推しと次元が交わる。アイドリッシュセブンの企業タイアップ、プロモーションを解説します
バンダイナムコオンラインのスマホアプリゲーム「アイドリッシュセブン」(以下、アイナナ)。7人組アイドル「IDOLiSH7」を中心に、アイドルたちの成長や関係性を描く作品です。7月よりTVアニメ3期の放送もスタートするなど、多様なメディアミックスを展開しています。
本作品のおもしろい点は、アイドルたちが成長していくプロセスと作品のプロモーション施策が連動しているところ。
まるで、実世界のアイドルが街中の看板やポスター、大型ビジョンにに登場し、企業の広告にもキャスティングされるように、アイナナのキャラクターたちが私たちの次元に存在しているのです。
というわけで、アプリリリースから今日までの(2021年7月)代表的なイベント、プロモーションをまとめてみました。
すごいですよね!?!?!?
では、広告と企業タイアップにわけて、詳しく見ていきましょう。
アプリを宣伝しない⁉ アイナナの広告
あらためて上記図を見ると、アルバムや映像作品のリリース後にOOH(屋外広告)、交通広告などの展開が目立ちます。「それって当たり前では?」と思うかもしれません。
しかし、ファンにとってのそれらは、アプリやコンテンツの広告ではないのです。「推しているアイドルの新曲やライブが円盤化された。その広告が池袋の駅に出てる!」という感覚です。
とりわけ、2020年4月/12月と2回に渡って展開された、スポーツ新聞の記事広告は凝っています。
4月の記事広告では、「(作中のキーとなる)アイドルの聖地で特別な公演が行われることが明らかに」「IDOLiSH7が登場するやも⁉」といった、スクープ的な内容が掲載されています。そして、12月の記事広告には、その公演レポートがあるのです。これは、当時放送されていたアニメ2期の内容と連動しています。
実際に見ていただくとわかるのですが、テキストフォーマットは、まさにスポーツ新聞のそれです。
(引用元:https://idolish7.com/aninana/news/?p=1077)
かつてスポーツ新聞で得られていた、「アイドルたちの活動情報、スクープを知る」体験を記事広告で提供し、「推しが自分の次元にいる」感覚を生み出しています。
余談ですが、昨年話題になったFGO5周年の記念広告(47都道府県別に新聞広告を出稿)は、ファンに向けてのお礼&これからも応援してね!的なメッセージも感じました。広告にストーリーをまとわせると、広告枠が持つ意味合いに付加価値が生まれ、効果が何倍にもなる事例だと思います。
存在感をリアリティ高く感じさせる、企業タイアップ
続いては、企業タイアップについて。
企業のIPタイアップ、コラボといえば、パッケージにキャラクターをデザインしたり、特設サイトやSNSなどのコミュニケーションに登場させたりが良く見かけるパターンです。
アイナナでは、アイドルたちがその企業の広告タレントやアンバサダーになるタイアップを徹底しています。ファンにとって、推しの楽曲がCMのタイアップになったり、企業の広告タレントになることは、とても嬉しくおめでたいこと。その体験を、アイナナでは設計しているのです。
タイアップの展開も、年を追うごとに「こちらの次元」に浸透してきています。どちらかといえばオンラインのみの展開やファンコミュニティ内の情報流通に留まりがちだったキャンペーンが、リアルに踏み込んできたケースがリプトンのアンバサダーだったなと感じます。コンビニに該当商品が並んでいたときは、ナチュラルすぎて本当にびっくりしました。
作品を知らない人から見れば、「何かのアニメとコラボしているんだな」の商品ですが、ファンが見ると「ここまできたか・・・」と感動もひとしおなんです。下積みから始まったIDOLiSH7の作中内の人気に連動して、こちらの次元での影響度も高まっていく。アイドル達の成長に合わせて、見せかたもかなり作り込まれているんですね。
「本当のアイドル事務所のマネージャーのつもりで」
では、なぜアイナナはこのような展開を貫いているのでしょうか。
IDOLiSH7が表紙を飾った雑誌『CUT』2020年4月号にて、プロデューサーである下岡聡吉さんと根岸彩香さんは次のように語っています。
根岸「(アイドル創出のために気をつけていることは?に対して)ちゃんと生身のアイドルと変わらない売り方をする、というところですね。下岡さんからも『本当のアイドル事務所のマネージャーのつもりでやろう』という話がありました。」
下岡「関わる方にも、『僕たちは、4つのアイドルグループを支えていく、株式会社アイドリッシュセブンなんだ』という話は何度もしました。」
(『CUT』2020年4月号/37ページ)
下岡「──これは根岸がよく指摘してくれるんですけど、事務所という立場で、うちのアイドルがしない行動はさせることはできないという話は、脚本から入らせていただいているので細かくお話をさせていただいています。僕らにはひとつのアニメ作品としてのジャッジだけでなく、アイドル事務所としての判断もあるんです。」
(『CUT』2020年4月号/38ページ)
公式ウェブサイトでは、新しいビジュアルが登場するとき「描き下ろし」ではなく「撮り下ろし」の言葉を使うアイナナ。「アイドル事務所のマネージャーとして売り出していく」を徹底しているからこそ、各プロモーションや企業タイアップにも一貫性があるのだとうかがえます。
「購買体験までファンに寄り添う」がポイント
続いて、気になる企業タイアップの反響です。
日経XTRENDでは、「熱狂の“推し”マーケティング」として、アイナナの事例が紹介されています。
記事によると、森永乳業、ロート製薬ともに、想定以上の反響があったとのこと。「ファンの推しへの気持ちに誠実に向き合うことが大事」と語られています。
とくにロート製薬では、購買体験にも入念な設計がうかがえました。予約商品として販売し、購入タイミングも分散。XTRENDの記事でも触れられていますが、ブラインド形式(どのキャラクターが当たるかわからない、ガチャ式の販売方法)ではなく、自分の推しを選べる設計でした。親切!
IPタイアップでは、発売開始とともにECのサーバーが混雑したり、売り切れたりのケースが起きやすい傾向があります。買えなかっただけでもすごく悲しい上に、どうしても転売目的のオークションやフリマ出品が出てくるんですよね。せっかくステキなキャンペーンでも、「残念だった」の気持ちになってしまうのです。
そう考えると、IPタイアップでは「購入機会が平等」「手元に届くまで時間がかかっても、確実に手に入る」も重要な要素です。個人的には、極端な数量限定でプレミア感を煽るのも、「みんなで応援する」今の推し文化にはそぐわないと考えます。
もちろん対応に限度はあると思うのですが、購買まで気持ちよく体験できてこそ、企業タイアップのキャンペーンは心に残り、ブランド好感度へつながると思います。
今回はプロモーションを中心にまとめましたが、アイナナではアプリ以外のタッチポイントでも、ストーリーを感じられる仕掛けがかなり設計されています。ブランド作りの点でも、参考になる要素がたくさんです。
引き続き、アイナナの「あっ!」と驚き、嬉しくなるようなプロモーションを楽しみにしています。ちなみに私の推しは、三月くんと天にいです!
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MarkeZineで、ファンインサイトを捉えるマーケの連載を担当しています。ぜひご参考ください〜!