けるバンド、限界を超えるバンドであるB'z。初の試みとなる、無観客での配信ライブを決定。しかも全5回公演。デビューした1988年から現在の2020年までの32年間を「5つの時代=5 ERAS」に分け、各々の時代にリリースした楽曲構成でライブを披露するというもの。5週全ての公演において、全楽曲を入れ替えるだけでなく、毎公演のステージセット・演出も総入れ替えで行うというものでした。会場はZepp Haneda。コロナ前から水面下で決まっていたZepp Hanedaでのレジデンシー公演は延期になったものの、同じ場所で10月31日から11月28日まで毎週土曜日に配信ライブを行うことになりました。

 サポートメンバーも現行は海外のメンバーがほとんどであるため、代わりに過去のB'zのライブを支えてきた日本人のサポートメンバーを集めてライブを行うというものでした。
 サポートメンバーは以下の通りです。
    ギター:大賀好修(2011年 - 2018年)
    ベース:徳永暁人(1998年、2003年 - 2007年)
        満園庄太郎(1999年 - 2001年)
  キーボード:増田隆宣(1992年 - 1997年、1999年 - 2018年)
   ドラムス:田中一光(1990年 - 1994年)
        黒瀬蛙一(1998年 - 2001年)

 長年のB'zファンとしては、最新のB'zのパフォーマンスを見れること、そして懐かしの楽曲、ライブ未演奏の楽曲も数多く聞けるという期待、また懐かしのサポートメンバーの演奏を聴けるということで胸を高鳴らせました。

・B'zの粋な心配り

 5週全ての公演においてステージセット・演出を変えるという話をしましたが、ここにB'zの粋な心配りを感じます。
 もちろんまず最初に感じるのはファンへの心配り。Zeppというライブハウスなので大掛かりなステージや演出はできません。その代わりに毎回ステージセット・演出を変えることによってファンを飽きさせない作りにしています。時には本来観客が入る場所もステージにして、縦横無尽に演奏を行っていました。観客がいない分、正面というものをいわば無視できるので、バンドメンバーみんなが円になって向かい合いながら演奏したり、松本さんと稲葉さんが背中合わせになり、稲葉さんが歌っている後ろにギターを弾いている松本さんの背中が見えるなど、今までにはない画造りをしているところがとても新鮮でした。

 もう一つ感じたB'zの粋な心配りは、Zepp Hanedaやライブ演出を手がけている会社に対して。
 Zepp Hanedaも、日本の玄関口の一つである羽田という場所で、これから日本や海外のアーティストを招いて大いに盛り上げていこうとしていた矢先のコロナ禍だったと思います。またコロナ禍で数々のライブが中止になっていて、ライブセットの受注を受けている会社も苦しい状況だったと思います。これはあくまで僕の個人的な想像ですが、それらの会社を助けるという意味でも5公演全てのステージ・演出を新しく作り上げていくという思いもあったのではないかと感じます。B'zのお二人の人柄を考えると不思議ではありません。

・5ERAS8820を見終わった感想

 そして「5ERAS」を見終わって、やはりB'zというバンドは凄いと思いました。ほとんどのライブやエンターテインメントが制限されている中で、休む方向ではなくなんとかして音楽を届ける方向にパワーを持っていくB'zは本当に凄い。
 B'zはデビューから今までまったく活動しなかった年というのがありません。毎年必ず楽曲の発表、ライブツアー、ソロ活動などを行ってきました。今年はコロナ禍の影響で当初予定していた活動よりかなり縮小されてしまうかと思いましたが、このような形で最高のパフォーマンスを披露してくれたB'zには感謝しかありません(もちろんサポートメンバーや支えてくれたスタッフにも)。

 今回は無観客で録画したものを週末に配信という形になり、DAY1こそぎこちない雰囲気があったものの、DAY2以降はその環境にも慣れてきたように感じ、DAY4.DAY5ぐらいには逆に肩の力が抜けてそれがMCなどでいい方向に表れているように感じました。楽曲の途中で会場の外に出たり、舞台転換中にステージ裏や楽屋紹介など、無観客ライブならではの要素もふんだんに盛り込んで、いろいろな形で視聴者を楽しませてくれました。
 もちろん楽曲演奏になればド迫力の演奏と歌声を披露。観客が目の前にいない、声援もない、という特異な状況でも一切手を抜くことなく、普段のライブと同等のパフォーマンスを見せてくれました。やはりこの辺りのプロ意識の高さはさすがB'zという感じです。

(DAY5は12月4日の時点で未公開)

・セットリストについて

 全公演のセットリストについてここでは詳しくは述べませんが、長年B'zのライブを見てきたからこそ、そして「各々の時代にリリースした楽曲構成でライブを披露する」というスタイルに期待が高まりすぎてしまったこともあり、視聴直後は個人的に”あともう一歩”という感じがあったのも事実です。
 というのも、DAY1、DAY2などでは今までのライブで聞けなかった昔の楽曲が数多く聞けるものと期待していたからです。しかし実際には1公演につきレア楽曲は2~3曲、多くて4曲ほど。あとは普段のライブでも定番となっている楽曲で構成されていました。B'zは5年1回の頻度で「pleasureツアー」という、最新のアルバム曲ではなく歴代のヒット曲を中心としたツアーを行っているので仕方ない部分もあります。

 他にも、冷静に考えれば納得のいく理由があると考えます。個人的に考えられる大きな理由は2つ。

・練習時間の制限
 無観客ライブに向けて、過去のサポートメンバーを集めて練習やリハーサルを行ったと思われます。しかしこのコロナ禍において、満足のいく練習時間を確保できなかったのかもしれません。多くの人が密集しないこと、1箇所に長く留まらないことなどが求められていますので、バンドで集まって合わせて練習する時間、通してリハーサルを行う時間が十分になかったと考えられます。そしてたとえ無観客の配信ライブであったとしても決して手は抜かないB'zのお二人であれば、練習時間が限られている中でも最高のパフォーマンスを見せるために、すでに演奏慣れているヒット曲で構成するのも納得できます。それを考えると、レア曲数曲を一から練習して披露してくれただけでもとてもありがたいものです。さらにDAY5には「YES YES YES」という新曲も披露してくれました。そもそも5公演で被り曲が一つもないという時点で凄まじいことです。

・新しいファンに向けて
 二つ目の理由は、新しいファンのことも考えてシングルやヒット曲中心にしたのかと思われます。むしろこちらの理由の方が大きいかもしれません。
 コロナが流行してステイホームが促された頃、B'zは今までのライブ映像をYouTube上で無料公開しました。

 中にはそこで初めてB'zのライブを見た、という人も多かったと思います。そして「5ERAS」で、過去のライブではなく現在のB'zのライブを見れるようになります。しかも実際のライブチケットの値段の3分の1ぐらいの金額で。そうなると、これを機会にB'zのライブに参加してみようという人も多かったと思います。その人たちのことを考えると、コアなB'zファンしか知らないレア曲を多くやるより、新規の人も一緒に楽しめる曲を揃えるのは当然のことです。

 そして全体を通してみれば、かなりクオリティの高い最高のライブであったこと、そして全てのファンのことを十分に考えて行われたライブであったと満足しています。

 このようにB'zは、自分たちの楽曲をより高いクオリティーで、より多くの人に届けようというのを、このコロナ禍の中でも変わらず行ってきました。B'zは近年、「諦めずにやろう」「限界を超えよう」というようなメッセージの曲を多く発表していますが、B'z自身がそれを体現しているように思います。
 B'zの凄さというと、よくCDの売上枚数とか、ライブパフォーマンスの凄さなどが注目されます。もちろんその凄さもありますが、今でも止まることなく音楽を作り続けていること、ギタリスト、ヴォーカリストとしてプロフェッショナルでありお互いをリスペクトしていること、そしてファンのことをいつも考え、最高のものを届けようと努力し続けていることこそが、B'zの真の凄さなのだと改めて実感しました。

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