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6月の力

実はこれ、私の仕業なんです。

雨宿りのために立ち寄った酒屋の屋根の下で女性が話しかけてきた。

彼にね、言えない思いを雨に溶かしたんです。ずっとずっと秘めてきた思い。
だからね、彼に伝わるまでこの雨やまないんです。

素敵だと思った。
もしかしたら彼女は酔っていたのかもしれない。
ただ私は気味の悪さなんて感じずに、彼女の言葉の意味を解釈しようと頭の中でだらけていた。

溶かす…思いを溶かす…ずっと秘めてきた思い…伝えられない思い…

私があれこれ考えている間に女性は背を向け遠くなって行った。
雨が止む気配もないので仕方なしにびしょびしょの靴でうちに帰った。



その日から4日後、ようやく雨がやんだ。

…の梅雨前線は去り、明日から本格的な梅雨明けとなるでしょう…

世間で人気のニュースキャスターは知らない。

雨が女性の仕業だってこと。

私は知らない。

雨に思いを溶かす方法を。

女性はきっと6月の力を借りた。

伝わったかな…

私は5日ぶりの太陽に照らされる二人を想像した。

#オリジナル小説 #短編小説 #創作物語 #雨 #梅雨 #72meの話

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