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設計者はワタシ~U邸家づくりルポ~第8回

●其の8 設備と家具を考える&そして確認申請へ の巻

 基本設計がまとまるまであと一歩です。
 家具や電気、空調、給排水、ガスなど設備に関して打ち合わせを行いました。建築の図面は慣れないとなかなかわかりづらくて、暮らしのイメージを持ちにくいものですが、キッチンやトイレなど設備の図面をじっくり一緒に見て行くと、それまで気付かなかったことに気付かれるようになります。
 玄関入ってここで照明を点けて、ここで消して、キッチンはここに照明があって炊飯器のコンセントは…と具体的に考えていくと、設備だけでなく、そこにはこんな収納が必要で、窓はどんな高さで大きさで、と設備をきっかけに話が広がっていきます。
意匠・構造・設備がそれぞれに絡み合いながら少しずつ決まっていき、その中でこれだけは譲れない点が固まっていきます。

電気設備位置図の一部

 ごちゃごちゃして実に見づらいですが、どこで照明を点けて、消して、コンセントがここで、とひとつひとつ丁寧に追っていくと、何となく暮らしがイメージできてきます。設備以外の点で「あ、ここはこうなっていたんだ」と言われることも多いです。
 照明やコンセントの配置まではさらっと行くのですが、どこで点けて、消して(*図中の曲線)がなかなかアタマを悩ませます。
 例えば、階段の上下のようにこっちで点けてあっちで消すスイッチ(三路スイッチといいます)を増やすと、図面では使いやすいように感じたけれど使ってみるとなんかややこしい。良かれと思ってスイッチを分けたらほとんど点けない照明がでてしまった、逆にこの照明だけ点けたかったなぁ…なんてこともあります。ハマると時間がどんどん過ぎていく設備図ですが、まずは見積用にまとめていきます。

 いよいよ細かくなってきました。造りつけの家具や建具などの詳細図面を描き進めています。「シンプルでいいですよ」とよく言われるのですが、シンプルにするほど難しいことはありません。できるだけスッキリと見えるように余分なものを省く努力は、完成してみるとごく当り前で気付かないものですが、部屋の印象には必ず影響があります。細部の積み重ねが住まい。こまかな点をおろそかにしないように詰めていきます。

 住宅は計画はじめから詳細な設計まで一人の設計者が手掛けることができるのが醍醐味です。建物が大きくなると、とてもとても一人の作業量ではカバーしきれません。使いやすさ、年月に耐える強さ、見た目のきれいさも考えながら、同時に職人さんが作りやすいようにも考えます。
 とは言えワタシたち設計者の多くは実際には何も作れない人たち。ワタシは監督さん職人さんに「どうやったら作りやすいですか?」と聞くこともしばしばです。その場合は必ず、自分はこう考えた、ということを伝えるようにしています。「こだわり」という言葉はもともと「小さなことを必要以上に気にすること」だそうで、ワタシは使って良いものか迷うし、迷ってる時点でそれが小さなことを必要以上に気にしてる、という入れ子構造に陥るので、何となく使わないようにしてるのですが、小さなことでも大切だと思うことを詰め込んでいくのが詳細図です。

詳細図

 こうして、設計契約から4カ月と少し経ち、基本設計図書がまとまりました。これは施工会社に見積を依頼するため、また行政に確認申請をする際に添付する図面一式のことです。ワタシの場合、だいたい100枚くらいの図面になります。どのタイミングで見積をとり、確認申請を出すかは設計事務所によって違いはあると思いますが、ワタシは結構図面を描いてから見積を依頼し、できるだけ早めに確認申請を出すようにしています。
 たいてい着工までに何らかの変更は生じるので、もう少し遅めでも大丈夫なのですが、怖がりなので早めに出し、後ほど手間のかかる変更の手続きをする羽目になります。まとめたものを元にさらにU様のご要望を伺います。 
 この時点で大きな変更があると、設計者はなかなか辛いのですが、ほぼ変更なしでしたので、とてもありがたかったです。

 先日のお打ち合わせ内容で若干の修正を加えて、所定の計算書や資料を加えて、建築確認申請を提出しました。問題なければ確認済証というものが発行され、工事着工して良いことになります。
 なお、U邸は「長期優良住宅」という耐震性、断熱性など8項目において定められた性能を満たした住宅です。その認定を取るため、確認申請とは別の申請も行います。これがなかなか大変。真四角の建物ならばスムーズなのですが、敷地に合わせた形状にしてあるため構造でとても苦労することになります。
 また、このタイミングで施工会社2社に相見積を依頼しました。よろしくお願いします。

(その8 終わり)
執筆 住まいのナビゲーター/一級建築士 古屋英紀


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