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なんではんこを彫り始めたの?という話

あっという間に3月。今日は暖かいですね〜。

さてさて今日は、自己紹介も兼ねて、自分のスキマじかんではじめたはんこの活動についてお話しようかと思います。絵はんこ作家です、と自己紹介をすると、聞かれる可能性が高い質問ナンバーワン、「なんではんこをはじめたの?」に答えてみようかと思います。ちょいと長いので、順を追って書いていきます。

私がはんこを彫り始めたのはたしか2008年頃。ちょうど10年くらい前なのですね。当時少し消しゴムはんこというものが雑貨的に扱われはじめてちょっとしたブームになっていたときでした。なんてことない、流行っていたし、なんだかちょっとやってみたい。そんな気軽な気持ちで始めたのでした。
やり方などを調べてみると、ふむふむ。どうやら、はんこのもととなる図案としては、一から絵を描くか、あるいはトレーシングペーパーで、写真などをなぞって図案としてもいいらしいと知る。これなら私もできるかもしれない。家に弟が中学時代に買わされた立派な彫刻刀セットもあったし、買ったものは消しゴムはんこ用の消しゴムと、ちょっと大きめのカッターのみ。スタンプインクも少し家にあった気がする。

その当時私は、新卒ではいった会社の新入社員でした。勤務実態としてはややお黒めなもの。毎日ではないものの日々終電近くまで働き、朝9時から勤務(時々遅刻)という生活スタイル。美術の勉強もしたことがないどころか、日頃絵を描く習慣もなかった。とにかく仕事はいっぱいいっぱいだったけれど、会社以外で色々なことをしたくて、色々なコミュニティに顔を出してみたり、学生時代から続けていたバンド活動も継続していました。忙しさのストレスへの反動と、ありあまる若さがさせた行動だったのでしょうか。

厳密なことは覚えていないのですが、その頃何かの版画か、日本画をどこかの美術館で見た。それは何かの幾何学模様だったように記憶しているのですが、海の波を、庭園にある枯山水のような、そういう模様で表現していた。当時絵に苦手意識があった私は、ああ、水をこういう風に表現してもいいんだな、と背中を押してもらったような気持ちになった。
その当時読んだばかりの「老人と海」のシーンの情景が、なんとなくふとイメージと重なり、思いつきで図案を描き、模様のようなはんこをつくった。

当時は思っていた以上に自分の描いた通りの図柄にならない仕上がりとなった。だけど、それが妙に心地よかった。鉛筆で描いた線とは違う味わい。色を変えてみるとまったく雰囲気も変わるし、はんこを組み合わせることで世界観も変わる。

※初期作品は保存状態が悪いものもあるため、見づらくてすみません。今なら払いのけているはずの消しカスのあとまでそのまま入っています。

軽く彫刻刀で削っただけなのに、それにインクをつけておすだけで絵になる。
自分の描いたへったくそな(と思っている)絵が、急に息づいた感じがした。

アクティブに動き回っている日々の反動で、じっとして無心になれる瞬間が心地よく、またテレビを見たりしながらも彫ることができる気楽さが私を夢中にさせたのかもしれません。

まだ誰かに自慢する勇気もなく、大々的に発表はしなかったものの、こっそりとひっそりと、写真を共有するflickrというサイトで公開をしてみました。
公開はするくせにビビリなので、せっせとアップしつつ、積極的に広めもせず。上げっぱなしになって少し放置して半年ほど経った頃、友達が紹介してくれた友達と会った時に、突然こんなことを言われた。

「はじめまして。あ、あの、はんこ見てます!すっごいかわいいよね!」

こう言ってくれたのが、現在ジャズピアニストとして大!!活躍している栗林すみれちゃんなのであります。

あらかじめSNSかどこかで友人伝いに見つけてくれたのであろう、私のひっそりとしたサイトを、はんこを、見てくれる人がいて、そして褒めてもらえた。はんこをあげた本人たち以外の人に褒めてもらえたことは、私の大きな自信になった。とてもとても、嬉しかったのです。ああ、まだはんこを続けてもいいんだなと思えた瞬間でした。

彼女とはのちに意気投合し、家で二人で一緒にこたつを囲みながらはんこを彫ったことも。
そして彼女にもはんこをプレゼントしました。
楽しそうにピアノを弾くすみれちゃん。彼女の天真爛漫さに、私は背中を押してもらったのです。(今はだいぶ髪型が変わっております)

こうして私のスキマじかんは、はんこで少しずつ埋められていくようになったのです。

スキマじかん研究所報告:

何かをやり始める時には、結構「逃避」が一つの理由にある気がする。つらさの反動で始める何かは心を救うことがある。「やる必要のない」何かに取り組むことは、自分の楽しさとか好きとかに向き合う大事な時間なのだ。
苦手だと思っていたものが違う形で表現できた喜びは大きい。それを人に褒められるとモーレツに嬉しくて、ときに調子に乗りすぎる。
絵が描けなくても、はんこは彫れる。

絵はんこ作家「さくはんじょ」主宰のあまのさくや。誰かの「好き」からその人生を垣間見たい、表現したい。そういうものづくりをしています。はんこの作品は、instagramでもご覧いただけます。

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