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設計者はワタシ~U邸家づくりルポ~第11回
●其の11 びしっと屋根葺き…からの室内仕上げへ の巻
上棟からしばらく大工さんは内部の補強工事を進めます。
そして、まさにその上で、板金屋さんが屋根を葺き上げてくれました。
今回はガルバリウム鋼板のたて葺き。ガルバリウム鋼板とは、鉄板にアルミと亜鉛の合金をメッキしたもの、こちらはその上に黒い塗装を施した商品です。
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棟(屋根の高い部分)には換気口が付いており、壁の中を上がって屋根を通ってきた空気がココから抜けていくようになっています。
屋根が葺き上がると安心します。守られている気がしてすごく「家」になった感覚があります。その屋根を施工する職人さんは、守るものはなく暑さ寒さの直撃を受け、不安定な足場で作業する、何とも過酷な仕事だといつも思います。
ワタシたち設計者はパソコンに向かって「屋根:ガルバリウム鋼板たて葺き(○○社)△△-△△,クロ」なんて打ち込めばこのように立派に仕上げてくれるわけですが、誰がどんな風に作っていくのかを近くで見ると気が引き締まります。
さて。今は、子世帯キッチンまわりの細かいところを詰めています。
前回K社ショールームにてお打ち合わせの時、キッチンまわりだけの内部模型を作っていったのですが、それを見たU様が「思い切ってもっとオープンにしたらどうでしょう」とご提案くださり、奥さまもご賛同され、ワタシもそれはいいですね、とその場で壁(下の写真の☒の部分)が取り払われる案に決まりました。
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全てステンレスのキッチンで床はタイル貼り。厨房のようです。
模型にすると図面だけではわかりにくい構成や見え方をお伝えすることができ、それによってより良いアイデアが生まれました。
収納の量はやや減りますが、のびのびゆったりとした気持ちの良いキッチンになりそうです。
ところで。「納まり」という言葉を耳にしたことがありますか?
建築用語としては、部材同士の取り合いの詳細を指す言葉です。どのように納めるか、の指示書がワタシたち設計者の描く図面です。その前には「どのように見せたいか」ということが必ずあります。
例えば下の模型のバルコニー(黒い部分)は、外壁(グレー縦じまの部分)からにょきっと出ているように見せたいと思いました。
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模型ではホントに箱型がにょきっと出ているだけなのですが、実際にはFRPによる防水をし、雨が回らないように水切りという出っ張り部分があり、製品の寸法によって継ぎ目が出てきたりと、いくつかの要素が入ってきて、ただの箱型というわけにはいきません。
機能上の要素を完全に満たした上でデザイン上の要素をできるだけ満たすように、各部材の仕様、大きさ、位置を決めていくことが「納まり」を考えることです。
そして、「納まり」の集合体が「家」です。
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「納まりが悪い」は、完成後に誰でもとても気になるのですが、「納まりが良い」は、専門家でない限りあまり意識されません。また意識される必要もありません。あくまで自然で、苦労して考えた跡を感じさせないのが本当に良い納まり。
ただ、未熟なワタシは、たまには分ってもらいたい設計者ゴコロから無粋な説明をしてしまうことも。
ご愛嬌で聞いてやってください。
(その11 終わり)
執筆 住まいのナビゲーター/一級建築士 古屋英紀