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どぶさん #1 どぶさんの巻

1
ガラガラガラ…電動シャッターの開く音が朝のムイムイ村に響きます。
リモコンを持っているのは、一匹のどぶねずみ。
彼の名は「どぶ川」、人呼んで、どぶさん。
どぶさんはムイムイ村で食堂「キッチンDOBU」を営んでいるのです。
お客がまだ来ない朝一番。どぶさんがのんびり過ごしていると…
「あの…」
「あ、人間…」

2
「アノ… メニュー アリマス」
「大丈夫、どうぶつ語わかります スコシ」
「そう、良かった」
「あの…コレ」
「特製やきそばと普通のやきそばの違いって…?」

3
どうぶつ語が通じると知ってリラックスしたどぶさん。
お客も来たので、テレビを付けました。
テレビはちょうど「しろうと磯じまん」が放送中の時間です。
「それは……ふつうのやきそばのほうが特製よりうまいです」
「…はい?」
「使ってるめんが、ちがうから…」
(…逆と違くて?)困惑する人間のお客さん。
そろそろこちらの方も名前で呼びましょうか。
お名前は凹山(ぺこやま)さんです。
テレビではナマコがキュビエキュビエ…と内臓を吐いています。素人にしてはなかなか堂に入った磯の生き物っぷりに収録会場も湧いています。
そこに、新しいお客さん。

4
現れたのは、水中姉妹のモダマ&ココ。
「スミマセン、焼きそば大盛りとお弁当のやきそば2つ、全部ふつうのやきそばで…」店に入るなり焼きそばを大量注文したのは姉のモダマ。
「あたいはむかごチャーハン」と妹のココ。
二人とも、メニューも見ずに注文しているところを見ると常連さんかもしれません。
「どうも。少々お時間…」
「構ないよ あたいもあたいもおねぇも急いでない」
淡々とやきそばを焼くどぶさん。おしゃべりはあまり得意じゃないのかもしれません。
「お先、ふつう一丁…」

5
(……うん)
できたてのやきそば、おいしいですよね。
一方、どぶさん。
「すみません、大盛りの方…麺が少し足りなくなりまして…」
「あら」
あら、とは言ったものの、特に驚く様子もない二人連れ。
「待ちますよ~~」
「お姉ぇ、あたいのチャーハンはんぷんこで食べてよ。」
「たぶんすぐ届けてもらえるとは思うんですが…」
電話をかけ始めたどぶさんを見てニヨニヨしはじめる二人…
どぶさんは電話がつながるのを待ちながら、背筋を伸ばしたり帽子を直したり、落ち着かなくしています。
プペプピポプペピプ…ミョロロロ…ミョロロロ…ミョロロロ…カチャ。
「モシモシ、夢の島製めん所です」
「どぶ川です」

6
チャーハン…小失敗!
「どぶさんのチャーハン、味が安定してなくて楽しい。ビミョーにチャーハンぽくないって言うか」
「ちょっと、ココさん…」
チャーンハを食べながらズバズバ言う妹と、気を使う姉。性格の違う姉妹です。
ピーンポン。
「スミマセーン、夢の島です 配達に上がりました」

7
夢の島製めんから新しい麺が届いたようです。なるほど、これだけ近所なら必要なぶんだけ麺を届けてもらったほうが鮮度が保てるのかもしれません。これが「普通のやきそば」のほうが特製めんより美味しい理由なのかな…
小柄な配達ネズミは機嫌よくどぶさんに声をかけました。
「おはよ、どぶさん」
「どうも、カヤさん。朝からすみません、配達させて」
「いえいえ、いつもひいきにしていただきまして…おかげさまでやっていけてます」
「……どうも」
「どぶさんのやきそばが、皆好きなんやねぇ」
「……いい麺を使ってますんで」
そっぽを向いて焼きそばを炒めはじめるどぶさんですが、しっぽは機嫌よくゆらゆらと揺れ、中華鍋を持つ手も重さを感じさせないように軽やかに踊っています。
もしかしたら、魔法がかかっているのはふつうやきそばの麺ではなく、どぶさん自身なのかも…?

8
どうやら常連姉妹二人は、この2匹のねずみの「やきそば劇場」を見るためにこの店に通っていたようです。
「うーん、あの二人。見てて飽きないのよね」
「…おねえ、あたいはさすがにやきそば飽きてきた」
一体何日連続でこの店に通っているのでしょうか。毎日同じ食事でも平気な姉に対し、妹はさすがに少ししんどくなってきたようです。
「たまには変わった焼きそば作らんの?カタヤキソバとか…」
「肩…やきそば?」
「知らんのか。あげてあんの、めんが揚げてある!」
「肩やきそばを…上げる…?」
全然カタヤキソバをイメージできないどぶさんとカヤさん。
「だめぽいか」
「だめぽいね」
このやきそば屋たち、ソースやきそばしか食べたことない。

9
「現物食えばわかるよ!駅前に食える所あっから」
「不勉強で…」また恥ずかしくなってきたどぶさん。照れ屋です。
そんなどぶさんを見て、なにかを考えているカヤさん。
「…私も麺屋の娘ですし、知らん麺料理は興味あります」
「そしたら、味見用に一つ…」
ム?話の雲行きに耳をそばだてるモダマ。
「せっかくなんで食べにいきません?今度の店休日にでも」
どうやら、二人で食事に行く話になったようです。進展だ!
(ココさん、ナイスアシスト!)
(なんの話じゃ?)
どうやら妹は、姉の道楽につきあわされて毎日やきそばを大量に食べさせられていたようです。さすがにそれは飽きる。
「…あの、お会計」
…一連の話が落ち着いたところで、凹山さんはどぶさんに声をかけました。
なんか、話を途中で遮るのも悪いな…とでも思っていたのでしょう。
「600円です。『にんげん割』使いますか?」
知らない制度が急に出た。

「アリァトァイシタァ~」決まり文句の挨拶だけ急に良い声で言うどぶさん。薄暗いキッチンDOBUののれんの外は、きょうも眩しい昼の世界です。
「どうぶつのやきそば屋…」
「全くやきそばって奴は…」
「家で食べてもあんまり変わらんな…フフフ…」真理!
おいしいよねやきそば!ぼくもだいすきなんだ!
おわり!

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