連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その42
42. お寝坊さん
やばい、寝坊した。
竹内に一回起こしてもらったにも関わらず、
また寝てしまった。
私の部屋のドアが勢いよく開いた。
息を切らした竹内が立っている。
「何やってんの真田くん!もう新聞来てるよ!早く起きて!」
「んぁー、、、はっ!今、新聞配り終わって飯食ってたんだけど・・・」
「何言ってんの?夢でも新聞配るなんてよっぽどじゃん!早く行くよ!」
「おー、おっす。歯だけ磨くわ。」
「えー、もういいじゃん!誰も気にしないって。」
「いや、ファンが悲しむ。」
「俺が悲しいよ。」
ドアを閉めて砂利道を二人で走った。
お店に着いたら入り口付近にいつも居る
大きな男「ザ・すぐる」が大きな声で怒鳴った。
「何やってんだ!新聞来てるぞ!おい!志賀はまだか?今日はどうなってんだ!」
ん?志賀?
ちゃんとお店を見渡してみた。
しーちゃんがいつも作業する場所で
優子さんが新聞にチラシを入れていた。
由紀ちゃんも居ない。
髪がすっかり伸びて後ろで束ねてポニーテールにしている優さんよりは小さいけどかなりの大男の篠ピー先輩が、由紀ちゃんの作業場所で新聞にチラシを入れていた。
あれ?どうなってんだ?
竹内は無言で自分の区域の作業台に戻って
チラシを入れ始めた。
私の区域の作業台には袋に入ったままの新聞の梱包が横になってるのと
裏返ってるのとが2つ置いてあった。あと足元にひとつ。
誰かが置いてくれたようだ。ありがたい。
「すいません。」
私はそう言って自分の作業台に行き、新聞の梱包の
黄色いPPバンドを切った。
ブチっと切れる音と共に、
外から勢いよく由紀ちゃんとしーちゃんがお店に
入って来た。
「ごめんなさい!目覚まし止めてまた寝ちゃった!」
「早く早く!今120入れたから!これとこれ!」
「わー、ごめんごめん!」
優子さんが一梱包60部の新聞の塊を2つ平らげて、
チラシを入れ終えたことを、しーちゃんに伝えた。
どうやら、しーちゃんも寝坊したようだ。
由紀ちゃんが起こしに行ったのだろう。
偶然だ。
同じ日に寝坊するなんて。
別に一緒に遊んでいたわけではない。
私はいつも通り銭湯に行ってビールを飲んで
テレビを付けたまま漫画を読んで、そのまま
寝てしまっていた。
江戸間の四畳半で一人。
でもみんなからしたら
滅多に遅刻など無いこのお店のメンバーで
二人が同じ日の朝に遅刻するなんて
あやしいと思うだろうな。
後ろを振り返ってみた。
いつも通りのみんなの顔。
やっぱり誰も気になんてしてないようだ。
みんながどんどん出発していって、
竹内と私だけになってしまった。
私の肩から遠慮が床に落ちて割れた。
素の自分になっていく。
「竹内すまん!俺のために犠牲になってくれて・・・」
「誰も手伝ってくんないじゃん!ひどいよー!」
車のエンジン音がして、細野先輩がお店の中に入って来た。
「ふたりとも。中継に出す分、外に置いといて。後で持ってくから。」
それだけ言って、行ってしまった。
クールで冷静でいつでもカッコいい細野先輩。
去り際にシャンプーの良い香りがした。
「おしっ!出来た!俺、先行くよ!もう寝ないでよ!」
「いや、この状況では寝れんやろ。」
「真田くんいっつも遅いから知らないだろうけど、たまにここの作業台の上で寝てる人居るんだよ。ここで寝てたら誰か起こしてくれるから寝坊しなくて済むんだって。」
なるほど!その手があったか!
誰だろう?こんな硬い木の台の上で寝るなんて。
寝心地はどんな感じなんだろう?
ん?
今、誰も居ないぞ。
試しに隣の作業台の上に寝てみた。
足を伸ばしてもお釣りが来る長さだ。
天井を見つめた。
イケるな。でも枕が欲しいな。
枕だけ持参するか。
さすがにチラシを枕にしたら怒られるだろうしな。
まだ夏だからいいけど、冬はどうしようか?
枕と毛布のセットをお店に常備しておく必要が
ありそうだ。
どこに置いておこうか?
「な、なにやってんの!」
「ん?竹内か。戻って来たのか?」
「戻って来たのか?じゃないよ!寝かけてるじゃん!ダメだよ!起きて!」
「・・・・」
まどろんでいたみたいだ。
想像か現実かわからない状態に居たんだな。
それを人は「寝てる」というのだな。
懲りない私。
どこででも寝れる私。
配達中にエレベーターの隅でしゃがんだままで
寝てしまって、入って来た人にビックリされた事も。
マンションの非常階段に座って休憩してたら
そのまま自分の膝の上で寝てしまった事も。
ベンチなんかは最高のベッドで、
多少短くて足が乗っけられなくても
上手に体を曲げて寝れる事も。
それもこれも
全部ひっくるめて
新聞配達である。
みんなもどこかで寝てるのかな?
〜つづく〜
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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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