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サイケデリック治療はどのように作用するのか?

近年、サイケデリック治療、特にpsilocybin(シロシビン)を用いた治療が、うつ病やその他のメンタルヘルス上の課題に対する新たな治療法として注目を集めています。この中で、トロント・メトロポリタン大学のZeifmanらの研究チームは、体験回避(不快な体験を避けようとする傾向)の低減が、サイケデリック療法の治療効果の重要なメカニズムである可能性を探究しました。

この研究では、大うつ病性障害(MDD)の患者59名を対象とした二重盲検ランダム化比較試験が実施されました。参加者は、サイケデリック療法群(psilocybin 25mg を2回投与 + プラセボを6週間)とエスシタロプラム群(psilocybin 1mg を2回投与 + エスシタロプラム10-20mgを6週間)に無作為に割り付けられました。

研究の結果、サイケデリック療法群において特筆すべき発見がありました。体験回避の減少を通じて、ウェルビーイングの向上、うつ症状の軽減、自殺念慮の減少、特性不安の低下といった広範な治療効果が確認されました。さらに興味深いことに、これらの効果は「つながり感」の増加によって媒介されていることが明らかになりました。対照的に、エスシタロプラム群ではこのような媒介効果は観察されませんでした。

また、サイケデリック体験の質的な側面についても重要な知見が得られました。特に「自我溶解」の経験と「心理的洞察」が、体験回避の減少を予測する重要な因子であることが示されました。これは、サイケデリック療法における体験の質が治療効果に直接的に関連している可能性を示唆しています。

この研究の臨床的意義は非常に大きいと言えます。体験回避の減少という明確なメカニズムが特定されたことで、サイケデリック療法のプロトコル最適化への道が開かれました。さらに、このメカニズムは横断的な性質を持つため、他の精神疾患への応用可能性も示唆されています。

しかし、研究にはいくつかの限界も存在します。比較的小さなサンプルサイズ、自己報告に基づくデータ収集、時間的因果関係の推論の難しさなどが挙げられます。これらの限界は、今後の研究でさらなる検証が必要な領域を示しています。

Zeifman, R. J., Wagner, A. C., Monson, C. M., & Carhart-Harris, R. L. (2023). How does psilocybin therapy work? An exploration of experiential avoidance as a putative mechanism of change. Journal of Affective Disorders, 334, 100-112. https://doi.org/10.1016/j.jad.2023.04.105

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