「テート美術館所蔵コンスタブル展」をもっと楽しむ~展示と関連した音楽~
2021年2月20日から東京・三菱一号美術館で展示がはじまった「コンスタブル展」。早速足を運んできた方、これから行きたいと思っている方、興味がある方、そんな方々に「コンスタブル展」をもっと楽しんでいただくために、美術から少し世界を広げて、本展に関連した「音楽」をご紹介していこうと思います。
「コンスタブル展」は、イギリスの風景画家コンスタブルの絵画を中心に、ライバルとしてよく比較される画家ターナーの絵画、そして同時代の絵画も含め60点もの作品が一挙に介した、スケールの大きい展示になっております。風景画というと、どうしても会議室の壁にあるような、地味で目立たないものを想像されることも多いかもしれません。
しかし、実はとても奥深いジャンルです。コンスタブルは当時異例だった「外で絵を描く」ことの先駆者でもあり、イギリスの素朴な田園風景をありのまま精密にとらえようとしました。一方ライバルとして紹介されるターナーは、風景から漂う光・空気を落とし込むことに情熱を燃やし、その抽象的な表現から印象派の先駆けとなった画家です。
あくまで個人的な印象ですが、コンスタブルの絵にはイライラした気持ちをスーッと平穏に静めてくれるような鎮静作用があり、ターナーの絵には逆に心が刺激されざわざわとさせられる、そんな対照的な二人です。
風景画というと音楽畑にいる私はいつも「音の風景画家」と呼ばれた作曲家メンデルスゾーンを思い浮かべます。実は、彼は作曲家でありながらも、かなりの腕前の絵を描くことができました。こちらはスイスのルツェルンでメンデルスゾーンが描いた風景画です。
メンデルスゾーンはあくまでも自分の為に、旅行スケッチとして水彩画を描きためていたのですが、ほぼプロ並みの腕前です。
絵を描くことも愛したメンデルスゾーンのことですから、音で風景を描くことにも長けていたのでしょうか。
裕福な家庭に生まれ英才教育を受けたメンデルスゾーンは、当時流行していた「グランド・ツアー」(貴族の親が子どもの学校卒業時に与える国外旅行)でヨーロッパを周遊し、スコットランドにあるスタファ島を訪ねます。島が持つ荘厳さに大きな感銘をうけ、オーケストラ曲『フィンガルの洞窟』が誕生するのです。写真はスタファ島・フィンガルの洞窟の入り口。自然の力で生まれたとは信じられないほどの玄武岩の岩柱が、まるで神殿のように連なり、荘厳な空気をかもしだす神秘的な場所です。
そこで得た霊感は序曲『フィンガルの洞窟』として音楽となりました。大きく打ちつける波や荒々しさが圧倒的なドラマとなって表現されています。作曲家ブラームスやベルリーズからも高く評価され、特にワーグナーはこの曲を「(音による)一流の風景画のような作品」と絶賛しました。今日でも演奏される機会の多い人気のオーケストラ曲です。
メンデルスゾーン 序曲『フィンガルの洞窟』
そしてここにはもうひとつ興味深いつながりが…。
ほぼ同時期に、『コンスタブル展』でライバルとして紹介されている画家ターナーも、同じ場所を訪れ、メンデルスゾーンと同じくスタファ島に霊感を得て絵画を制作しているのです。
ターナー『Staffa, Fingal’s Cave』
神秘的なスタファ島の岩柱が左に、右には船と放たれる蒸気が描かれています。ターナーはこの絵で、自然が創造したおごそかな島と、工業化が進んだ時代の人工物である船の対比を描いています。左側は自然のもの、右側は人間が創り出したもの、ということです。ターナー独自の、ユニークな視点がみえる一枚です。
『コンスタブル展』から一歩すすんで、風景を描く音楽や絵画をご紹介しました。
楽しんでいただけたでしょうか?
「観る」体験を「聴く」体験にまで広げて、もっとアートを楽しんでいただけますように!
角田知香