なぜ自然農でお花を育てるのか
私は農家の端くれとして、15年以上に渡り、自然農でお花を育ててきました。よく問われることに、食べるものでないお花に「なぜ無農薬なのか」、という質問があります。実際は、鑑賞用のお花のみならず、食用花(エディブルフラワー)も栽培していますので、「食べるものでもある」のですが、少しお話をさせてください。
私も、最初は、農薬を使用しなくては、美しいお花を栽培することは出来ないと思っていました。ところが栽培研修中に、土壌消毒の際に用いていた劇薬で薬害を被り、私自身が農薬を受け付けない身体となりました。独特の化学薬品の匂いを嗅ぐだけで、体調が悪化してしまうようになりました。そうなると、究極の二択を迫られます。一つは、お花づくりを断念するか。もう一つは、農薬に頼らないでお花づくりをするか。人生を掛けて移住した身としては、安易にお花づくりを断念したくないため、農薬に頼らないでお花づくりをしよう・・・と決意しました。環境のため、とか、消費者を思って、とか、そういう美しい理念ではなく、単に自身のため、でした。
ところで、「自然農」には明確な定義がないように思いますが、一般的には無肥料、無農薬で栽培する農法を指しているように思われます。肥料や農薬は、使う、使わないの二択で考えるのは、ある意味わかりやすいかと思います。ただ、使わないから自然農、というのはいささか短絡的のような気がします。
使う、使わないは、方法論の相違であり、各生産者の目指すところであったり、経営的なものであったり、様々な理由で個別なものになります。私個人の立場ですと、他者の農家が何を使うが使うまいがどうでもよく、それぞれの思うところを貫けば良いと思っています。
写真の本は、2019年に出版された農文協さんの『最新農業技術・花卉Vol.11』で、私も一筆記事を掲載させていただいております。当園の自然農の花栽培について小文を書き下ろしています(私の自然農を詳しく知りたい方は、ぜひご一読ください)。私の思う自然農は、使う、使わないの方法論の前に、人間も含めた生態のバランスが上手く取れている状態で農業を営むことだと考えています。
そもそも農業は人の手が入ることからスタートしています。放ったらかしと笑っていたとしても、そこに種を播いたり、苗を植えたりするのは、そこに育てたいと思う人であり、そもそも畑とは人為的なところです。ただ人の関わる度合いが、農法の相違で変わってくるように思います。方法論の話は、同じ農業の分野の、人間と自然界の関わり度合いの違いであり、その違いは先に記したように目指すところの違いであったり、経営的な方向性の相違であったり、各自事情は様々です。だから己の立場を主張すれば、違うものを叩こうとして喧嘩になるのです。
私の営む畑はこういう状況だから、このような農業をしています、と主張ではなく、状況を客観視して、世の中に伝えていけば良いのかと思います。主義主張は不要な諍いを招くことがありますので、思い込みや決め込みは可能な限り排除していきたいと、私は思います。
☆Suki Flower Farm 鈴木 義啓