【ブラジル対ベルギー】名将による計画された戦術変更
ベルギー代表のマルティネス監督は、ブラジル代表の弱点を狙い撃ちにして格上を撃破した。今回は、どのようなゲームプランのもとにジャイアントキリングを成し遂げたのかを詳細に解説したいと思う。
ベルギー代表は左右非対称な変則4-3-3。GKクルトワ、DFラインは右からムニエ、アンデルワイレルド、コンパニ、ヴェルトンゲン、3センターは底にヴィツェル、右にフェライニ、左にシャドリ、前線は右にルカク、左にアザール、1トップにデ・ブルイネ。
左サイドアタックではデ・ブルイネ、アザール、シャドリのトライアングルによるローテーションアタックを採用していた。彼ら3人が自在にポジションを入れ替えることでマンマーク志向の強いブラジル代表の守備を切り崩す狙い。
守備時は上記の通りの配置が多かったが、攻撃時はデ・ブルイネが中盤へ下がり、代わりにアザールが戦線、シャドリが左ウイングの位置に入るパターンが主だった。
守備が強いパウリーニョのいるブラジル代表の右サイドをあえて狙うことで、弱点のマルセロ、コウチーニョのいる左サイドにルカク、フェライニというパワフルなフィニッシャーでぶん殴る作戦だ。
守備も左右非対称。左サイドを攻められた場合は、積極的に前からプレッシャーをかけ、DFを背負ってのプレーを苦手とするウィリアンを密着マークで封じ込める。
逆に右サイドを攻められた場合は、引いてスペースを消し、マルセロがオーバーラップしてもルカクはついていかない。デ・ブルイネ、アザールを代わりに下げて、ルカクにマルセロの背後のスペースをカウンターで狙わせていた。
一方のブラジル代表はいつもどおりの4-3-3。GKアリソン、最終ラインは右からヴァグネル、チアゴ、ミランダ、マルセロ、アンカーにはフェルナンジーニョ、右にパウリーニョ、左にコウチーニョ、前線は右にウィリアン、左にネイマール、1トップにガブリエル・ジェズス。
ダイナミズム重視な攻撃スタイル。前線と中盤の選手が上下動してマークを外し、個人技と即興的なコンビネーションでサイドの突破を狙っていた。
特に左サイドのネイマール、コウチーニョ、マルセロのトライアングルは強烈で、ベルギー代表の右サイドムニエ、フェライニの巨漢コンビでは対応しきれず、何度も切り崩されていた。
ベルギー代表は渦巻き攻撃に自信があったためかポゼッションにこだわり、ルカクというターゲットマンがいるにもかかわらず、無理につないで攻めようとしてブラジル代表のハイプレス&ショートカウンターにハマっていた。
ベルギー代表は前半10分に戦術変更。3-4-3へフォーメーション戻し、ルカクを1トップに置き、右アザール、左デ・ブルイネ、左WBにシャドリというオーソドックスな形に変えた。
とはいえオーソドックスだったのは最初だけ。今度はデ・ブルイネ、ルカク、アザール、フェライニの4人でローテーション攻撃。デ・ブルイネの中盤へ下がる動きに合わせて渦の動きでブラジル代表の守備を撹乱し、フェライニにトドメを刺させようとしていた。
前半13分にCKからフェルナンジーニョのオウンゴールでベルギー代表が先制する。
ベルギー代表はまたまたフォーメーションを変更。最初の布陣からデ・ブルイネがよりMFの位置に下がった4-3-1-2。ルカクとアザールを前線に残し、ブラジル代表の両SBの背後を速攻で狙う。
ルカクとアザールをカウンター要員として前に残すとブラジル代表のSBがフリーになるが、サイドを切り崩されても単純にクロスを入れられる分は、中央で跳ね返せるという計算だろう。
攻撃時にはシャドリが左サイドに張り出し、デ・ブルイネとアザールがポジションチェンジで再びブラジル代表の右サイドを撹乱する。
対して単純にクロスを入れても効率が悪いと判断したブラジル代表は、積極的にミドルシュートを放っていく。守備力とアジリティに劣るフェライニのところから狙い撃ちだ。
前半31分、CKのカウンターからデ・ブルイネのゴール。コウチーニョが途中で戻るのをサボり、デ・ブルイネ、ムニエと1対2になり孤立したマルセロのミスもあり、ベルギー代表の追加点が決まった。
この試合でルカクのマークを担当していたフェルナンジーニョがフィジカルの差に苦しみ、前線に基点を作られてしまっていた。より大柄な体格のカゼミーロならば、もう少しなんとかなったかもしれない。
さすがに2失点したことでブラジル代表の攻撃陣形が変わる。右SBヴァグネルが最終ラインに残ってアザールをマークし、3バックとフェルナンジーニョのダイヤモンドでカウンターに備え、前の攻撃陣が流動化して攻める3-1-6化していた。狙いは敏捷性に問題のあるフェライニとヴェルトンゲン。
後半に入るとウィリアンに代えてフィルミーノを投入して基本布陣を4-4-2へ。より流動性を高め、4-3の薄い守備ブロックで守るベルギー代表を押し込み、パス&ムーブで振り回す。ブラジル代表の機動力にベルギー代表は対応しきれない。
右サイドにウイング然としていたウィリアンの代わりに、プレーレパートリーの豊富なガブリエル・ジェズスが入ったことによって、ヴェルトンゲンが守備の的を絞れず、完全に翻弄されてしまっていた。
2得点以降はベルギー代表のアタッキングトリオもブラジル代表のダイヤモンド・ディフェンスの前に沈黙。一方的に攻められてしまっていた。
ベルギー代表の3人は運動量が少なく、密着マークに晒されると厳しい。それにしてもマンマーク不能なルカクをマンマークで抑え込めるミランダはいろいろとおかしい。
試合のペースを握るブラジル代表だが、後半15分ほどで運動量が低下。ポジションチェンジが停滞し、なかなかチャンスを掴めなくなる。
ブラジル代表はドウグラス・コスタとレナト・アウグストを投入し、4-1-4-1にフォーメーションを変更して攻撃の活性化をはかる。
そして後半31分にコウチーニョからのクロスをゴール前に飛び込んだレナト・アウグストがヘディングで決めて1点を返す。ベルギー代表はフェライニ、ヴェルトンゲンという分かり切った弱点から攻め崩された。
ベルギー代表もカウンターが封殺され、このまま引いて守りを固めてもジリ貧だと、DFラインを押し上げてハイプレスを敢行。しかし奪いきれずに背後のスペースを突かれて余計にピンチを招く。
攻撃面ではロングボールのターゲットにミネイロに消されたルカクを諦めてフェライニを高い位置に上げるが、見え見えすぎたためフェライニがミネイロに潰されていた。攻守にベルギー代表が劣勢。
たまらずベルギー代表はシャドリに変えてCBヴェルメーレンを3バックの左に投入。代わりにヴェルトンゲンが左WB、デ・ブルイネが左インサイドハーフに入った3-5-2にフォーメーションを変更した。
しかし、ベルギー代表は引いて守りを固めるのではなく、相変わらず前に出て戦う姿勢を示す。だが、それをあざ笑うようにブラジル代表がカウンターで強襲。試合の主導権を手放さない。
続いて後半42分にルカクに代えてティーレマンスを中盤に入れ、3-5-1-1へ移行。アザールが1トップ、デ・ブルイネがトップ下という速攻重視の布陣。
試合は効果的に時間を潰したベルギー代表が、そのまま1-2で勝利した。
ベルギー代表のマルティネス監督は、両チームの長所と短所を把握して的確に攻め手を替えてブラジル代表を翻弄し続けた。一方のブラジル代表は、4年前に1-7で大敗したドイツ代表戦の反省を生かせず、同じようにローテーション攻撃によって守備を切り崩されてしまった。チームの戦術的柔軟性の差が個々のクオリティの差を上回った非常にタクティカルな試合となった。