パラグラフ練習・ トピック「アンパンマンと女性性」
・以下、阿部さんの著書、「まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書」で出題されている演習問題のトピックに沿って練習として書いた文章(参考文献はカット)。
・1時間15分 953文字
『アンパンマン』において、アンパンマンの持つ女性的な慈悲深さは、男性中心主義を超越する可能性に満ちている。そもそも、アンパンマンはその名の通り、男性キャラクターである。彼は町の治安維持を担っており、殺戮マシーンを用いて悪事を働くばいきんまんに素手で抵抗することができ、最終的には「アンパンチ」という暴力で問題を解決するという非常に男性的な側面を持っている。そのことは相手を虜にするだけの「メロメロパンチ」を放つメロンパンナちゃんと比較すると分かりやすい。にもかかわらず、そんな男性的なアンパンマンは同時に慈悲深さを併せ持つ「世界最弱のヒーロー」でもある。その理由は、本当の正義は決してかっこよいものではなく、必ず自分も深く傷つくものだという、アンパンマンの生みの親であるやなせの正義感と関係している。初期のアンパンマンは、ぼろぼろのマントで、ひっそりと自分を食べさせることで飢える人々を救っていた。決して派手ではないが、飢える人々を見捨てずにただで食べ物を分け与えるアンパンマンの行為は究極の看護精神の体現だ。本当の正義とは強さではなく、この看護精神の体現、つまり、目の前の飢えている人に食料を与えることこそがそうなのだと、従軍経験を持つやなせはインタビューなどで繰り返し述べていた。このような看護精神の体現者であるアンパンマンの慈悲が明確に描かれているのは、ロールパンナとのエピソードにおいてだ。1994年9月のTV放送で登場したロールパンナは、ばいきんまんの「バイキンそう」が混ざって生まれた、正義と悪の心を併せ持つ悲劇のヒロインという複雑なキャラクターである。アンパンマンはそんなロールパンナを敵だとみなさずに彼女の善性を信じており、彼女が悪に流れる度に自らの危険を顧みずに説得し助けようとする。アンパンマンは暴力にだけ頼るのではなく、対話によっても問題解決を試みるのだ。それはばいきんまんとの関係についても同じことが言え、事実、劇場版アンパンマンでは、宿敵ばいきんまんと協力する場面が多く描かれている。慈悲深さは一般的に女性的だとは当然ながら言えないが、作中におけるアンパンマンの行動は女性性を帯びたものである。このようなアンパンマンの女性性は暴力的な男性中心主義のみに頼らない選択肢を生むのである。