公募戦士たちに捧ぐ記録:その3 本当のことは書かなくてもよい
前回の続きで,書類の書き方のポイントです。
繰り返していることにつながりますが,概ね「嘘をつくのはアウトだが,本当のことは書かなくてもよい」ということと,「門外漢にもわかるように書く」という2点が重要になってきます。
そしてその背後にあるのは「あなたの書類は誰が何のために読むのか考えよ」という,文章の基本のキなのです。
嘘をついてはいけない
当然のことですが,公募書類に嘘を書くのは倫理的にも,場合によっては法的にもアウトです。
上記は最も極端なケースで,博士号を偽造して採用されたはいいがバレた,という事件です。こうなってしまっては,大学はクビですし,アカデミアで雇用されることは一生ないでしょう。
実名報道された場合,民間企業ですら厳しくなってくると思います。
(余談ですが,当該大学の知り合いに聞いたところ,これ以降博士号の原本を面接の際に持って来させているそうです。気持ちはわかりますが,正気か?)
流石にこのレベルでの嘘(というより詐欺)をつく人は滅多にいないと思いますが,一方で「小さな嘘」をついている人は沢山いるのではないでしょうか?
例えば,私学を中心に,提出書類には「貴学に応募した理由」のようなものがあると思います。そりゃあ本音を言えば,給料が良くて,研究環境が整っていて,住環境が良くて,ついでに仕事が少ないところがいいんですう!というところが大なり小なりあるでしょう。異動の場合は「今いる大学はクソだから出ていきたいんですw w w w」というのが本音の場合もあるでしょう。
これらを「貴学に志望した理由」にストレートに書く人は滅多にいません(言い換えれば稀にいます)。そこで,「貴学の理念に共感して・・・」や「教育方針に賛同して・・・」などの美辞麗句を並べることになるわけです。
こういった意味で「小さな嘘」を書いている人は結構いるんじゃないでしょうか?さして共感もしていない理念をあたかも共感したように書く,といった具合です。
しかし,私はここに完全な嘘を書くことはお勧めしません。
なぜなら,これは私が人文系だからというのもありますが,嘘を書いているのは文章からかなりの確度で解るからです(特に理系の方の選考に関わる場合,この傾向は顕著です)。あるいは,仮に書類選考を突破したとしても,面接で喋るとほぼ確実にボロが出るからです。
(概ね,書類の段階で嘘っぽいなあと思った人が面接に呼ばれると,どこかでやらかして落ちます)
あなたが一流俳優並の演技力があるならばともかく,そうでないならば嘘をつくことは結果的に自分の首を絞めることになるでしょう。
本当のことだけを使って本当じゃないことを書こう
そこで重要なのは,本当のことを取捨選択する,ということです。
例えば,どんなに教育に関心がない人でも,何か1つくらいは教育でやりがいであったり前向きな思いを持つことがあるんじゃあないでしょうか。「馬鹿な学生に時間は割きたくないけど,よくできる学生を伸ばして博士取らせて共同研究したい」といったような,よくある(俗っぽい)前向きさでもいいので,何か1つあればいいのです。
こうした自分の本音,本心をうまくその大学が求める人物像,設備,特徴に絡めて,本当のことだけを書いて本当じゃないことを書くのです。
上記のような人ならば,「貴学の教育理念XXを実現するためには,△△(自分の専門)の領域においては,最先端の知識○○の教育が〜〜という理由で重要だと考えています。このような理由で,応募者の専門性で貢献できると考え,貴学に応募しました」といった具合でしょうか。
とは言え,一定程度はその大学の方針に賛同していないと,このような戦略も難しいかと思います。
ごく一部のトップ大学の研究機関を除けば,研究だけやってればいいということはあり得ません。大なり小なり教育や社会への貢献はやらざるを得ないので,「研究者をなんだと思ってるんだ!」といったような,正論ではあっても生産性のないマイナスの気持ちを持つよりは,何か前向きになれるポイントを1つでも見つけておくといいでしょう。
書類を読む人の大半は門外漢
大学に就職した後に作る書類もそうですが,あなたが作った書類を見る人の大半はあなたの専門領域ではない人です。例えば,筆者(人文系)がバイオの公募や,芸術系の公募の書類を見るようなことも実際にありました。あなたは読む人のことを考えて書類を書いていますか?
特に博士を出たばかりの人は「俺こんなに専門性の高くてすごいことやってるんだぜドヤァ!」という,その領域の人にしかわからないテクニカルターム満載の応募書類を送ってきてくれるのですが,門外漢が見てもさっぱりわからないのです。(ええ,今思い返すと私のポスドク時代の書類もそうでした)
選考委員は通常5〜7名程度であることが多いですが,同じ(近い)領域の人はそのうち1〜3名程度だというのが通例です。つまり,半数以上の人にはさっぱりわからない書類を送りつけることになってしまうわけです。
勿論,(マトモな)選考委員はその領域の先生に「これどういうことですか」といった質問をして,理解してくれようとします。しかしそれにも限界はありますし,その領域の先生にさえ解らないケースも十分にあり得ます。
一般の方にわかるように書けとは言いません。読むのはまがりなりにも知的訓練を受けてきている大学の教員です。しかし,あなたの領域を専門としている人にアピールすると同時に,あなたの領域ではない人にもアピールできる「わかりやすさ」を目指しましょう。
例えば「(テクニカルタームA)は本領域における最先端の研究であり,(テクニカルタームB)を実現するための第一歩である。」では,他の領域の人には意味不明です。テクニカルタームAやBがどのような価値を持つものか,できる限り客観的でわかり易い指標(例えばその業界トップの雑誌で特集が組まれる内容だ,といった)や,具体例(応用例や,外部資金へのつながりなど)を添えて,あなたの「凄さ」がわかるようにしましょう。
その際,1つ前のNoteに記したように,「おおよそどのような人が人事委員会に入っているか」という推測は重要です。例えば人事委員に副学長や理事といった経営サイドが入っている大学(特に私立大学に多い印象です)なら,地域貢献,外部資金,産学協同、学生確保といった経営に関わる点をつくといい感じにオトせるでしょう。
また,私立大学の場合,一般的には最後に理事(などの経営陣)の面接が待っています。多くの場合,彼らの専門はあなたとは一致しませんので,そうした人たちにアピールする意味でも「門外漢にもわかる書類」を書くことは重要です。
ただし,あまり門外漢サイドに合わせすぎると,今度は同じ領域の人に「こいつ中身がないんじゃないか?」と思われてしまうので,同じ領域の人にも,門外漢の人にも,両方にアピールするように書く力が求められます。
筆者の場合は,幸運にも妻が別領域の博士(アカデミアで働く気は無いので公募経験ゼロ)なので,異動の際の書類は妻にチェックしてもらいました。彼女の助言のおかげで,書類審査を文句なしのトップ通過できた(着任後に聞きました)のだと思っています。
信頼できる別領域の知人がいる場合,是非とも読んでもらって「あなたの凄さが理解できる書類になってるか」ということをチェックしてもらいましょう。
研究の力は業績で十分わかります
「教育・研究に関する展望」のような書類も割と提出することがあると思います。傾向としては,研究の方向に力を入れて書いて,教育は当たり障りのないことを申し訳程度に,という書き方をしている人が目立ちます。
ですが,あなたがご自身の研究力に自信があるならば,業績(論文,学会発表,外部資金)のリストは充実しているはずです。そして,そこを見れば門外漢にもあなたの研究力はおおよそ伝わります。
(ここが物足りない人は,逆に言えばこの類の書類で挽回する必要があります)
その上で研究力をアピールすることはある程度必要ですが,「教育・研究に関する展望」のような書類で読み手が知りたいことは業績リストでは解らないことです。
研究に際しては,業績リストに基づいて,例えば研究領域の将来性,資金や設備面での見通し,等々の単純なリストからは(特に門外漢には)解らないことを書きましょう。
書類の他の部分ではわかりにくいので,教育に関しては,かなり力を入れて書きましょう。あなたの専門性が講義にどう活きるかなどの内容面も重要ですが,どのように講義をするか(How)という部分も重要です。最近だと,コロナ関連でオンライン授業への取り組みを書くと良かったのですが,オンライン講義も減ってきましたね。
近年の大学は,いい意味でも悪い意味でも教育に力を入れています。「模擬授業」についてのNoteでも書く予定ですが,立板に水を流すような講義をやっている人は,マイナスにはなれどプラスには絶対になりません。なんらかの工夫をしてみましょう,それこそ参考文献は無数にあります。
「立板に水」スタイルでやらざるを得ないとしても,なんらかの工夫だけはしておくといいでしょう。
以上が書類の書き方のコツです。
続きは投げ銭用ですので,何も意味はありません。
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