映画『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』感想
1970年代後半、南アフリカのアパルトヘイト下での実話をもとにした話である。テーマはシリアスなものの、物語としてはいかに監獄から脱出するかという点に集中しているため、あまり構えずに観られるスリラー映画だ。
ティム(ダニエル・ラドクリフ)とスティーブン(ダニエル・ウェーバー)は、街中に人種隔離政策の撤廃を訴えるビラをばらまいて逮捕されてしまう。彼らは刑務所に入れられるも、再び反アパルトヘイト組織で闘うために脱獄を決意する。
どうやって脱獄をするか。穴を掘るのは過去に試した人がいて失敗したし、看守は差別主義者で懐柔するのは不可能だ。
ティムは、木材で鍵をつくるという方法を考案する。もちろん簡単ではない。刑務所から外の世界に出るまでにいくつもの扉に阻まれているので、鍵穴ごとに何個も鍵が必要だ。木片だから折れてしまう危険性もある。看守は挙動不審なティムたちを怪しんで目を光らせているし、もし見つかったらただではすまないだろう。それでも、ギリギリの精神状態のなかで地道に作っては試してを繰り返す。
脱獄の計画を練って、実行して・・・というトライアンドエラーの描写に大半が費やされる。観ている側は、看守に鍵の存在がバレそうになるたびに手に汗にぎる。スリル感が満載だ。
一方で、登場人物の内面や、脱獄をする動機についてはあまり深く掘り下げられない。あっさりめに「政治活動に参加する」「家族に会いたい」と語られるくらいである。政治・差別について深く考えさせられたり、どっぷり感情移入するようなヒューマンドラマを期待して観ると、すこし面食らうかもしれない。
感覚としては、『ドント・ブリーズ』や『クワイエット・プレイス』などの、見つかってはいけない系スリラー・ホラーに近い。ただし本作は、実話であるというのがさらに恐ろしいところだ。
あと、ハラハラ感でいえば『ゼルダの伝説』シリーズの、ハイラル城の牢獄から魔物たちに見つからないように脱出しなければいけない場面にも似ている(伝わらない)。
ダニエル・ラドクリフの怪演も注目すべきポイントである。彼といえば『スイス・アーミー・マン』の、ジェット噴射して海をわたる死体役も印象がつよい。ちょっとへんな役でお馴染みになってきているが、本作もクールな路線ではなく個性的な役どころ。不思議と心をかき乱されて、目が離せなくなるからさすがだ。