墓石の山。(#ドリーム怪談 )
うちの実家はそもそも山の中にあるんですが、その中でも一軒だけあるお寺が最も奥まった山の中にあるんです。
それも石段でしか上がれないところでして、その数も百段近くあるんですが。
普段は用がなければ上がりませんよ。
ただ、仕事ともなれば歩いて上がります。
ええ、私、石屋で働いておりまして。
とはいえ、石を加工する方ではなく、墓石を運ぶ方の担当でしてね。
というのも、そのお寺さん、使わなくなった墓石の供養をされてるんですよ。
結構需要が多くてですね、手が足りないというのでお手伝いしてるんですが。
何せ、石段を百段、墓石を運ぶ訳ですからね。
重労働です。
ちょっと前まで総廟がブームで。
いわゆる寄せ墓ですね。
先祖代々のお墓を一つにまとめるアレです。
中には今と違って、丸い自然石を重ねただけの様なものもありましてね。
墓石かどうかも怪しいのですが、まぁ、頼まれれば運びます。
おおむねそういった形の墓は子どもさんが多い様ですね。
ただ最近はそれもひと段落しまして。
近年のブームは墓じまいです。
もう跡を継ぐ者がいないから、お墓を更地に戻してしまいたい、そういう人が多い様で。
中には、お墓は負の遺産だ、なんて仰る方もいるもんですから、時代も変わりましたねぇ。
でまぁ、そんな依頼もお受けするわけですが、中には本当に最近総廟にしたてですぐに墓じまいするケースもありまして。
それはもう新品同様、奇麗なつるつるの墓石ですよ。
勿体ないぐらいの上等な見た目です。
まぁ、最近は海外の安い石が大量に輸入されてるなんて話も聞きますから、上等かどうかは分かりかねますが。
一人では無理ですね。
三人、或いは四人がかりで運びます。
ベテランは二人で運ぶようですが私は無理はしません。
まぁ慣れたもんですよ。
固い棒にひもでぶら下げましてね、バランスとって。
その日も四人で運んでいました。
棒を二本、墓石を間にぶら下げて四人で。
その中の一人が「今日はやけに重いなぁ」って言い出しましてね。
私なんかは「そうかぁ? 気のせいだろう」なんて言ってたんですがね、別のもう一人も「いや、確かに重い」って言うんですわ。
それ言い出したのは後ろの二人だったのでね、まぁ、前側持つよりは重たいだろうさ、とそんな事も言ったんですがね。
次第に私らも重さを感じるようになって。
明らかにいつもと違うんですよ。
まるで。
墓石の上に誰か座ってる様な重さで。
次第に足にも重さが伝わってきまして。
一歩上がるごとに一息ついて、また一歩進む、そんなあんばいでした。
いよいよ石段の半分くらいに差し掛かった頃でしたか。
足が上がらなくなってきましてね。
まるで何かに足を掴まれているかの様でした。
四人とも息も絶え絶えで、どう考えてもおかしい、と誰もが喘ぎながらぼそぼそ声をもらしていました。
それでも上まで持って上がらないと手間賃がもらえないもんで。
休み休み進みました。
日も傾きかけた頃、ようやく境内が見えてきましてね。
石段を登りきったところで一度地面に墓石をおろしてみたんですよ。
ところが不思議な事に一向に重さが取れないんです。
後ろ側持ってた一人なんかはもう立てない。
座り込むというよりひざから崩れるような感じで、地面にうつぶせになっちゃいましてね。
こら困ったぞとお互いの顔色を窺っていましたら、ちょうどお寺の住職さんが出て見えられまして。
よっぽど疲れて見えたんでしょうね、自分も手伝いますと言ってこちらに近づいて来られました。
立てなくなった一人の代わりに担いで下さって。
それでもやはり重たいので、よたよたと本堂の裏手にある、いつもの墓石置き場まで運びました。
既に数え切れないほどの墓石があります。
普段、住職さんの姿が見えない時などは、適宜端の方から置いていくのですが、その日は住職さんがおられたので、どの辺りに置きましょうか、と何気なく聞いてみたんですよ。
そしたら「では奥の方へ」とおっしゃって。
内心、近くでいいじゃないか、とは思いました。
でも聞いてしまった手前、無視することもできません。
わかりました、では運びましょう、といつもより奥へ進みました。
他ならぬ住職さん自身も手伝って下さっていましたからね。
そしたら更に「ではあの上の方へ」と言って、いつもより山の奥の方へ指示されました。
私もそこから奥は初めて足を踏み入れました。
また石段が見えました。
「ではその奥へ」
住職さんが言います。
石段を登り始めました。
どんどん山へ踏み込みます。
墓石の重さは相変わらずで、背中に四、五人おぶっているような奇妙な感覚がします。
「その奥です」
山のかなり奥まった所まで来て、少し開けた所に出ました。
その先は崖になっているようでかなり下の方まで覗き込めます。
「そこです、そこから落としてください」
住職さんが言います。
そこから?
崖ですよ?
疑問は浮かびましたが、疲れた頭は深く考えることなく、その墓石を皆で崖下へ放り投げました。
墓石は。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!
という大絶叫の悲鳴と共に見えなくなりました。
その声のあまりの大きさに私たちも立ち眩みを起こしたようになりましてね。
ふらふらとその場に倒れ込んだのですが。
足元はすべて石畳の様になってまして。
よく見たら、苔むした石には文字が刻んでありまして。
どう考えても墓石なんですよ、地面が、無数の。
恐らく今しがた登ってきた石段も。全部。
そう思ったところで意識を失いまして。
境内に残してきた一人が、いつもの墓石置き場で倒れていた私たち三人を介抱してくれたそうです。
それも、私たちが奥へ入った後、百段の石段を登って帰ってきた住職と一緒に。
石を運ぶのを手伝ってくれた住職、あれは誰だったのでしょうかね。
ちなみに裏山には石段などなかったのを確認して、私たちは下山しました。
仕事?
ええ、はい、今も続けておりますよ。
割りの良い仕事ですから。
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