設計者はワタシ~U邸家づくりルポ~第12回
●其の12 室内仕上げからいよいよ工事終盤へ の巻
今日はU 様にお越しいただき、年内最後の現場打ち合わせです。外部、内部同時に下地工事が進行する慌ただしい中ですが、だいぶ形が見えてきた所で仕上げ材の打ち合わせなどお願いしました。
U 様、奥さま、お母様、それぞれご自分のスペースに異なる色を選ばれました。壁紙は年明けに決定でお願いしていたのですが早々に決めていただきました。
仕上げの材料、特に構造や機能に影響のないものに関してどのように決めていくかは設計者によって異なると思うのですが、ワタシはまず「これがいいと思います」と一式ご提案します。
そのまますんなり「じゃ、それで」となることばかりではなく、もちろんその後で分厚いカタログやサンプル帳を広げることもありますが、自分はこれがいいと思う案を提示することは設計者の務めと思っています。
とはいえ当然お施主様の家ですので最終的に何を選ばれるかはご自由なのですが、できたらお願いしているのは、○○調の商品を選ぶのは避けましょう、ということです。
フローリング柄のシート、大理石のプリントをした樹脂の板、砂を塗ったような凸凹と色のクロス、などです。
ワタシはなんでも自然素材が一番良いという主義ではありませんが、自然素材のように見える新建材だけは違和感があります。シートならシートらしく、樹脂ならどう見ても樹脂、というものを選べば良いのです。
ずっと朽ちない木、など気持ちが悪いと思うのです。
工事終盤、壁や天井の中に入ってしまう電気配線、水道配管などが完了し、断熱材が充填されていきます。
材料の熱の伝わりやすさを表す値、熱伝導率は、グラスウール0.038W/m・K、フェノールフォーム0.020W/m・Kです。熱伝導率とは、「裏表に1℃の温度差がある場合に厚さ1mの材料の中を、面積1m2あたり、1秒間に伝わる熱量」であります。だいぶ物理的で分かりにくいですが、要するに数値が小さいほど断熱性能が高くなります。ということは、同じ断熱性能を得るのに必要な厚みが少なくて済みます。なので、厚みの取りやすさより二種類を使い分けています。
ちなみに、サッシには複層ガラスが標準的に用いられるようになり、
従来の単板ガラスに比べれば倍程度の断熱性能を持つものですが、例えば今回使用したグラスウールと複層ガラスの数値を比べると、複層ガラスは10倍近く熱を通しやすいものであります。
大きな開口部は気持ちが良いものですが、断熱性能上はどうしても不利になることを考慮し、効果的に設置する必要があります。
夏と冬の環境の差が大きい日本の住まいは複雑です。よく引用される徒然草の一節「家のつくりやうは夏をむねとすべし 冬はいかなる所にも住まる!」と断ずることはできません。
配管・配線が終わり、断熱材が入ると、石膏ボードという材料が大工さんによって張られていきます。
ひと昔前の木造は、構造である柱が見えており、その間を砂壁や漆喰などで塗るのが主流でしたが、現在は柱の上からこのような石膏ボードを張ることが多いです。
柱が見えている造りを真壁(しんかべ)、見えない造りを大壁(おおかべ)と呼びます。
石膏ボードが張り終わると大工さんの出番はほぼ完了。現場に来ては納まりを相談したり、ちょこちょこ変更をお願いしたりしてきましたが、もう後は仕上げるのみです。
一気に現場が静かになり、ワタシはいつも安心したと同時にさびしい感じになります。
(その12 終わり)
執筆 住まいのナビゲーター/一級建築士 古屋英紀