クローゼットを見直すようにプレイリストを見直す
本棚の上でうっすら埃を被っているマーシャルのポータブルスピーカーを見て、そういえば最近部屋で音楽聴いてないな、と思った。
今住んでいる部屋に引っ越してきたタイミングで、ふとスピーカーほしいなと思い、ちょこちょこ探していた時に偶然見つけて一目惚れした。
コンパクトな大きさで、深緑色の本体に、スピーカー部分にはMarshallのロゴが入ったちょっと渋めで、気づいたら緑色多めになっていた私の部屋によく似合いそうな素敵なスピーカーだった。
他の候補のものよりもちょっと値が張ったけど、どうしてもこれがよくて思い切って買ってみたら、見た目も性能も私の新生活をそれはそれは彩ってくれた。
バンドサウンドが好きな私にはとても合うものだったかもしれない。
スピーカーから聞こえるギターの音はどれもきらきらして聞こえる。
値段でつい妥協してしまうことの多い私だけど、よくぞ妥協しないで選んでくれた!と何度も自分に感謝した。
それからまだ半年弱だというのに、気づいたらこのお気に入りのスピーカーの電源を入れることがなくなってしまっていたのだ。
その代わりにPCで動画の音声を流していることが多くなった。
そんなに観たいものがあるわけじゃないのに。
知らず知らずのうちに音楽から遠ざかっている。なんでだろう。
そんな疑問を持つようになって、ある日車に乗っている時に、ふいに車内で流している音楽をイントロが流れた瞬間に次の曲に送っている自分に気が付いた。
ちょっとイントロを聞いて次の曲へ、ということを繰り返している。
流れてくる曲がなんかしっくりこないな、というのがイントロだけでなんとなくわかってしまう。
なんか今この曲の気分じゃないな、が続いて何曲も送った。
車で流しているプレイリストは以前部屋で流していたのと同じものだ。
自分の行動でやっと理解できた。
このプレイリストを作った時の自分と今の自分の好みにズレが出ていることに気づいていなかったから、なんとなく好みじゃない曲ばかりが流れるプレイリストを部屋で流す気になれなかったんだな。
それならば、どれだけ聞き続けても自分の心地よく感じる曲ばかり流れる最高なプレイリストを再編集すればいいだけだ。
そう思い立って、半日かけてプレイリストを見直した。
とりあえず今入っているすべての曲をイントロから一曲目のサビ終わりまで聴いてみる。
今の私にとってこの曲は心地いいのか、それとももうちょっとうるさく感じたり、ものたりなく感じたりしているのか、じっくり確かめる。
もうイントロだけでちょっと違うな、というのもあるし、サビ終わりまで聴いてみてもあんまり心が動かないものもある。
逆にイントロだけで心が華やぐものもあるし、サビまではうーん…と判断しかねる感じだったけどサビで心を掴んでくるものもある。
曲のどこかが私に快感をもたらすものだけを残して、それ以外はとりあえず外してみる。
なんか衣替えの時のクローゼットの整理をしているような気分だ。
半年に一度、今まで着ていた服をもう一度見直すあの作業。
年齢とともに少しずつ外見が変わって、それに伴って似合う服も、着たい服の好みも少しずつ変わってくる。
今の私にはどの色が、どの形が一番しっくりくるんだろう、好きだと感じるんだろう。
パンツが好きかな。スカートの方が好きかな。
鏡を見ながらじっくり吟味して、色んな合わせ方を考えたりしながら今の自分に合う、合わない、保留を決めていく。
そうやって、クローゼットの中には何を選んでも自分の好きなものばかりという嬉しい状態が出来上がる。
私はそんなにお洒落な方ではないので、合うものも合わないものも、お気に入りもイマイチも全部詰まったクローゼットでは服を選ぶのも億劫になってしまうだろうと容易に想像できる。
だから、クローゼットには似合うものとお気に入りだけ入れておく、という作業がどうしても必要だ。
そうしないときっと今より外に出なくなる。
音楽にも衣替えが必要だということを初めて知った。
自分が今欲していない音の多いプレイリストでは、私は音楽を聴くのも億劫になってしまうんだなと思った。
無意識の自分の反応はとても正直で面白い。
すでにダウンロードしていた曲の整理と、なんとなく今聴いてみたいなと感じた曲を新たに追加してみる。
やっぱりバンドサウンドが多い。
どれだけ見直してもACIDMAN、サカナクション、イエモン、Nulbarich、椎名林檎は欠かすことができない。
紅白を見ていて美しいなーとうっとりしたMISAMOの曲も新たに追加。
とにかく心の華やぐ曲をジャンルを問わず節操なく自由に入れてみる。
通勤の車の中でテンションを上げるために、米津玄師、King Gnu、MUCCの闘志を煽るような激しい曲も私にはとても必要だ。
そして、退勤の車で自分を癒すためにENT、大橋トリオ、サカナクションの穏やかで優しい旋律も欠かせない。
半年前は今よりもっと出勤するために激しい煽りが必要だったようで、ヴィジュアル系バンドの曲が結構たくさん入っていたけど、今の私にはそこまでの激しさはもうなくても大丈夫みたい。
半年前の私をガンガン煽ってくれてありがとう、と思いながらプレイリストから外していく。
結構時間のかかる作業だったけど、今の自分をじっくり見ていくことができてなんだか楽しかった。
こうしてたくさん時間をかけて自分と向き合って編み直したプレイリストは最高のものになった。
ずっと流していても自分の好きな曲しか流れてこない素晴らしさ。
激しいリズムや優しいギターの音、叫ぶように歌う男性ボーカルに、美しくセクシーな女性ボーカル、次から次へと節操なく色んなジャンルの毛色の違う曲が流れ続ける。
それが、プラスチックのおもちゃの指輪や、おばあちゃんからもらったきれいな宝石のついたネックレス、海辺で見つけたキラキラ光る天然石を全部一緒に詰め込んだ宝石箱のようでとても美しいなと思う。
プレイリストを見直してからというもの、またマーシャルのスピーカーは大忙しの日々だ。
私は行く先々にスピーカーを持ち歩いて、鼻歌を歌いながらキッチンに立ったりこうしてnoteを書いたりしている。
心地いい音が絶え間なく流れ続けるのは、想像以上に気持ちいい。
また生活に音楽が戻ってきてくれてほんとにうれしい。
また私が頻繁に曲を先に送るようになってきたことに気づいたら、プレイリストの衣替えをしようと思った。