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映画『天外者』北浜に佇むアノ人

あらすじ

動乱の幕末。薩摩藩士・五代才助 (後の友厚)は長崎の海軍伝習所に学び、その類まれな才能で天外者 (てんがらもん)と呼ばれ将来を嘱望される。やがて坂本龍馬、岩崎弥太郎、伊藤博文ら志を同じくする若者たちと出会い親交を深めていく。

監督:田中光敏

キャスト:三浦春馬、三浦翔平


北浜に佇む大きな銅像。

大阪に来たばかりの頃はこの銅像の人物が何者なのかまったく分からなかった。

銅像の大きさから察するにかなりの偉人であるオーラを感じる。

見た目もナイスガイ。

銅像の背後にあるのは『大阪取引所』だ。

名前は五代友厚。

誰だろう?

北浜の地下鉄駅に降りると、駅のホームに『五代友厚』についての解説があり、それによって僕は銅像の人物が『帝都物語』に登場した渋沢栄一と並び称される大阪の経済人である事を知る。

帝都改造計画を指揮した渋沢翁に匹敵する大阪の大物経済人。

それだけで興味が湧く。 
 
その後大阪歴史資料館や造幣局に足を運ぶと、明治維新後の大阪は『大大阪時代』と呼ばれていて、“東洋のマンチェスター”を目指し、この土地から日本の近代化が始まった事を知った。

大久保利通が大阪を日本の首都にしたいという遷都案を出していた事なども分かり、僕の頭の中に東京に変わる幻の帝都が浮かび上がる。

雪洞で作った地球儀のアイデア、イギリス海軍を1人で制圧した武勇など、映画『天外者』で語られる五代友厚の人物像とエピソードがどこまで真に迫ったものかはわからない。

ただ観念をベースにして生きる武家社会の人間が、損得勘定をベースにして生きる合理主義的な商人社会に乗り込み、自分の理想を堂々と熱弁するシーンが僕的には一番盛り上がった五代友厚のエピソードだ。

出来ればそこからの活躍をもっと掘り下げて欲しかった。

五代友厚の功績を利用した大阪維新のイメージアップ戦略なのか、商人に扮した松井元市長と吉村府知事がちゃっかり映り込んでいるカットなんかも大阪維新の商人根性と野望が垣間見れる感じがして面白い。

僕は過去の大阪を知って未来の大阪を想像する時、大阪人の商人的価値観が都市の発展にどのようなメリットを与えて、どのようなデメリットをもたらすのか?

そして誰が恩恵を受けて誰が犠牲になるのか?を念頭におく。

大阪都構想とSDGSが実現した国際都市が生まれた時、そこに住む僕たちの価値観はどのように変わって、どんなドラマを展開するのか?

そこに最大の関心を持って、自分が住む現在の大阪を観察している。

都市の発展にかまけて、まつろわぬ犠牲者たちを現代の大阪人がないがしろにした時、この大都市は今日までの繁栄が嘘であったかのような深刻な事態を迎えて、いずれ衰退し、広大な墓陵と化す。

『帝都物語』では偉人たちの銅像と桜の木が東京の地下にいる地霊たちを封じる重要な役目を果たしているが、北浜に佇む五代友厚の足下にも、ひょっとしたら大阪に仇をなす何か得体の知れないものが眠っているかもしれない。

五代友厚自身を祟り神にして、現大阪維新の政治家たちにぶつける手もある。

大阪の人たちも知らない秘密を探り出してあれこれ想像し、自分の創作に活かすのがとにかく楽しい。

大阪がどんな都市になっても、僕は自分の作品を書き上げたらそれで満足だから、深刻な事態を迎える前になんとか完成させて、今後の大阪と運命を共にしたいと思う。